Chapter 50 逃亡中の一幕
ーージュノーたちが安眠屋を包囲しているのと同時刻、凛たちは北へ向けて移動をしていた。特に焦る様子もなく平常運転。ルドルフに無理をさせないように凛とルナはゆったりと進む。その後方上空にはルキナとアナスタシアが箒に跨り空をぷかぷかと浮いている。パッと見た限りだとピクニックにでも行くような雰囲気だ。だが忘れてはいけない。彼女たちは逃亡者なのだ。
「ルドルフ、大丈夫?疲れてない?」
俺はルドルフを気遣う。なんだかんだで4時間近く俺とルナを乗せながら走ってる。いくらルドルフ的にはマラソンペースだといっても疲れていない訳がない。ルドルフは俺の大切な相棒なんだ無理はさせられない。
「ブルルルル」
だがルドルフは『問題ない。こんなの朝飯前だ。』と言わんばかりの目を向けながら唸る。馬の体力が凄いのかルドルフが凄いのかはわからないけどまだ大丈夫というならルドルフに甘えよう。本気でヴィルトシュヴァインの連中が追って来たら面倒だからな。
「ありがとうルドルフ。本当に疲れたら言ってね。」
「ヒヒーン」
サンキューなルドルフ。最高のニンジンを手に入れてやるからな。俺はお前の為ならなんだってやってやる。ルドルフふぉーえばー。
「見切り発車みたいになっちゃったけどこれからどうしよう。漠然と北としか決まってないよね。」
そうなんだよ。北に行くとは決まっても行く当てはない。意外とそれでは困るよな。旅といえば旅らしいけど。
「そうよね。私も北ってあんまり知らないのよね。ギュルテルティーア帝国の属国になっているシュティーア国があるだけでその先は別の大陸になるわ。」
ほう、その国がこの大陸の北の果てということか。ならそこから他の大陸に渡る術があんのか?それならもう別の大陸に行った方がいいだろ。わざわざ別の大陸まで追って来るって事はないんじゃないか?少なくともヴィルトシュヴァインには無いと思う。ギュルテルティーアはルナに固執してれば可能性はありそうだけどヴィルトシュヴァインと戦争するんだからそんなに人員は割けないし実力者を追ってには選定出来ないだろう。少なくともザイル将軍が来る事はあるまい。ザイルが来たら正直どうなるかわからんからな。俺とルナとルキナの3人でやっても勝てる保証は無い。やはり別の大陸に行くのがベストだな。
「ねぇルナ。そのシュティーアから別の大陸に渡る手段ってあるの?」
「船が出ているから行けるわよ。ドビの方が早いんだろうけど空にはドラゴンがいるからね。」
「ドラゴンって昼間は平気なんじゃないの?」
なんか夜はダメみたいな事ドリッドダンジョンの所で聞いたような気がする。それなら昼間に行けばいいんじゃないだろうか?
「大陸を隔てている海の上空には昼間でもいるのよ。だからドビで行くのはムリね。」
なんか見えない力でも働いているのだろうか。ドラゴンを倒せるなら行けるんだろうが普通はしないって事だよな?現にルナにその発想はない。ルナなら倒せるんじゃないだろうか?ダメなのかな?
「ドラゴンを倒すっていうのはダメなの?ルナならいけんじゃない?」
「ダメよ!!何言ってるのリン!?」
「どうしたのルナ?なんで怒ってるの?」
どうしたんだろう。ドラゴンを倒すって話をしたら背後にいるルナが怒っている。
「そ、そうですよリンちゃん!?ダメですっ!!」
「いくらリンさんでもそれはダメです!!」
アナスタシアとルキナにも怒られてしまった。何か俺はやらかしたのだろうか。
「どうして?ちょっと意味わかんないんだけど。」
俺がそう言うとルナたちは微妙な顔をしながら何かに気づいたような雰囲気に変わる。
「そっか、リンは知らないんだね。ごめん、教えなかった私たちが悪いね。ドラゴンは少なくとも私たちが今いるメルクーア大陸では神聖視されてるの。」
大陸にも名前があったのか。それにドラゴンが神聖視?東方にいる龍神クズリューの事も神聖視してるのか?妙だな?邪神を復活させようとしてるのに神聖視?それとも龍神ってもう一匹いるの?よくわからんな。
「だから殺す事はもちろん攻撃を加える事だった許されないわ。これは道徳的な意味でね。これに関してはギュルテルティーアもヴィルトシュヴァインも関係ない謂わば鉄の掟ね。」
「ドラゴンが襲って来ても?」
「ドラゴンが襲って来る事はないわ。私たちが何かをしない限り。それと海を渡る時に空を飛んだり、夜に飛行しない限りね。」
「え?どうして?」
なんで海を渡るのに空路使うと攻撃してくんの?それになんで夜は攻撃してくんの?
