Chapter 23 規格外の元男

「どうぞこちらへ、ワタナベ様!!」



応接室のような場所に私は飼い主である少女とともに連れて来られた。私がもう人のモノとなったからなのか、鎖で引きずり回すようなぞんざいな扱いを受ける事は無かった。アレは死ぬ程苦しいので正直ホッとした。

奴隷商人と少女は椅子へと座るが私は立っている。流石にそれぐらいの事は理解している。これから私は椅子に座る事など拷問を受ける時以外は無いだろう。食事を与えられても地べたに座って食するのが奴隷だ。



「では契約の締結を致しましょう。オークションでの落札額、金貨2枚をお願い致します。」



奴隷商人がトレイを少女の前に出し、揉み手でニコニコしながら支払いを待っている。私の価値が金貨2枚か。恐ろしい金額だ。一体それを回収する為に私は何をされるのだろうか。水も与えられていないのでもう出るものも出ないが、考えただけで失禁してしまいそうだ。



「はい、金貨2枚。」



少女は惜しげも無くトレイに金貨を乗せる。これだけの大金をもってしても少女には躊躇いがまるで無い。一体どれだけの資産があるのだろうか。袋の中にはまだ随分とお金があるように見える。全て金貨という訳はないだろうが、金属音がするから木貨という事はない。銀貨と銅貨だとしても凄まじい金額。この少女は何者なのだろう。



「確かに頂戴致します。では奴隷譲渡の契約を行いましょう。ワタナベ様、手の平を私の手の平に合わせて下さい。」



少女が奴隷商の男と手を合わせる。一瞬少女が躊躇ったように見えたが私の勘違いだろうか。それに嫌々手を出したようにも見えてしまう。



「頭の中に奴隷譲渡を受け入れるか浮かんでおりますな?それを受け入れて頂ければ完了です。」


「わかった。」



少女と奴隷商人の手が鈍い光を出して譲渡が完了する。これで私は少女の奴隷だ。



「完了ですな。奴隷はワタナベ様の命令を何でも聞きます。この首輪がある限り絶対服従です。反抗しようものなら首輪が締まり、地獄の苦しみを奴隷へと与える仕組みとなっております。当然魔力キャンセラーや身体能力の大幅減少の付与付きですので万が一の事故も起こりません。」


「首輪って自力で外せないの?」


「それは不可能です。自分で外そうとすれば自爆する仕組みとなっております。その威力は上級魔法相当となっておりますので弱体化された身体ではいかに吸血鬼であろうと死んでしまいます。これは過去に実験済みですのでご心配なされなくても安心して頂けると思います。」


「ふーん。」



実験済み…か。きっと私もこれからあらゆる実験にかけられるのだろう。この少女が私を買う理由なんてそれしか思いつかない。使用人ならば人族を雇うに決まっているもの。



「じゃあ首輪を取るのってどうやるの?」


「首輪のメンテナンスという意味でしょうか?それはやはり主人に外して頂く他ありません。替えの首輪を用意しておき、瞬時に取り替えるのです。念の為高ランクハンターを雇っておく事をお勧め致しますがワタナベ様にはそんなご心配は無用かも知れませんな。」


「主人なら外せるって事ね。それがわかればいいや。じゃ、取引成立ならこれで帰らせてもらうね。」


「今後とも是非ご贔屓にお願い致します。こちらの鎖はサービスさせて頂きますのでご活用下さい。」


「うっ……!!」



私は急に鎖を引かれた為地べたに転がされてしまう。そんな私を見て奴隷商人の男がゴミを見るような目で嘲笑っている。本当に私は惨めだ。



「ねえ、そういう事やめてもらえるかな?」



少女が明らかな苛立ちをもって奴隷商人を見ている。部屋の空気がピリピリとした強い緊張感に変わっていくのがわかる。



「とりあえず謝ってもらえる?」



奴隷商人の男が本能的に不味いと思ったのだろう。すぐさま立ち上がり頭を下げる。



「も、申し訳ございません…。ワタナベ様の所有物に対して傷をつけるような真似をしてしまい誠に申し訳ございません…。」


「いや、私にじゃなくてその子にでしょ。」


「は…?」



私も事態がよくわからなく地べたに座ったまま成り行きを見ているしかない。奴隷商人の部下の男はオロオロと狼狽え、少女と奴隷商人を交互に見ている。奴隷商人は流石にそれに従うのはプライドが許さないのだろう。少し目つきを鋭くさせ、折った腰を元に戻す。



