Chapter 28 初めての武具屋

翌日、ルキナの冒険者登録とパーティー加入の申請を終えた俺たちはルキナの装備を揃える為に武具屋へとやって来た。

この国にある武具屋は全部で10件。昨日アナスタシアが言ったようにピンからキリまであるらしい。そんで俺たちがやって来たのはこの国で一番だという高級店『安心屋』だ。またこの手のネーミングセンスな訳だが入った感じからして高級店なのが良く分かる。日本でいうハイブランドが売っているような店の佇まいだ。入った事無いけど。



「うわぁ…!流石は安心屋ですね…店の雰囲気が違います…」


「そうですね…王国一と言われるだけはあります。」


「ふーん、そうなんだ。」


「リンちゃんはあまり驚かないんですね?リンちゃんの故郷ではもっと凄いお店があったんですか?」


「うーん、どうかな。まあ雰囲気がある店はたくさんあったと思うよ。」


「す、凄いですね…!」



ていうか武具屋なんて初めてだから知らんわな。前世で剣道やってた時もスポーツ用品店で竹刀買ってたし。防具は中学で貸し出ししてくれたから専門店にも行ったことがない。



「いらっしゃいませ。」



俺たちが話していると奥から店員が現れる。執事服のような感じの服を着ている初老の男だ。髪は長髪を後ろで束ね、眼鏡をかけた割と整った顔をしている爺さんだがその目つきは思いのほか鋭い。



「何をお探しでしょうか?」


「この子の装備を揃えに来たんです。」



俺がルキナの肩を抱きながらそう言うと爺さんが何かを察したように頷く。



「なるほど。吸血鬼族のお嬢さんですな。見た所装備品は何もお持ちでないご様子ですが武器、防具と揃えられるという事でよろしいですかな?」


「はい、お願いします。」


「かしこまりました。ご予算はいかほどで?」



ふむ、予算か。アナスタシアが武器防具は高いみたいな事言ってたからな。俺の手持ちは金貨5枚とちょっと。最悪でも金貨2枚は残しておかないとダメだ。それにルキナに後で緊急用に金貨1枚渡しておかないと。俺になんかあったらルキナがまた奴隷に堕ちて今度こそ性奴隷になってしまう。いくら俺が死んだとしても一度愛した女が不幸になる姿は見たくない。ちゃんと愛した責任は取らないとな。そうなるとここで使えるのは金貨1枚が最大だろう。ルキナに必要な剣と防具をそれぞれ銀貨50程度で見繕えるのかな。見繕えなかったらどうしよう。



「金貨1枚で揃えたいんですけどお勧めありますか?」



俺がそう言った所でルキナが俺の袖を引く。アナスタシアも隣で袖を引く。なんだ?なんかやらかしたか?



「リ、リンさん…!!そんなに高い装備は要りません!!」


「え?だって普通じゃない?」


「普通じゃないですよ…!!一体リンちゃんはいくらお金持ってるんですかっ…!!」



アナスタシアが前に装備品は高いって言ったんだろ。ならそれぐらい普通じゃないのかよ。知らんがな。



「ほう、金貨1枚もご予算があるのでしたらさぞかし高名な冒険者なのでしょうな。貴女様が身に付けていらっしゃる衣と剣も相当なレアアイテムでしょう。」



おぉ。爺さんやるな。できる奴と見た。そんな爺さんならきっといい物を売ってくれるに違いない。



「吸血鬼族の方でしたら魔法と剣が必須。少々お待ちください。私めが見繕って参ります。」



そう言って爺さんは颯爽と奥へと引っ込んだ。きっと爺さんの名前はセバスチャンだな。貴様に名をやろう。爺さん、お前は今日からセバスチャンだ!!



「リンさん!!どうするんですか!?本当に金貨1枚も使うんですか!?勿体無いですよ!?」


「んー、それは仕方なくない?ルキナの装備を適当には出来ないよ。先行投資って事で。」


「でも…」



ルキナはアナスタシアに助けを求めるような目を向ける。でもアナスタシアは、はあとため息をつき諦めたような顔をしている。



「ルキナちゃん、リンちゃんは言ったら聞かないからもう無理だよ。」


「フフ、流石はアナスタシア。」


「ルキナちゃんの装備だから無駄遣いとは思わないですけどこれからはお金の使い過ぎはダメですよ?」


「食事と住まいは妥協しないよ?」


「はいはい。わかりましたよ。」



ふむ。これじゃアナスタシアの尻に敷かれているな。俺は亭主関白なのにこれじゃいかんぞ。男の威厳を見せないとな。



「ではリンさんのお言葉に甘えさせていただきます。このご恩はダンジョンで返させていただきます。」


「うん、わかったよ。」



いやダンジョンじゃなくてベッドで返して。色んな性技を磨いて俺を満足させて。


そうこうしているとセバスチャンが戻って来る。手には仰々しく高価そうな布で包まったモノを持っている。



「お待たせ致しました。こちらなど如何でしょう?」




セバスチャンが布を丁寧に開くと中には煌びやかな装飾が施された鞘に収められている剣と黒いキャットスーツみたいな感じの上着が現れる。おいセバスチャン。このキャットスーツは貴様の趣味か?それをルキナに着せて身体のラインとピッチピチの胸を愉しむのか?最高じゃないか。貴様のセバスチャンという名は伊達じゃないな。



「こちらの剣は名を『アルタイル』と言います。ダンジョン産の武器となりますが嘘か誠か空の先に浮かぶ星から落ちて来た金属が加工されたのがこの剣だと鑑定された逸品です。」



いやそれはおかしいだろうセバスチャン。ダンジョンから現れた武器がどうして空から来るんだよ。それに誰がそれを加工したわけ?ダンジョンの中に鍛治師でもいんの?



