クロユリ

下野一

第1話

昨日からどうも体の調子が悪い。

40度を超える高熱が出ている。

そして、胸、腰、腹、頭に激痛が走っている。

このまま死んでもおかしくないのではと思ってる。

死ぬ前に遺言状でも書くか。

俺の名前は、水無月 勇(みなづき いさみ)、高校1年だ。 両親は、二人とも海外出張で昨日から家にいない。

しかも一年以内に帰ってくるかどうかもわからない。完全に一人暮らしだ。病院に行っても、原因不明だから大学病院で診てもらった方がいいと言われて解熱剤と鎮痛剤を渡された。明日、市内にある大学病院に行く予定だが、明日があるかもわからない。時間が経つにつれて痛みはひどくなっているし、もうダメかもしれない。意識もさっきから朦朧としているし、この遺書を書き終える自信すらない。最後に、これだけは書いておこう。


お父さん、お母さん、公立高校に僕を入れるために塾に通わせてくれてありがとう。でも、合格した高校の入学式に出ることもなく僕はあの世に行きます。部屋の中にあるアニメグッズは全て売ってもらっても構いません。こんなに早くあの世に行ってしまう親不孝者の僕を許して下さい。

水無月 勇


もう意識を保つのも限界だった。薄れゆく意識の中でベッドの柔らかさだけが残っていた。


………

嫌な夢を見た。暗闇の中で誰かがすすり泣いているのをどうすることもできずただ聞いているだけの夢。何時間も、何日も経ったような錯覚に襲われる。しかし、なんの変化もなくその夢は終わった。


目覚ましの電子音で目がさめる。もう朝だ。どうやら、熱も痛みも何処かへ行ってしまったようだ。熱があったからあんな夢を見たのだろうか。溜息をついて体を起こす。

 すると長い髪がファサッと顔にかかった。

 誰かがいたずらでやった、流石にそれはないと思った。昨日から一度も家から出てないし窓も開けてない。アリ1匹も通さないくらいの防犯だったはずだ。

一体何が起こっているのか、顔でも洗って混乱する頭をリフレッシュさせようとベッドから立ち上がる。

姿見に自分の姿が映る、はずがそこには一人の少女が映っていた。驚いて目を見開くとその少女も目を見開いた。手を顔に当てると少女も顔に手を当てた。間違いない。自分の体なのだ。丸っこい目、すっと細い鼻、顔の整った輪郭、そして男物のパジャマを着ているのにはち切れそうになっている胸の膨らみ。

結論、原因はわからないが、女性の身体になってしまったのは間違いない。

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