「…ワタナベ様、流石にそれは出来かねます。人族が亜人に、ましてや奴隷に頭を下げるなど聞いことがありません。私にもーー」

「ーー謝れ。」



先程よりも強烈な、なんとも言えない圧が部屋中に降りかかる。部下の男は微動だにせず少女を見る。奴隷商の男も少女を見るが少女自身が奴隷商の男を見ている為睨まれている形になっている。奴隷商の男は顔から汗が滴り落ち青ざめていく。次第に苦虫を噛み潰したような顔になり、私の方を向いてボソッと呟いた。



「…悪かったな。」



そう呟くとすぐに私から顔を背け荒く息を吐き出す。私は何も答えなかった。そんな事言われても私の心は癒されない。それに返事をする必要も無い。ただ、少しだけ心はスッとした。



「じゃ、行こっか。あ、ちょっと来て。」


「は、はい…」



私は立ち上がり恐る恐る少女の元へ近寄る。すると少女は私の首に手を伸ばす。私は反射的に目を瞑る。怖くて萎縮するように肩を震わせてしまった。するとガチャガチャと音がして、ジャラッと床に何か落ちる音がした所で目を開けた。床にあるのは首輪につけられた鎖だった。



「行くよ。」



それだけ言うと少女は部屋のドアを開けて出て行く。私も小走りで後を追った。

この少女は普通の人族とは違うような気がする。私を助けてくれたような…そんな気もする。もしかしたら…この少女なら…必死に頼み込めばあまり酷い事はされないかもしれない。言うだけ言ってみよう。どんなに卑しくても、みっともなくても、やっぱり痛い事をされるのは怖い。

そう思っていると館の外へ出る為の扉に出る。ここへ入った時より太陽が沈み始めているがまだまだ明るい。吸血鬼は昼に弱いと思われがちだが実はそうでもない。昼でも普通に動けるしましてや灰になったりなどしない。

先にいる少女が立ち止まるので私も止まる。懇願するちょうどいいタイミングかもしれない。



「それじゃとりあえずーー」

「ーー御主人様、お願いがございます。」



私はその場で平伏すように少女に土下座をする。



「私はこれより御主人様の命令を何でもお聞き致します。反抗などしたり致しません。ですから、どうか、痛い事や苦しい事などをするのはおやめ下さいませんでしょうか。自分が卑しい事を言っているのは重々承知しております。奴隷は主人に何をされても仕方がない事もわかっております。ですが…私は怖いのです…腰抜けなのです…どうか…どうかご慈悲をお与え下さいませ…」



私は地に額を擦り付け少女の慈悲を得られるのを待つ。どうかお願いだから私の申し出を受け入れて欲しい。そう思いながら必死で頭を擦り付けた。



「……ねえ、ルキナ。顔を上げて。」



私は顔を上げない。返事をもらうまでは絶対顔を上げない。



「もう。ほら、顔上げなって。私はルキナに酷い事なんかしないから。」



私はその言葉を聞いて歓喜に震えた。本当に卑しい女だ。もう誇りすら失っている。いや、最初から私には吸血鬼としての誇りなど無いんだ。



「……本当でございますか?」



私は少女の言葉を聞いて期待を抱いている。なんて卑しいんだろう。もはや王族としての品位すら投げ捨てている。



「本当だって。はい、顔上げる。」



私は少女に少し強引に立たせられる。でも乱暴とかではない。母親が子供を起き上がらせるような、そんな感じだった。



「あーあ、額も膝も汚れちゃってるじゃん。」



そう言いながら少女はポケットからハンカチを取り出し、私の額を拭き始める。



「おやめ下さい御主人様…。私のような汚い亜人にそのような綺麗なハンカチで拭いてしまいましたら汚れが取れなくなってしまいます…。」


「そういう言い方やめなよ。別に人族も吸血鬼族も同じでしょ。それにルキナを汚いなんて思ってないから。大体からしてハンカチなんか洗えば綺麗になるでしょ。それとさ、悪い事してないのに頭を下げるのはやめな。ルキナは王族なんでしょ?それなら簡単に頭なんか下げちゃダメ。」



