Chapter 49 初めての逃亡

パフェを食べ終えた俺たちは安眠屋へと戻って来た。ルキナはあの後キレカワが外の異常に気づき手招きをしてスイーツ店の中へと入れて隣へ座らせたらおとなしくなった。まあ、ただ座らせただけじゃないけどな。耳元で甘い言葉を囁いて騙しただけだけど。そのうち本当にルキナに刺されるような気がする。



「さてと。とりあえず準備は出来たし、宿にある物も回収したからそろそろ出ようか。」



時間を見るともう日付が変わりそうな頃合いだ。ジュノーたちが来るまでそう時間があるわけではない。少しでも遠くに行って痕跡を消しておこう。



「ねえ、リン。気づいたんだけどさ。」



部屋を出ようとした時にルナが口を開く。

なんだ?あんまり時間無いから話は簡潔にしてくれ。



「うん、何?」


「ルドルフも連れて行くのよね?」



当たり前だろう。なんで俺の愛馬であるルドルフを置いていかないといけないんだ。ルドルフとはもう心が通った絆がある。ルナを助け出した時だってルドルフでなければ隠し通路まで出張ってくれたりしないぞ。



「もちろん。」


「ルドルフに乗って移動するのよね?」



何をそんな当たり前の事を言ってるんだ?ルドルフに乗らないで歩いていたらキチガイじゃないか。



「当然じゃん。」


「4人もルドルフに乗れなくない?」



………あ。やべ。それ考えてなかった。いくら女4人とはいえ体格の良いルドルフだってそれは無理だ。何より狭くて俺も無理だ。身動き取れなくてケツが痛くなる。痔になっちゃう。そういえば痔になったらどうなるんだろう。この世界に痔の薬とかあるんだろうか。無かったらどうなるんだろう。別に日本で痔だった訳じゃないけど一旦気になったら余計な事まで考えてしまう。今度探しておこう。



「私もそれは思ってました。でもリンちゃんなら何か考えがあるのかなって思ったから言わなかったです。」



おいアナスタシアよ。気づいたんなら言えよ。自慢じゃないけど俺はそんな事にまで考えは及ばないぞ。ルキナとルナとのレズセックスの事しかほとんど頭にないからね?



「全然考えてなかった。それじゃ今から馬を買いに行こうか。」



それしかないもんな。とりあえず金はある。それなら馬を買えばいいさ。どうせなら雌の方がいいのだろうか?ルドルフも彼女欲しいよな?



「それはマズいでしょ。」



ルナに却下された。何故だ?何がマズいんだ?



「え、なんで?」


「こんな夜中に馬なんて買いに来たら何事だって思われて通報されるわよ?通報されなかったとしても馬を連れてこんな時間に歩いてたら兵士に絶対呼び止められるわ。」



確かに。そんな怪しい奴は絶対職質される。そして連行され、俺たちはヴィルトシュヴァインの兵士たちに捕まり、拷問という名のエロい事を屈強な男たちに代わる代わるマワされ続けるんだ。そんなの絶対嫌だ。



「ダメじゃん。もう仕方ないな。兵士たちとモメたらぶっ飛ばして逃げよう。」


「ダメですよっ!?却下です!!却下っ!!」



アナスタシアに怒られてしまった。元はと言えばアナスタシアが言わないのが悪いんじゃないか。これは後でお仕置きが必要だな。風呂でまたセクハラしてやろう。もう指ぐらい挿れてやろう。



「あの、それなら特に問題は無いと思います。」



静観していたルキナが手を挙げながら問題無い宣言をし出した。



「兵士たちをぶっ飛ばすのが?」


「違います…!?それは問題あります…!!」



やはりダメなんじゃないか。ルキナよ、今は遊んでいる場合じゃないんだぞ。全くけしからん。後で罰という名のご褒美をあげなくちゃならんな。



「じゃあ何が?」


「私、空を飛べます。」



とんでもない事言い出したんだけどこのヤンデレヴァンパイアガール。え?飛べるの?凄くない?てか飛べるならドビなんて借りなくてよかったんじゃない?何で最初に言わないの?やっぱお仕置きだな。



「言葉の通り空を飛べるって事?」


「はい。凄い速度や高度は出せませんけどルドルフと同じぐらいの速さでなら大丈夫だと思います。ただ、空を飛ぶのには箒が必要なので箒を手に入れる必要があります。でもそれはさっき買っておきました。きっとこうなると思っていたので。」


「だからルキナちゃん箒買ってたんだねっ!私はてっきりお掃除用だと思ってましたっ!」



優秀じゃないかルキナ。でかしたぞ。空も飛べるし頭も回る。流石は王女だ。後でご褒美をあげるからな。てか箒使って飛ぶとかそれ魔女だよね。



「凄いじゃんルキナ。それってもう1人乗せられたりするの?」


「はい!大丈夫です!だから私とリンさーー」

「ーーじゃあルドルフに私とルナ、ルキナの箒にルキナとアナスタシアって感じで行こうか。」


「えっ?」



………なあキレカワさん。それってワザとなのかい?ルキナの目からハイライト消えちゃったよ?いくら鈍い俺でも今のルキナの魂胆はわかったよ?俺と2人で箒に乗ってイチャコラしようって思い描いてたんだよ。キャッキャウフフしようって妄想しまくってたに違いないんだよきっと。それが本人の口からぶち壊されたんだよ?そりゃハイライト消えるわ。



