Chapter 26 初めてのやきもち

「それじゃ、ルキナのナーシセス隊加入を祝して、乾杯。」


「乾杯!」

「か、乾杯…!」



俺たちは晩飯兼ルキナの歓迎会として美味屋へとやって来た。座る席はいつもと同じカウンター席だ。ここのど真ん中に俺たちは陣取っている。並びは俺を中心に左にルキナ、右にアナスタシアの順だ。アナスタシアは相変わらずの飲み放題コースにして乾杯したばかりなのにもう5杯目。美味屋のおっさんがアナスタシアを見る目が明らかに厄介そうだ。でもおっさん、つまみと食事を結構頼んでやってるだろ?それなら我慢しろ。

そう、意外な事にルキナは結構食うのだ。俺が好きな物を頼んでいいよと言ったらピラフっぽいやつと、グラタンっぽいやつと、ナポリタンっぽいやつに、各種おつまみを普通に食い出している。三、四時間前に大盛りメシを食ったのにこの食欲。この二人を養うだけで一日銅貨50枚必要になんじゃね?そうすっと年間で金貨一枚以上だろ?え?やばくね?10年持たないじゃん。それにハーレム拡張したらそのうち5年持たなくなり1年持たなくなる。え、だめじゃん。これマズいな。つーかさ、貴族ってどんな暮らししてんだ?絶対贅沢してるよね?よく財産少ないのに贅沢出来るよな。いや、違うか。贅沢するから財産無いのか。うーん、ダンジョンで儲けないとまずい。マジ破綻する。レアアイテム手に入れて売っ払って財産築くしかない。



「リンちゃん、両手に花って感じだねぇ。」



おっさんがアナスタシアの酒を作りながら俺に話しかけてくる。おっさん、俺は今、金の事で頭がいっぱいなんだ。お前は黙ってアナスタシアの酒を作ってろ。



「そうだね。アナスタシアとルキナは美人だから。」



俺がそう言うとアナスタシアとルキナは顔を赤くしている。俺が男に戻ったらこのキレカワみたいにさらっとそう言うこと言えるのだろうか。それが出来る男にならないといかんな。



「で、アナスタシア。その新聞なんなの?それも借りて来たの?」



アナスタシアはここにも新聞を持って来ていた。部屋では聞きそびれてしまったが何かあるのだろうか。



「いえ、これは買ったんです。新聞屋さんに過去の売れ残りもあるかどうか聞いて有用なものを手に入れたんです。」


「有用なもの?何かあったの?」


「これを見て下さい。ルキナちゃんには思い出したくない内容だと思うので見ない方がいいです…」



俺はアナスタシアから手渡された新聞を読んで見る。



『ギュルテルティーア帝国、吸血鬼族ヴァンの系譜であるスノウフレイク国を落とす』



・聖樹歴2538年4月13日明朝

ギュルテルティーア帝国がスノウフレイク国に対し奇襲攻撃を行い、同日正午までに決着が着いたもよう。スノウフレイク王、王妃、王子三名は即日処刑、重臣たちの多くは戦死、または処刑となった。第一王女、ルキナ・ヴァン・スノウフレイクは捕らえられ帝国れと連行。こちらが掴んだ情報としてルキナ王女はその後奴隷として奴隷商人に引き渡され、ヴィルトシュヴァイン王国にて売りに出される模様。ルキナ王女の見た目の美しさから最低落札価格は銀貨50枚は下らないとの事。


・帝国側が大勝した理由として、戦にて封魔結石を使用したとの情報がある。封魔結石の使用は国際条約において不使用とされてるが、これは人族間にしか適用されないとの帝国側の解釈があると思われる。我が国においても脅威とみられる魔族やエルフ、竜人に対して同様の措置を取ることが考えられる。


・だが帝国側に不可思議な点も残る。結果として大勝ではあったが、吸血鬼族相手に三将軍が出て来ないのは腑に落ちない。筆者が掴んだ話では当初、三将軍の一人であるルナ・チックウィードが総司令官として赴く予定であったらしい。しかし、結果として総司令官となったのは帝国貴族であるガイアック・バチモス伯爵。バチモス伯爵は帝国の中心的人物でもなければ武勇に秀でている者でもない。帝国側に何かがあったのか?それともチックウィード将軍が何らかの病に倒れたか、死去したのか、憶測が憶測を呼んでいる。