「そしてこちらの衣は『魔の衣』と言います。この魔の衣は生地自体に魔法によるダメージ軽減効果のある素材が使われていると鑑定されております。おまけに生地が黒という事と体にタイトな作りとなっているのでダンジョン外の隠密などに最適となっております。」



何よりその魔の衣はプレイに使えそうだ。そのファスナーみたいなのを下ろして胸だけ出しながらガン突きしてやったりすると最高に興奮しそう。ふむ、その魔の衣は買い決定だな。



「どうルキナ?ルキナが装備する訳だからルキナが決めてよ。」


「いいんですか?」


「もちろん。」



俺が促すとルキナが剣を取って鞘から刀身を抜き出す。その刀身は漆黒に彩られ、なんともシックな出で立ちをしているカッコいい剣だ。剣って銀色のイメージが強かったから黒い刀身ってなんか以外だ。でも凄くカッコいい。黒って中二心をくすぐる何かがあるよな。



「…いい剣です。私が以前使っていた剣には及びませんが手に馴染むこの感じ…とても素直な剣です。」



素直……?なんだその剣に感情があるかのような言い振りは。もしかしてこの世界の剣って生きてるの?そしたら俺の神魔の剣も生きてるの?まさかキレカワフォームの俺って神魔の剣じゃないだろうな。それだとしたら剣に俺の体乗っ取られてんじゃん。でもそれをこの場で聞くわけにはいかない。剣に感情があるのがこの世界の常識ならアナスタシアとルキナは俺の事を低く見たりはしないがセバスチャンは俺を低く見る。なんだこの三下はってぐらいの目で俺を見下す。そんな事あってはならない。たかだか執事ごときが主人を見下す事などあってはならない。俺を侮るなよセバスチャン。



「こっちの魔の衣だっけ?これはどう?」


「魔法ダメージ軽減が付与されている素材は役立ちますので正直欲しいです。」



ルキナが欲しくなくてもそれは買うけどね。男に戻ったらそのエロいキャットスーツは絶対着せてコスプレプレイすっから。



「なら決まりだね。それじゃこれ頂きます。おいくらですか?」


「アルタイル、魔の衣ともにランクはBとなりますが特殊効果がどちらも付与されております。アルタイルは身体能力上昇(小)、魔の衣は魔力上昇(小)とそれぞれ一つずつ。こちら2品で金貨1枚で如何でしょう?」



おい満額かよ。ボッタくってんじゃねえのかセバスチャンよ。俺好みのエロスーツ持って来たからってあまり調子に乗るなよ。



「き、金貨1枚ですか!?」



アナスタシアが大きな声を出して驚いている。ほら見ろセバスチャン。アナスタシアだってお前がボるから驚いてんじゃねーか。ルキナだって目を見開いて驚いてんぞ。



「どうしたのアナスタシア?値段おかしい?」


「お、おかしいですよリンちゃん!!だってBランクとはいえ特殊効果付きでしかも有用効果ならそれだけで金貨1枚が相場です!!それが2つで金貨1枚なんて半値ですよ!?」



なんだボッタくってなかったのかセバスチャン。半額にしてくれたのか。すまんなセバスチャン。許してくれ。でもなんで半額にしてくれんだ?怪しいな。それ呪われてるとかそういうオチ?呪い装備はいらんぞ。解呪に大金使うパターンは御免だ。



「ふーん。」


「ふーんって…リンちゃんってクール過ぎますよね。」


「そうかな?普通じゃない?」



いや普通じゃねえよ。何スカしてんだよ。それで女にモテるとか思ってんじゃねえぞ。そういう態度でモテるのはツラが良い奴限定だならな。ブサメンだと勘違いで叩かれるからな。



「ならどうしてそんなに安くして頂けるんですか?」


「こちらとしてもタダでお安くする訳ではありません。下心は御座います。」



てめえセバスチャン、俺の身体を狙ってんのか?それともアナスタシアか?ルキナか?とんだエロ執事じゃねえか。



「下心?」


「ここでお嬢様方に恩を売っておけばダンジョンで入手したアイテムを卸してもらえるかもしれないという浅ましい考えですよ。ホッホッホ。」




なんだよ紛らわしい。商売の話かよ。悪いが貴様にはこの身を髪の毛一本足りとも触らす事は未来永劫ないわ。



「なんだそんな事ですか。それなら不用品はこちらで売却しますよ。きっと私たちにもメリットあると思うし。」



俺が不敵に笑うとセバスチャンもそれを理解したようにニヤリと笑う。



「ええ、良いお取引を今後とも是非。私は安心屋の主人セバスチャン・アイゼンフートと申します。どうかお見知り置きを。」



本名セバスチャンなんかーい。




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