Chapter 41 ルナ・チックウィード
私はいわゆる戦災孤児だった。ギュルテルティーア帝国ととある国との戦争の中でまだ1歳の私は瓦礫の下に埋もれていたらしい。私の泣き声を聞き瓦礫をどかしたら私がいたのだそうだ。周りに両親と思わしき人がいたらしいがもう絶命していたそうだ。
そして私を助け出したのはギュルテルティーア帝国前皇帝、レーヴェン・テルケ・ギュルテルティーアだった。
レーヴェン様は私を娘のように育ててくれた。私が自分の出自を知るまでの間は本当にレーヴェン様の娘だと思っていたぐらいに愛してくれていた。ただ、その間、1人の男だけは私に対して冷たくしていた。レーヴェン様の実子であるアスター・マイス・ギュルテルティーア。あの男だけはやたらと冷たかった。事あるごとに殴られていた。それをいつも止めてくれていたのもレーヴェン様だった。だがアスターはそれが気に入らなかったのだろう。今となってはそれがよくわかる。
私が15になった時レーヴェン様から私の出自を聞いた。最初はショックだったが色々と腑に落ちた点もある。だがそれ以上にレーヴェン様への感謝の気持ちがこみ上げてきた。私はこの人の為の剣になろうと誓った。
幸いというか帝国貴族学校での私の成績はトップであった。特に剣の腕は教師の技量を遥かに超え、ギュルテルティーア帝国幻影騎士団の副官が直々に教えてくれる程だった。
私は自分を誇っていた。レーヴェン様の為に役立てると思い誇っていた。だが当のレーヴェン様は私の剣の腕が上達する度に残念そうな悲しそうな顔をしていた。
レーヴェン様は私が強くなる事を望んでいなかった。レーヴェン様は私が普通の女として生きる事を望まれていた。だがこの時の私にはその気持ちは分からず理解していなかった。
私が16歳になった時、帝国貴族学校を卒業した私は即幻影騎士団への入隊が決まり、早速ヴィルトシュヴァイン王国との戦争に駆り出された。いわゆる第二次フルス戦役。私の初陣だ。序盤、ヴィルトシュヴァイン王国兵の技量は高かったが私はそれを物ともせず斬り払っていた。小隊長級も討ち取り私が作った穴から一気呵成に進軍したがあの女の登場により流れが変わる。ヴィルトシュヴァイン王国、セブンスホワイトの1人であるジュノー・マグノリアだ。私と同じ初陣であった彼女が私が配属されているエリアに援軍として登場した。勢いにのる私はジュノーを討ち取ろうとするが彼女の技量は凄まじく私は苦戦した。私とジュノーの力は五分。お互いにそう思ったのだろう。私たちが膠着していると援軍に現れたヴィルトシュヴァイン王国側の物量により徐々に押し戻される。結局はジュノーと決着がつく事なく第二次フルス戦役は引き分けに終わった。
圧勝を目論んでいただけに肩を落として帝国へ戻った私だが帰ってからの私の扱いは英雄だった。第一次フルス戦役では大敗を決した帝国がヴィルトシュヴァイン王国と引き分け、領土の半分を取り返す事が出来たのは私の手柄だとなったのだ。そして私は帝国史上3人目となる幻影獅子勲章をレーヴェン様から賜った。私は嬉しく誇らしく受勲式に出向いたがレーヴェン様はやはり悲しい顔をされていた。
私が17歳の時、事件は起きた。ヴィルトシュヴァイン王国や他国との戦争で連戦連勝を飾った私はギュルテルティーア帝国三将軍に昇進した。あわせてダンジョン攻略の際に入手したSS級装備である『リンドブルム』通称ドラゴンシリーズと呼ばれる剣を手に入れた。時を同じくしてヴィルトシュヴァイン王国のジュノー・マグノリアも王国聖騎士へ任命された。第二次フルス戦役以来彼女と相見える事は無かったが意識的に好敵手だと思っていた。
そんな中の事だった