・もう一つ不可思議な点もある。ここまで帝国側が強行に応じた理由がわからない。吸血鬼族は非常に戦闘能力に長けた一族ではあるが争いを好む種族では無い。こちらが攻撃をしなければ害は無いと見るのが自然だ。それなのにここまで根絶やしにする程の何が帝国側にあったのか。こちらにしても憶測が憶測を呼ぶ事態となっている。




記事に目を通したがほとんどが俺にはどうでもいい話だ。ただ、ルキナの家族たちを皆殺しにしたのだけはイラっとくるな。帝国の王様だか三将軍だか総司令官だか誰の命令かは知らねえ。でもよ、俺の女を傷つけた罪だけはいつか必ず清算してやるからな。




「ルキナは見るのやめときな。」



俺が新聞を見ているとルキナが横から見て来ようとするので止める。やはり家族が処刑されたなんて記事は目にするべきではない。それを見てルキナの恐怖が甦る事になっては辛いなんて言葉では言い表せない事になる。



「……大丈夫です。私は皆の最期を見せつけられましたから。全てこの目で見ました。」



マジかよ。そこまでするか帝国よ。俺は日本って平和な国で呑気に暮らして来たから実際治安の悪い国とかで何が起こってるかわからないし、日本でだって過去にどんな事が起こってたかだって知らねえ。普通の教科書レベルで敗戦国の処罰なんて載ってねーからな。でもよ、そこまでする必要ねえだろ。何でルキナにわざわざ家族らを始末する所を見せんだ?ちょっと流石の俺も頭にきたぜ。竜神に会う前にギュルテルティーア帝国は潰すわ。俺も奴らがルキナの家族らにやった事と同じ事してるよ。全員根絶やしにしてやる。同族とか関係ねえ。寧ろ同族だからこそ許せねえ。

俺は打算的な計算や、性欲とか一切関係無くルキナを胸に引き寄せ抱き締める。



「リンさん…?」


「私は口下手だから上手く言えないし、軽々しく辛かったねなんて言えない。ただ、こうしてあげたかったからしてる。」


「……ありがとう。」




今は礼なんかいらねえよ。礼は、俺がギュルテルティーア帝国を滅ぼしたその時にもらう。それまではこの気持ちも口にしたりしねえ。絶対滅ぼしてやるよ。




「それでアナスタシア、有用なものってなに?」


「封魔結石です。」


「それって何なの?記事になってたけど意味わかんなくて。」


「簡単に言えば魔法を使えなくする道具です。」


「何それ?魔道士殺しじゃん。吸血鬼って魔法特化の一族なんでしょ?勝ち目無いじゃん。てか汚すぎ。」



ますます腹が立ってきたぞ。絶対虐殺してやる。他国がドン引きするぐらい虐殺してやる。



「そこなんですよ。汚すぎるんです。」


「どういうこと?」


「いくら亜人相手とはいえ封魔結石を使うのは流石に不味いです。基本的に封魔結石はモンスター相手に使うものです。記事にあるように封魔結石の戦争使用は国際条約にて禁止されています。それを使ったわけですから帝国の他国に対する信頼度はとても低くなったのは確かです。何をするかわからない、勝つ為なら条約を破るかもしれない、そう思われたはずです。それでも吸血鬼族に絶対勝たなければいけない何かがあった。そうは思えませんか?」


「なるほどね。アナスタシアの言う通りかも。そこまでリスク負ってでも手に入れたい何かがスノウフレイクにあった。ううん、ルキナだけを生かしたのならルキナが何かを持っている…?ルキナ、ごめん、思い出したくない事を聞いてもいい?」


「大丈夫です。リンさんがいてくれるなら私は。」



ルキナはそう言って俺の手を握って来る。恋人繋ぎで。



「安心して。ちゃんといるから。でね、帝国に捕まった後って何かされたりした?」


「…ギュルテルティーア本国へ連行された後は特に何もされませんでした。皇帝に会う事も、三将軍と会う事もなく奴隷商人へと引き渡され、帝国の奴隷商館へと移動し、そこで半月程監禁された後にここへと連れて来られました。ただ…戦後、家族の処刑を見せられた後にスノウフレイク王城にて司令官のバチモスに尋問は何度かされました。」


「尋問?どんな?」


「家族たちの死に対して正気を保っているフリをするのに必死で正確には覚えていませんが、『入ったか?』と聞かされていたような気がします。」



……え?それってアレの話じゃないよね?えっ?ルキナってもうヤラれちゃった?いやいや、違うだろ。さっき確認してんじゃん。膜あったよ。狭ったもん。いや…まてよ。そもそも童貞の俺に処女か非処女かなんて区別つくわけねえじゃん。先ず膜ってわかんねーよ。なんなのそれ。もしかして指が入る時点で処女じゃないのだろうか。えっ!?ルキナ非処女!?ちょっと待て。それの確認が一番大事だぞ。