「どうして?どうしてかしらね?」
なんだ?なんか変じゃね?疑問に思わないのか?それにこの質問のルナの回答もなんか変だぞ。ハッキリしないっていうか適当な感じだ。コレってアレだよな。なんかほじくっちゃいけない系のやつだろ。術式かけられててどうのこうのって展開みたいなのじゃない?うん、もうこの話やめよう。俺は何も知らない。聞かない。興味持たない。
え?イベント発生させろって?うるせえ!!余計な事して死んだりしたらどうすんだ!!厄介ごとはあのクソ女神だけで十分。俺は余計な事しない。はい、おしまい。
「とりあえずシュティーアに行こうか。それでその先にある大陸に行こう。シュティーアまでどれぐらいかかるの?」
「そうね、このペースならあと1週間ぐらいじゃないかしら?」
遠っ!?そんなに遠いのシュティーア!?あー、でもおかしくないのか。クソ女神は大陸の広さが地球並みって言ってたもんな。馬での移動なら1週間かかってもおかしくない。むしろ早い方だ。一月かかったって不思議じゃないもんな。
「あのさ、その途中に町ってあるよね?」
キレカワがセミオートで話を続けている。なんだ?なんの話があるんだ?
「ここからだとシュティーアまで町は無いわね。」
「え?ないの?」
「ええ、ないわ。何か問題?」
いや?特に問題は無い……いや!!
「問題アリアリでしょ。」
問題アリアリだろ!!!
「え?何かある?」
ルナがアナスタシアとルキナの方へ目をやるがアナスタシアもルキナも不思議顔で首を傾げている。コイツら何もわかっていないんだな。事の重大さがまるでわかっておらん。
「あるよ。ありまくり。お風呂どうするの?」
3人が『え?』って顔してやがる。お前らなんだその顔はまだわからないのか?風呂だよ風呂。風呂入れないでしょ。まったく何にも考えてないんだから。
「お風呂って……そりゃあシュティーアまでは我慢なんじゃない?」
「は?何言ってんのルナ。お風呂だよお風呂。1週間もお風呂抜きなわけ?」
「それは仕方ないじゃない。町がないんだもの。」
「見損なったよルナ。そんなだからいつまでたっても次女なんだよ。」
「ちょっと……いつまでたってもってどういう事よ……」
ルナが不満そうなオーラを出してるがそんな事俺の知った事じゃない。ていうかそれどころじゃない。1週間も風呂ナシとかありえないんだけど。ドリッドダンジョンの所で1日入れないだけでもありえなかったのに。
「ちょちょっと!?ケンカはダメですよっ!?」
アナスタシアがアワアワした感じになってるが知った事じゃない。こっちにとっては死活問題なんだからな。
「ケンカなんかしてないよ。ルナは次女だなって言ってるだけ。」
アナスタシアとルキナがルナの顔と俺の顔を交互に見ている。ふん。別に俺は悪くない。
「……はあ。しょうがないわね。お風呂は無理だけど夜には身体拭いてあげるからシュティーアに着くまでは我慢しなさいよ。」
俺はそのルナの言葉にいち早く反応する。確認の為だ。確認をしなければならない。
「それってルナが私の身体を拭いてくれるって事?」
「そうよ。」
「ちゃんと隅々まで?」
「はいはい。ちゃんと隅々まで。」
「ふーん、悪くないかな。」
「機嫌直った?」
「まあね。ちゃんと毎日だよ?」
「何よ甘えちゃって。わかったわよ。」
「フフ、私がルナの事も隅々まで拭いてあげるね。」
「ええ、お願いするわ。」
これは合法的にエロいことするチャンスじゃないか。隅々までやっていいってことは穴の穴までやっていいというわけだ。それなら悪くない。風呂ぐらい我慢しよう。ウヒヒ。
ーーアナスタシアは凛とルナの様子を見てホッと胸を撫で下ろした。
「良かった!2人ともケンカはしてないみたいだねっ!」
ーーアナスタシアはルキナに声をかけたつもりだったのだが返答がない事に違和感を感じ、身体を傾けて前にいるルキナの顔を覗く。アナスタシアは見た事を後悔した。ルキナの顔が笑ってないどころか目が据わって歯をギリッと噛み締めながら凛たちを睨みつけているのだ。
「……なんで?リンさんの身体を拭くのは私でしょ?それにリンさんに拭いてもらうのは私じゃない。なんで?なんでなの?ルナさんがいいの?私の身体に魅力ないから?ルナさんみたいに無駄に下品な身体ならいいの?ねえ、どうして?ねえねえねえ。」
ーーそれを見てアナスタシアは心底早く到着しないかな、という気持ちと、これから先大丈夫だろうかという不安な気持ちでいっぱいだった。
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