私はレーヴェン様から公爵の爵位を与えられ、出自を知り、幻影騎士団に入隊してからも幼少から変わらず王城で寝食をとっていた。レーヴェン様が公爵の爵位を与える事でその権利を守ろうとして下さったのだろう。そんなある日の夜、王城は異様な静けに包まれていた。なんだか私はそれがとても気味が悪く、久しぶりに子供の時のようにレーヴェン様と寝たいと思い、寝所を訪れ、扉を叩こうとした瞬間中から断末魔のような叫びが聞こえ私は慌てて中へ入った。そこにいたのは血に塗れたアスターと鮮血に染まり血に伏せるレーヴェン様だった。
「レーヴェン…様…?」
私はフラフラとレーヴェン様へ歩み寄る。心臓の鼓動が早くなり手も震えているがもう息をしていない事だけはわかる。心臓を一突きされ即死だ。私は震える手でどうにか見開いているレーヴェン様の目を閉じ、怒りでどうにかなってしまいそうなぐらい憤怒に満ちた表情でアスターへと振り返る。
「何故!?何故にレーヴェン様を殺したのですか兄様!?」
今にも斬りかかろうとせんばかりの殺気を撒き散らす私に対しアスターはいつも通り冷ややかな目を向ける。
「ルナ、俺は貴様の兄ではないと何度言えばわかる?」
「今はそんな事どうだっていい!!何故レーヴェン様を殺したか聞いているのだ!!」
「レーヴェン様レーヴェン様とやかましい。なんで殺したかだと?邪魔だから殺した。それだけだ。」
「貴方がした事は国に対する反逆行為だ。拘束し裁判にかける。」
「ククク、ハーッハッハ!!」
「…何がおかしい?」
「ルナよ。愚かだな。俺が独断でこんな真似をすると思うか?」
「まさか…!?」
「三将軍フェアギス、幻影騎士団、軍部、元老院、全てが俺についている。今日の出来事を知らんのはお前とカイゼルだけだ。」
「そんな…」
私はその場にへたり込んだしまった。あまりにも信じられない事が連続して起こるのでもう頭の回転が追いつかない。私の左手にあるリンドブルムがあるからこそまだなんとか心を保っていられた。レーヴェン様が私がダンジョン攻略したお祝いとしてこしらえてくれたリンドブルムが収まる鞘。それだけが私の心を支えていた。
ーーダンッ
勢いよく扉が開き、息を切らして三将軍の1人であるカイゼル・アイゼンフートが入って来る。
「これは一体…」
「カイゼルか。さて、役者が揃ったようだな。フェアギス、入れ。」
アスターの許可を得て突如としてこの場にもう1人現れる。まるで瞬間移動でもして来たかのように。フェアギス・ブリューテ。三将軍の1人である魔道士。恐らく80は越えているであろう高齢の男。それだけに魔導の真髄を極めし者として長く三将軍の地位に居続けている帝国の重鎮だ。
「殿下、これはどういう事ですか?説明致してもらおう。返答次第では私は殿下を斬らねばなりません。」
カイゼルが殺気を放ちアルターを睨む。
カイゼル・アイゼンフート。帝国の歴史上最強と呼び声高い男だ。同じ三将軍だが手合いで私はカイゼルに1度も勝った事がない。絶望的なまでの力の差が彼と私にある。口数の少ない男だが不思議と馬があった。カイゼルもレーヴェン様に忠誠を誓い、互いに切磋琢磨出来る存在だからかもしれない。私にとっては本当の兄のように思っていた。そんな男が激しい怒りを出している。当然だ。私だって同じ気持ち。レーヴェン様の実子とはいえアルターを許す事など出来ない。
「カイゼル、皇帝陛下の御前であるぞ。控えよ。」
そんなカイゼルに対しフェアギスが何の感情も示さないまま抑揚の無い声で喋り出す。
「皇帝陛下?何を馬鹿な事を。そこにいるのは逆賊だ。そしてそれに加担したフェアギス、貴様も同罪。覚悟は出来ているんだろうな?」
「青いな。これだから近頃の若僧は。何の策も無くクーデターなど起こす訳が無い。貴様とルナ以外全ての権力は皇帝陛下の手の中にある。」
「……いつからだ?」
