Chapter 29 いざ、ドリットダンジョンへ
ルキナの装備を整えた俺たちはダンジョンへと向かう為移動している。空で。
デカいトカゲに羽が生えたような生き物の背中に俺は乗っている。こんな生き物いんだね。ビックリしたよ。ま、これぞ異世界って感じだけどさ。速度も結構速いんだよこれ。車よりは明らかに速い。新幹線よりちょい遅いぐらい。名前は空ドビってらしい。ドビってなんだろう。
それより何で俺たちが空ドビに乗っているかというと、ヴィルトシュヴァインの国境付近にあるダンジョンを目指す事になったからだ。なぜかと言うとだな、前回俺とアナスタシアが攻め込んだエアストダンジョンは現在封鎖中というのもあるが理由は2つある。
1つはルキナの実力を測るためには人があまりいないダンジョンがいいと言う事になったからだ。ルキナは吸血鬼だからハッキリ言って目立つ。滅びたとはいえ姫が他国でフラフラしてるとなんか因縁つけられて厄介な事になりかねない。だから人があまりいないダンジョンを目指そうと言う事になった。何よりレベルの高いルキナがザコいダンジョンに行ったんじゃ実力がわからないからな。
そして2つ目はダンジョンクリアを目指す以上は未踏破の所を目指すべきだからだ。クリア済みの所をチマチマとやっていたって意味は無い。そりゃあレベル上げをしたり、日銭を稼ぐのならそれでもいい。でも俺の目的は東方へ行く手形を得る事だ。それならぬるま湯に浸かっていないでとっととダンジョンをクリアするべきだ。何より早く男に戻りたいからな。
てな訳で俺たちは城から遠く離れた国境付近に位置する『ドリットダンジョン』を目指す事になり空ドビに乗っていると言うわけなのさ。
だがデメリットもある。先程そのドリットダンジョンとやらは国境付近にあると言ったがどうやら国境付近は治安が良くないらしい。国境の先はどこの国の領地にもなってはいないらしいのだが、その先にはギュルテルティーア帝国領らしいのだ。今、王国と帝国はいつ戦争が始まってもおかしくないぐらい緊張状態が続いている。いつ帝国が侵攻して来てもおかしくない。そうなるとドリットダンジョン付近はとても危険な地区となる。そんな場所に行こうと俺たちはしているのだ。
あまり呑気にダンジョン探索はしていられないな。どんな場所かは知らんけど状況と情報は常に最新のものを手に入れてヤバそうなら他のダンジョンに切り替えよう。
「見えて来ましたっ!!アレがドリットダンジョンです!!」
空ドビに乗りながらアナスタシアが大声で叫ぶ。俺たちは1人1匹に乗って移動している為大声じゃないと意思疎通は図れない。大概は空ドビ1匹に対して3人乗るらしいのだが俺は窮屈なのが嫌いなので個別にした。何よりフォーメーション的に俺が真ん中になるのがわかってたから個別にしたのだ。美女に挟まれてるんだからご褒美と思うじゃん?でもな、考えてみ?挟まれてたら身動き取れないわけよ?しかも鞍もないわけよ?動かないとケツ痛くなって痔になったりでもしたら嫌なわけよ?俺は常に女とベタベタしたいわけじゃない。夜だけでいいのだ。外でもベタベタしてるカップルとか見るけどあれってないわー。特にブサイクカップルほど外でイチャつくよね?あれなんなんだろうな。
まあそれはさておき、アナスタシアが指す先にはエアストダンジョンとは打って変わったなんの変哲も無い朽ちた遺跡のような場所がある。全然整備はされてないし人もいない。ここ大丈夫か?野盗とかいないだろうな。野盗に犯されるのとか絶対嫌だぞ。
「あれが未踏ダンジョンの1つドリットダンジョン…」
呟くルキナをチラリと見る。俺は耳が良いから空ドビの羽音と空気を裂く音がしていてもはっきり聞こえるのだ。
ルキナの顔は緊張しているのか強張っている。でもそんな事よりルキナの格好よ。ピッチピチのキャットスーツがエロい。下はスカートってのがまた良いよね。堪らんわマジ。
「着いたね。それじゃ降りるよ。」