「あのさ、ルキナって処女だよね?」




酒を飲んでいたアナスタシアと美味屋のおっさんが口から盛大に吹き出す。変な所に入ったのかゴホゴホと咳き込んでいる。だが俺はそんな事はどうでもいい。ていうかおっさんなんかマジでどうでもいい。



「リ、リンさん…!?こ、こんな所で突然何を…!?」


「いや、そういうのいいから。こっちにとっては死活問題なんだよ。」



俺はルキナに詰め寄る。ルキナが椅子から落ちそうになるぐらいに詰め寄る。もうお互いの息がかかる距離でキスが出来る距離だ。



「ち、近い近い…!!近いですよリンさん…!!」


「早く答えなよ。」

さっさと答えろ。



「……いえ、どうなんでしょう?」



え、何その反応。顔赤くして目背けやがったんだけどこのビッチヴァンパイア。マジかよ。非処女かよ。非処女に金貨2枚かよ。あの奴隷商人嘘ついたんか。ルキナ処女だって言っただろうが。



「あっそ。」



俺はルキナから離れて自分の席へと着く。こういう時に酒って飲みたくなんだな。なんか邪悪の波動に目覚めた気分だわ。今ならこのクソッタレな王国も滅ぼせそうだわ。



「リ、リンさん…?怒ってます…?」


「別に。」



俺から邪悪な気配を感じているのかビッチヴァンパイアがオロオロしたような俺に話しかけて来る。俺はビッチには用は無い。金貨1枚はくれてやるから荷物まとめて明日には俺の前から消える事だな。



「えっ…どうして怒ってるんですか…?」


「さあ?自分の胸に聞いてみれば?」



俺は取り敢えず目につく枝豆を食べる。もうこの世界での品名も忘れたが枝豆でいい。俺はイライラしてるんだ。枝豆をパクつきまくってストレスを発散せねばならない。



「私が処女じゃないって反応したのが気に障ったんですか…?」


「さあ?」



言わなくてもわかんだろビッチヴァンパイア。部屋に戻ったら好きな事しよ。金貨2枚の元ぐらい取らなきゃやってられん。どさくさに紛れてアナスタシアもヤッてやろ。



「ち、違いますよ…!私がああいう反応したのは…その…さっきリンさんに…その…入れられ…その…たので…処女かどうか言い切れなかっただけです…」


「えっ?処女なの?」

えっ?処女なの?



「お、大きい声でそういう事言わないで下さい…!!……そうですよ。」


「その帝国の変なおっさんに無理矢理みたいなのじゃないの?」

帝国の鬼畜野郎に犯されたんじゃないの?



「それは無いです。そんな辱めを受けるぐらいならこの命を絶った方がいいです。」


「婚約者とか居てヨロシクやってたんじゃないの?」

実は遊びまくりのビッチ姫様なんじゃなくて?



「そういう方はいませんでした。吸血鬼族は寿命が長いのでまだ結婚とかの時期でも無いですし。」


「ふーん、そうなんだ。ほらルキナ、何してるの?もっと食べなよ。お皿空になってるじゃん。マスター、グリグリ豆おかわりお願い。」


「あれ…?リンさん…怒ってないんですか…?」


「何で私が怒るの?フフ、変なルキナだね。ほら、早く食べなよ。」


「あ、はい…!い、頂きます…!」



全くルキナには困ったもんだ。俺をからかって遊んでやがるんだな。よし、そんな悪い娘は後でお仕置きをして懲らしめてやらねばな。





ーー



ーー




「…マスター、リンちゃんって女の子が好きなんでしょうか?」


「…どうだろうなぁ。俺には何とも言えねえが男に関心があるようには見えねえぜ。」


「…ですよね。まあ、男の人に興味があるリンちゃんは見たく無いですけど。」


「あぁ…もしかしたらその気持ちなのかもしれねえな。」


「その気持ち…?ですか…?」


「リンちゃんもルキナちゃんを他の奴に取られたらムカつくって事なんじゃないかい?今アナスタシアちゃんが言った事ってそう言う事だろ?大好きな友達を誰かに取られたら嫌ってヤツだよ。」


「なるほど…そうかも知れませんねっ…!」





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読んで頂いてありがとうございます。書き溜めが無くなったのでここからは不定期更新になります。




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