「5年前だカイゼル。」
アルターが血が滴る剣を床に投げ捨てながらカイゼルに答える。
「この5年で俺は全てを整えた。わかるだろう?この男は皇帝の器ではない。野心が無いのだ。」
その言葉に血の気が引きへたり込んでいた私の中で血が一気に昇って行くのがわかった。
「ふざけるな!!レーヴェン様は争いを好まなかっただけだ!!領土拡大などではなく平和の為に戦争をした!!極力殺生もしなかった!!捕虜にだって拷問などをお命じになられた事もない!!」
「頭が悪い女だなルナよ。貴様は帝国貴族学校で何を習っていたのだ。だからその男は皇帝の器ではないと言ったのだ。領土が欲しくない人間などいるはずがない。ただの臆病者なだけだ。」
「それは貴方の私見だ!!」
「いや、皇帝としてそれが至極当然。侵略による統治で平和は作られるのだ。」
激昂した私は左手に持つリンドブルムを抜こうとする。だがその手をカイゼルに抑えられる。
「カイゼル!?離せ!!私はこの男を許せない!!」
「落ち着け。今ここでお前が剣を振るっても届かない。」
私は訝しんだ目でカイゼルを見る。カイゼルの言葉を理解したのかアルターが笑い出した。
「カイゼル、貴様は賢いな。この馬鹿とは違う。」
「ーーッツ!!」
私はカイゼルの手を引き剥がそうとするがより強い力をかけられ外すことが出来ない。カイゼルが言葉を続ける。
「ここまで周到に準備して来た中で俺とお前にバレるような事をする訳がない。俺たちはここへ意図的に集められた。ここで暴れたとしてもそれを制する術も用意しているのだろう。恐らくフェアギスの奴が大規模魔法陣を作成済みだ。俺たちが斬りかかろうとしても奴の魔法で殺されるか拘束されるだけ。」
カイゼルの言葉を聞き私はリンドブルムを抜くのをやめた。また血の気が引いて一気に冷静になれた。
「それで、俺たちを殺さずに呼んだ理由は?」
「話が早くて助かる。カイゼル、俺はお前を処分するつもりは無い。帝国最強の貴様がいなくてはヴィルトシュヴァインを滅ぼす事はなかなかに難しくなるからな。結論から言おう。このまま俺の元へ来い。当然断れば殺す。」
「……ルナはどうするつもりで?」
「ルナは皇后にする。」
「……は?」
私はアルターの言葉を聞き違えたのかと思い素っ頓狂な声を出した。
「先ず、レーヴェンはヴィルトシュヴァインに暗殺された事にするつもりだ。そしてコイツは国民に人気がある。レーヴェンがコイツに対して行なっていた事は最早周知されている。その中でその仇を討とうと俺とコイツが手を取り合い結婚する。馬鹿な国民や兵士は感動するだろう。そんな流れだ。」
目眩がした。あまりにも馬鹿げたシナリオだ。
「何より貴様の顔は気に入っている。娶るのに申し分ない。喜べ。ちゃんと正室として迎えてやるのだからな。」
心の底から気持ちが悪かった。今はっきりわかった。アルターは私を女として見ていたのだ。暴力を振るっていたのもコイツのサディスティックな性癖を満たす為。レーヴェン様がいたからあの程度で済んでいたが本心としては……
「…誰がお前なんかと結婚するか。」
「口の利き方に気をつけろ。お前に拒否権はない。」
また頭に血が上りリンドブルムに手を掛けようとした時にカイゼルに首根っこを抑えられる。
「わかりました。従います。」
「カイゼル!?私はーー」
今度はカイゼルに口も塞がれる。
「ですが陛下、このようにルナは混乱しております。私がしっかりと言い聞かせますのでそれまでは私に一任して頂けますか?」
「ふん、そうだな。よかろう。どのみちまだレーヴェンの死は隠さねばならん。1年後に俺が即位する予定だ。その後にルナとの婚約を発表しよう。それまでにその女を俺に逆らわないように調教しておけ。」