********************
無事に着陸成功した俺たちは草原に建つ朽ちた遺跡の敷地外に陣取る。空ドビたちは礼儀正しく横一列になって伏せの姿勢で俺を見ている。やはり生き物として俺のヤバさを感じてるのだろうか。そういえば役所で俺のレベル調べるの忘れてたな。ミノタウルスとかマンティコアとかクソメガネとの戦いを経て来たのだから俺のレベルは随分上がったんじゃないだろうか。読みでは30はカタイと思ってる。それに初期ステの異常値と合わせれば俺の力は確実に人外なんじゃなかろうか。俺の実力の目安が知りたいよな。今の所苦戦してないのがまた怖い。もしかしたらジュノーに勝てちゃったりしないだろうか。あのクソメガネが実際どの程度かわからんもんな。アイツが噛ませの可能性の方が高い。やっぱルキナを物差しにしてみるしかないか。
「誰もいないね。」
「そう…ですね…」
ダンジョン初心者の俺とルキナ。案内がないと右も左さっぱりだ。人がいなければ人の流れに沿う事も出来ない。ぼっちには厳しい環境だ。
「えっと、多分あの遺跡みたいな所に地下入り口があるはずです。そこに王国兵がいると思うので先ずはそこに行きましょう。」
アナスタシアがダンジョンに詳しくなければ基本俺たちダメダメかもな。俺は異世界人。ルキナはダンジョンに縁がないヴァンパイアガール。困ったらアナスタシアに全部丸投げだな。
俺たちは遺跡の中へと足を踏み入れる。草も生え生えで石造りの壁は打ち破られたように荒れ果てている。なんでこんな所にダンジョンなんて現れたんだ?この遺跡も込みで現れたのだろうか?謎が多いよなこの世界も。
色々と観察しながら歩いていると地下鉄の入口のような造りになっている場所を発見する。
「ありましたねっ!ここを行くと入口があるはずです!」
アナスタシアが意気揚々と階段を降りて行く。随分元気一杯だな。やる気満々じゃないか。そんなにダンジョンクリアしたかったっけ?まさかたくさん稼いで早くパーティーから抜けようとしてるんじゃないだろうな。あ、そうだしまった。取り分の話をしてなかった。やべ。
「そうだごめん。ちょっといいかな?」
俺は2人に声をかけ足を止めさせる。
「どうしたんですかリンさん?」
「何かありました?」
「ダンジョンの分配について話をしてなかったよね。それでさ、今までは私とアナスタシアで山分けだったけどルキナが入ったから三等分でいいかな?単純にアナスタシアの取り分が減る形にはなっちゃうけど。」
「リ、リンさん…!!」
俺が話をしているとルキナが慌てるような感じで迫って来る。
「私は取り分なんて要りません…!!リンさんに食べさせて頂いているだけで十分すぎるぐらいなのに…!!」
「なに言ってんのルキナ。ダメだよそんなの。タダ働きなんて絶対ダメ。」
「で、ですが私はリンさんに救って頂いて食事や寝床、何より奴隷からも解放して頂いているのにこれ以上……」
「働いたら報酬をもらう。当たり前の話だよ。それが嫌ならパーティーには入れられないかな。」
俺がクールにそう言うとルキナは案の定黙る。それはそうだ。ルキナは奴隷じゃない。それなのに無報酬でコキ使うなんて出来る訳がない。夜の相手は無報酬だけど。いや、ご褒美だよな。この俺様に可愛がってもらえるのならどんな褒美よりイイはずだ。
「……甘えちゃってもいいのですか?」
「甘えじゃないけどいいんだよ。」
「…わかりました。本当にありがとうございます。」
「ん。で、話がズレたけどアナスタシア、いいかな?」
「私は全然構いませんよっ!!ルキナちゃんとは仲間なんですからっ!!」
「アナスタシアさん……。ありがとうございます。」
うん、良かった。金の話は大事だからな。いくら仲良しでも金にだらしがないのはダメだ。金の事だけはキッチリしないと。これは鉄の掟にしよう。
「あ、そうだ。それとルキナ、はいこれ。」
「えっ?あ、はい。何ですーー!?」
俺はルキナに小さい布袋を手渡す。ルキナが中を開いてそれを目にした瞬間その大きな瞳が見開いた。
「なんかあった時の為に持っておきな。」
「な、なんですかこのお金!?き、金貨までありますよ…!?」