「……なんで?なんでなの?またルナさん?またルナさんなの?さっきからずっと贔屓されてない?リンさんと2人で馬に乗るの?もうそれってカップルだよね?なんでそんな所を見せつけられないといけないの?私、なんかした?リンさんの気に障る事した?リンさん私の事嫌いなの?ねえ?どうして?」



またブツブツ言い始まったよ。なんか黒い瘴気みたいなのまで俺には見えるんだけど。どうにかしろよキレカワ。




「私とルナは前衛だからね。何かあったらすぐに戦わないといけないし。ルキナが飛べるんなら空から魔法使えばいいしアナスタシアも守れるしで最適なフォーメーションだね。」


「そうね、それがベストだと思うわ。」


「ですねっ!」



なんだ、ちゃんと考えていたのか。ルキナをイジメてるわけではなかったんだな。勘違いしてたよ。ごめんなキレカワ。



「あ…なんだ…そういうことか…。そうだよね。リンさんがそんなわけないもんね。」



ルキナもそれを理解しハイライトに光が戻った。よかったよかった。惨劇は回避された。


俺が安堵しているとキレカワがルキナの耳元に顔を近づけボソッと呟く。



「ルキナはすぐヤキモチ妬くんだから。私の”トクベツ”はルキナだよ。後でちゃんと可愛がってあげるからおとなしくしててね。」



キレカワがそう言うとルキナの顔がみるみる赤を赤くしてコクリと頷く。キレカワよ、ほどほどにしておけ。



「ならこれで問題も解決した事だしこの国からとりあえず脱出しようか。目指すは北の地だよ。」


「はいっ!」


「はい!」


「ええ。」



こうして俺たち一行はヴィルトシュヴァイン王国から脱出した。

安眠屋の親父はもう寝ていたから挨拶は出来なかったけど達者に暮らせよ。前払い分の銅貨はくれてやる。


さて。とりあえず追っ手が来る事は想定しないといけないから距離は稼いでおくか。ルキナとエロい事するチャンスだけは見逃さないようにするけど。それで追っ手と鉢合わせてもぶっ殺してやればいい。もう俺に人を殺す躊躇いなんかないからな。歯向かう奴はどんどん殺してやる。フハハハハ。






********************



ーー凛たちが安眠屋を出てから4時間程が経過した早朝、ジュノー率いる王国騎士団第二師団が精鋭100名を引き連れ安眠屋を包囲していた。



「マグノリア隊長!安眠屋の包囲完了致しました!」


「ご苦労様。それではこれより安眠屋にいると思われるギュルテルティーア帝国三将軍の1人、ルナ・チックウィード及び、リン・ワタナベを捕らえます。わかっていると思うけどルナ・チックウィードを見つけたら必ず私を呼びなさい。リン・ワタナベに関してもマティスを呼んだ上で隊士10名以上で必ずあたること。わかったわね?」



ーージュノーの命令に規律の取れた乱れぬ返事を隊士たちは行う。

そしてそれを合図とし、隊士たちが一斉に安眠屋へとなだれ込んだ。



「ジュノー、今更言ってももはやどうしようもないが今回の一件はお前の失策だ。やはり俺の見立ては間違ってなかった。」



ーー副隊長であるマティス・ハイペリカムはジュノーに対し厳しい口調と視線を向ける。だがジュノーの表情に変化は無い。真っ直ぐ前を向き、変わらぬ表情を見せる。



「処分は後で受けるわ。今は目の前の事に集中しなさい。」



ーーマティスは唇を噛みしめるような顔をジュノーに見せた後前を向いた。それと同時に安眠屋へ突入した隊士の内数名がジュノーとマティスの元へ戻って来る。



「ご報告します!現在まだ捜索をしておりますが、ルナ・チックウィード、リン・ワタナベの両名は安眠屋にはおらぬ模様。アナスタシア・ナーシセス、ルキナ・ヴァン・スノウフレイクも姿が見えません。恐らくは逃走したと思われます!」


「なんだと…!?」



ーー隊士の報告にマティスは声を荒げる。



「情報が漏れていたのか…!?至急周辺の捜索にあたれ!!第二師団全員でだ!!四方全てに回れ!!特にギュルテルティーア方面には人員を割け!!私も参る!!」


「はっ!!」




ーーマティスの指示を受け隊士たちがそれぞれの任務を遂行する為に散る。


ーーそれを見てジュノーは凛たちがちゃんと逃げられているかどうかを案じていた。

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