「わかりました。それではもう私どもは失礼しても?」
「ああ。」
私はカイゼルに引きずられるようにレーヴェン様の部屋を出る。そしてカイゼルの部屋まで私は無理矢理連れ込まれる。
「離せ!!」
「もう離している。」
「部屋に無理矢理連れ込んで私をどうするつもりだ?傷心している所をこれ幸いと犯すつもりか?」
「子供に興味は無い。」
「何故戦わなかった!?少なくとも私はお前を仲間だと思っていた!!レーヴェン様に忠誠を誓った仲間だと!!」
「そうだな。俺はレーヴェン様に忠誠を誓っている。」
「なら何故あそこで戦わなかった!?剣を抜かなかった!?」
「負けるからだ。」
「たとえ負けてもあそこで主の為に散れるなら本望だろう!!」
「俺一人ならいい。でもお前は女だ。負ければ皇后の話はなくなり慰みものになる。」
「フッ、まさかカイゼルに女扱いしてもらえるとは思わなかったな。」
「まあいい。とりあえず今晩はここで眠れ。そして明日には城から出ろ。」
「何で私が出なければならない!!」
「いいから出て行け。出なければ力づくでも追い出す。それともう寝ろ。俺も寝る。」
「何を勝手なーー」
私が激昂し、食ってかかろうとした所でカイゼルは床に転がり右腕を頭の後ろに乗せて目を瞑った。
「ーーッツ!!!」
私はベッドへ乱暴に寝転がり毛布を頭までかけた。その中で私は朝まで泣き、眠る事は無かった。
翌朝私は城を出た。レーヴェン様が何かの時の為にと与えて下さった帝都の外れにある家に移った。今考えればどうしてこの時にギュルテルティーアを出なかったのだろうか。そうしていれば……
私は18になった。帝国はアルターが即位し、レーヴェン様がヴィルトシュヴァインに暗殺されたと公式に発表されていないが噂として帝国中に広まっていた。この一年の間にヴィルトシュヴァインとは休戦協定が結ばれたが西方への領土拡大をアルターは着々と行っていた。私はこの一年特に何かを頑張ることは無かった。動く屍のようにただ日々を過ごすだけだった。それでも三将軍という地位にいる以上は戦線へと赴かなければならないので戦は行っていた。無気力ではあっても不思議な事に負ける事はなかった。まるでリンドブルムが私を守ってくれるように、レーヴェン様が守ってくれるかのように。そんな日々を過ごしていた。
19歳になる少し前、帝都から滞在先の街に連絡が来た。私をアルターの妻として迎えるという内容だった。誰が妻になどなるか。私は返答せず帝都に戻る事もしなかった。でもそろそろ引き際なのかもしれないとも思った。レーヴェン様亡き後、帝国は腐敗していった。戦力の拡大を行う余り品のない傭兵崩れや占領国の兵を併合して愛国心のカケラも無い集団が出来てしまった。もはや蛮族の集まり。もうここに私の居場所は無い。帝国を出よう。そう決意した。
19歳になった私は戦地での作業のかたわら逃亡先をどこにするか決めていた。ヴィルトシュヴァインが一番近いが私がそこへ行けば殺される可能性が高い。ギュルテルティーアも大概だがヴィルトシュヴァインも黒い国だ。逃亡先の候補には入らない。異種族の国も論外だろう。何より私が行けば迷惑になる。東方が一番妥当だろうか。自由に平穏に暮らせれば多くは望まない。東方にしてみようか。