「なんかあった時の為だよ。アナスタシアにも渡してあるから気にしないで。もしも私に何かあったらルキナが路頭に迷うからさ。その時に生活する為の資金だよ。」
「リンさん。いくらリンさんでもそのような事を言うと怒りますよ。」
ルキナが見せた事ないような鋭い目で俺を見る。真紅に染まる瞳が俺を燃やすのではないかと錯覚するほどに紅く染まっている。
ルキナでもこういう態度になるんだな。俺としては嬉しい限りだが人生どうなるかわからんからな。俺は自分の女には嘘はつきたくない。実は男である事は黙っているけどそれは方便だ。
「万が一の為の備えだよ。だからそれは受け取って。ううん、受け取って欲しい。」
「………。」
ルキナは視線を落とし何かを考えるようにしている。そして少しの後に答えが出たのか口を開く。
「……わかりました。でも万が一なんてありません。それにリンさんが死んだ時は私も死にます。リンさんのいない世界に用はありません。」
うーん、流石はヤンデレ持ち。なんとなく台詞が予想出来た。
「私はルキナには生きていて欲しいよ。それに万が一ってのは私が死ぬだけの場合じゃないよ。はぐれたり、見えない力によりみんなバラバラに転移されたりとかさ。」
「あ…そうですよね。そういう場合もありますもんね。悪い方に考え過ぎていました…すみません…」
「いいよ。ルキナがそれだけ私を想ってくれてるって事だもんね。」
すかさず俺はルキナの頭を撫でる。するとルキナは幸せそうな顔をして頬を赤らめる。
「さて、それじゃ話もまとまったし行こうか。」
俺たちは再度歩みを進め階段を降りていく。すると松明のようなものを持った兵士が2人立っている。エアストダンジョンの時と同じ装備を付けている事からヴィルトシュヴァインの兵士なのは間違いないだろう。兵士たちが少し怪訝そうな目で俺たちを見ている。
「冒険者…か…?」
兵士の1人が俺たちに話しかけてくる。
「はい。今からドリットダンジョンに入ります。」
「…許可証を見せてもらえるだろうか。」
アナスタシアが許可証を兵士に渡すと、それを見た兵士の顔が強張る。
「…このランクでドリットダンジョンに入るつもりか?」
「はい。」
「悪い事は言わん。やめておけ。いくら亜人といえど猫耳族では敵わんぞ。それに個人ランクが低すぎる。1人はランク43の魔導士がいるようだが…」
ルキナの鑑定をした結果、個人ランクは43だった。強過ぎるよね。序盤で中ボス倒せるクラスの仲間手に入っちゃったよ。種族も隠蔽出来るみたいだから吸血鬼族じゃなくて人族で登録したんだよね。牙出さなきゃ見た目は人族と同じだし。稀に赤髪の人族だっているでしょ。たぶん。
「何よりこのドリットダンジョンはマズい。ここはこの数十年誰も足を踏み入れてすらいない。攻略も4層までしか出来ていないまさに魔巣ともいうべき場所なのだ。」
え?そうなの?それは嫌なんだけど。危険じゃん。デンジャーじゃん。デンジャラスじゃん。
「別に構いませんよ。そもそも未踏とか誰もやってないとか言うけど何かを成し遂げる先人は皆それを通過して来たんだから。今度は私たちの番ってだけだよ。」
このキレカワ何を訳の分からん事言ってんの?死んだらどうすんだよ。俺ら3人だよ?しかもルキナ以外レベル低いんだよ?ここってラスボス倒したら行ける隠しダンジョンだったらどうすんの?
「そうか…ならば何も言うまい。転送石は持っているか?ここでは転送持ちの騎士はいないのだぞ?」
「大丈夫です。」
そう。転送石なんてのもあんだよね。銅貨1枚で買ったよ。結構高いのねソレ。
「武運を祈る。」
そう言って兵士たちはマンホールみたいな蓋を2人がかりで外す。そこがダンジョンなのね。なんか下水探索するみたいで嫌だな。臭くなったりしないだろうか。
「じゃあ行くよ。私たちの足跡を残しに。」
「はいっ!」
「はい!」
こうして2つ目のダンジョンであるドリットダンジョンの攻略が始まった。
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