行き先を決めてから三日後、私の運命を終わらす連絡が耳に入った。吸血鬼族ヴァンの系譜の国であるスノウフレイクを帝国が堕とすというものであった。別にスノウフレイクに思い入れがあった訳ではない。ただ、私の耳に入ったのは吸血鬼族を全て根絶やしにするという慈悲のカケラも無い命令だ。いや、1人だけ生け捕るように言われた。王女であるルキナ・ヴァン・スノウフレイク。彼女だけは殺してはならぬというものであった。理由はわからない。あのアルターが側室に迎える為とは思えない。帝国には側室を持つという文化が基本的に無い。正室との間に子ができぬというような理由が無ければ国民に受け入れられないのだ。その中でルキナ王女を側室にというのは考えられない。何か理由があるのだろう。だがそれは別に私にとっては大きな問題ではない。問題なのは虐殺だ。それは絶対に阻止しなければならない。戦争が避けられないのならスノウフレイクの人たちをどこかへ逃がさないと。これが私のギュルテルティーア帝国の人間として行う最後の仕事だ。
運命とは残酷だ。これが最後の仕事と決めていた事が違う意味での最後となってしまった。
結果だけをいうとスノウフレイクは滅びた。十数名の兵士と国民を逃す事しか出来なかった。そして私は逆賊として捕らえられた。
考えが足りなかった。もっと早くに行動をしていれば。やはりあの時、アルターを殺していればーー
「愚か愚かとは思っていたがここまで愚かだったとはな、ルナよ。」
私は捕らえられた後、ギュルテルティーア帝国王城玉座の間へと連行され、アルターの前に跪かされた。
「貴様如きが何をしようと何も変わらない。現に指揮官をすげ替えてもスノウフレイクはいとも簡単に堕とせる。ルキナ・ヴァン・スノウフレイクも手に入れた。少数の吸血鬼どもは逃したが大した事ではない。貴様がやった事は無駄な事をしただけだ。」
「……。」
「それでも俺は寛大だ。最後のチャンスをやろう。俺の妻となりヴィルトシュヴァインを滅ぼせ。それでこの件は水に流してやる。」
「良いのですか陛下?チックウィード将軍の件はもう知れ渡っております。」
「大した事ではあるまい。それよりも俺はコイツの見た目の方が遥かに価値があると思っている。2年前より美しくなった。あの時でも完成された美貌だと思ったが。俺の妻には相応しい。さて、ルナよ。三日後には国民の前で婚約を発表する。それまでに準備をしておけ。これでこの件はーー」
「ーー気持ち悪い。」
私は低い声で呟いた。
「……何か言ったか?」
「気持ち悪いと言いました。私が貴方と結婚をする事はありません。いや、結婚か。してもいいかもしれませんね。寝所にやって来た貴方を殺せる機会が訪れるのだから。」
私の暴言に武官文官たちが騒ぎ立てている。私は今言った言葉に後悔はない。我が身可愛さにこの男に心も身体も売らない。レーヴェン様の仇であるこの男だけには。
「愚かな女だ。慈悲に涙するどころか唾を吐きかけるとはな。馬鹿はいらん。ルナ・チックウィード、貴様は処刑だ。爵位並びに貴様が手にした勲章や財は全て剥奪及び没収とする。」
「…好きにしろ。」
「当然リンドブルムもだ。」
私はその言葉を聞いて頭がカッとなり抑えている兵士の腕を振り解きアルターへと向かった。
「アルタァー!!!」
だが丸腰の女の力では数十人の武官の壁を突破する事が出来ずにすぐ鎮圧された。アルターは嘲笑した目で私を見ていた。
「その馬鹿の死をもってヴィルトシュヴァインへの宣戦布告としよう。確かヴィルトシュヴァインの国境付近に大都市があったな。ブルーメだったか?そこを堕とせ。カイゼルにやらせよう。半日あればいけるだろう。そこでルナを処刑する。そうだ、絞首刑にしよう。一番醜い死に方だろうからな。腐るまで晒し、ヴィルトシュヴァインへの恐怖を煽ろうか。」
「陛下、それがどうしてヴィルトシュヴァインへの恐怖となるのですか…?チックウィードがヴィルトシュヴァインの者ならわかりますが…」
「貴様も阿保か?ヴィルトシュヴァインが聖騎士の誰かを処刑し、国境付近でその死体を晒しながら宣戦布告して来たらどう思う?そのようなイカれた国、恐ろしくないか?聖騎士以上の力を手にしたのではないかとも思うのではないか?戦争において得体の知れなさというのは恐怖だ。そして恐怖は躊躇いも生む。ただ単に自国で始末するより圧倒的に利が働くのだ。」
「な、なるほど…!流石は皇帝陛下でございます。」
「ではすぐに取りかかれ。そうだルナよ、愚かな父にあの世であったら2人で楽しく暮らすが良い。それぐらいは許してやろうぞ。ハーッハッハ!!」
ーー
ーー
そして私は堕ちた。
ブルーメへと移送される間に下級兵士に殴る蹴るの暴行を加えられる。手枷のついた私には何の怖さも無いのだろう。幸いなのは犯される事が無かった事だ。ブルーメに着くまではそういう事をしないのかどうかはわからない。だが少なくとも安堵した私がいた。
ブルーメに着いてからは激しさを増した。すぐに衣服を剥かれ、下着姿にさせられて四肢を鎖で縛り付けられた。この体勢はきつい。少しでも倒れれば手足に鎖が食い込む。休む事が出来ない。そんな事を考えているとすぐに暴行が始まった。至る所を殴られ蹴られはするが、執拗に腹を殴りつけられるのは正直苦しい。気を抜くと普通の女のように涙を流してしまいそうだった。コイツらはそれを見たいのだろう。私が屈する所を見たいのだろう。私は最後まで気高くいたい。決して屈したくは無い。
そんな暴行が続いてもやはり移送されている時と同じように犯される事は無かった。下着にさせられた時はすぐに輪姦されると思ったのだが誰も何もしない。しかしそれは何かを我慢しているのがすぐわかった。誰かを待っているんだ。性行に及んでいる所を見られるのはマズいという事か。そいつが来て用が済めば私はコイツらの憂さ晴らしに使われ明日には処刑か。なんだか笑ってしまった。そのタイミングで大隊長だかという奴が下卑た笑みを浮かべながら何か言ってくるものだから半笑いで罵ったら気合の入ったのを腹に入れられた。正直痛い。これには声が漏れてしまった。その時カイゼルが現れた。ああ、カイゼルを待ってたのか。カイゼルがいなくなれば私はとうとう犯されるってわけか。
カイゼルがアルターに詫びろと言っているがそんな事はしない。命乞いはしない。絶対に。アルターにだけは降らない。
私が拒むとカイゼルは残念そうな顔をして立ち去った。あの顔の意味はわからない。失望ならわかるがなぜあのような顔をするんだろう。
カイゼルが去った後、私に暴行を加えていた男たちが興奮した様子で鎧や衣服を脱ぎながら私を襲い始めようとしている。とうとうか。流石にもう心が折れそうだ。でも殴られるのも辛い。それならばコイツが言うように気持ち良くなれるならその方がマシか。別に女として生きようとか思っていた訳ではないがこんな風に初めてを迎えるとは思わなかった。せめて優しくしてくれるならいいが無理だな。荒っぽく玩具にされるのがオチ。もういいや。考えるのも疲れた。
そうして私は心が折れた。
下を向き俯いてされるがままになるだろう自分に絶望しながらその時を待っていると静かな殺気が突如として現れる。女だ。フードを被っているが顔の造形が非常に整っている綺麗な女。私より少し若いだろうか。一瞬で男たちを殺す腕から見てもわかるかなりの強者。だがこの女が何の為にここにいるのかわからない。私に用があるのか?助けに来た?いや…それは無いだろう。私にそのような友人もいなければ他国との繋がりもない。慕われていたという事もない。女の髪は黒髪。東方の者だ。それなら尚更私と何の縁も無い。
女は名をワタナベ・リンという。聞き覚えもない。やはり東方特有の名字が先に来る名乗り方だ。想像がつかない以上は女が話し始めるのを待つしかない。
そして女は私に尋ねた。
私が処女なのかどうかを。
これが私のリンとの出会いだった。
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