私はこの少女がわからない。どうして奴隷にそんな言葉をかけるのだろう。そもそも私に酷い事をしないなら何故買ったのだろう。わからない。



「とりあえず汚れは取れたかな。ていうか…下着もつけさせてもらえなかったんだね。とりあえずコレ着てなよ。靴は無いからちょっと我慢ね。」



少女が私に外套を着せようとしてくる。どうみても高級な外套だ。奴隷に着せるような物ではない。それどころかスノウフレイクの姫であった時でさえこのような上等な外套は身につけた事はない。



「おやめください御主人様…!奴隷の私がそのような上等な外套を身に纏うなど恐れ多い事。何よりこのように汚い私が、御主人様のお召しになられる物を着ては汚してしまいます。ですのーー」

「ーーいいから着な。」



もうしっかりと身体に染み付いたサガなのだろう。少女を怒らせてはいけないと肌で感じた私はおとなしく外套を身に付けた。首から膝下まで隠れた事により裸足でいる事を除けばとても奴隷には見えない。御主人様よりも背が低い私にとって幸いした状況だ。



「それと御主人様ってのもやめてよ。私はそんな風に呼ばせる趣味はないし。私は渡辺凛。凛って呼んで。」


「わかりました…ではリンさーー」

「ーー様で呼ぶのもやめてね。」


「……リンさん。」


「うん。それじゃとりあえずここから離れようか。」




********************



馬車に乗せられ連れて来られた場所は洋品店だ。しかもここは王城正面に位置する場所に構えている事から貴族御用達のお店だろう。店名には御洒落屋と書いてある。スノウフレイクでも聞いた事があるぐらいの有名店だ。

御主じ…リンさんは御洒落屋のドアを開けて颯爽と中へ入る。まだこの方の素性はわからないが絵になる立ち居振る舞いだ。



「いらっしゃいませワタナベ様。本日はどのような品をお探しで?」



店に入るなり店員がリンさんに話しかけてくる。見る限りリンさんはここの常連のようだ。チラりと値札に目をやるがどれもこれも銅貨と書いてある。噂通りの高級店だ。



「この子の服とか買おうと思って。見せてもらっていいですか?」


「リ、リンさん…!?」



私は思わず止めてしまった。主人に対して奴隷が意見するなどとんでもない話だ。それだけで逆鱗に触れ、百叩きにあってもおかしくはない。だがそれ以上にリンさんの行動があまりにも異常なので思わず身体が動いてしまった。



「どうしたの?」


「勝手に口を開く御無礼をお許し下さい…。このような高級店で私の衣服など勿体なく思います…。私などには外套の下に着ているような服をお与え下されば結構ですので…」


「うん、却下。」


「え…?」


「いいから下着3、4枚と靴を選んで来て。服は私が選ぶから。あ、それとサンダルかな。足を洗うまで靴は履けないでしょ。中汚れちゃうし。サンダルならそのまま洗えばいいからね。」


「いえ、ですがーー」

「ーーいいからさっさと選ぶ。」


「は、はい…!!」



リンさんに逆らう事が出来ず私は小走りで下着コーナーへと向かう。リンさんが考えている事はわからない。




********************




結局私はリンさんに下着を4枚と靴にサンダル、それに服を4着買ってもらってしまった。何故かベージュの下着は却下され、赤と黒は強制的に選ばされてしまったけどどうしてベージュはダメだったのだろう。

そして次に向かった先は食事処だ。またも高級店の様相を見せている。店名には美味屋と書いてある。ここもスノウフレイクで聞いた事があるぐらいの有名店だ。

やはりリンさんは颯爽と中へ入る。私も遅れないようにリンさんの後をついて行く。



「こんにちは…ってアレ?アナスタシアは?」


「アナスタシアちゃんから伝言で王立図書館に行って来るから先に安眠屋に戻っててってさ。」


「へぇ、図書館なんてあるんだ。」


「きっとリンちゃんが知らない事はまだまだあるぜ。って、その子が例の子かい?」


「うん。」


「上手くいって良かったな。」


「そうだね。ルキナ?何してるの?早く座りなよ。」


「は、はい…!」



店主と談笑している所を見るとリンさんはここでも常連なんだ。一体何者なのだろう。それに…やっぱり一番気になるのは私を買った意味だ。店主との話から察するにリンさんはここでアナスタシアと呼ばれる方と待ち合わせをしていた。それに店主は私を見て『例の子』だと言った。やはりリンさんは何らかの役割を私に求めているのは確かだ。私の予想では恐らく売春をさせるのだろう。服や下着はその為に必要だったのだ。そして素材から考えて私が相手をするのは貴族たち。多分当たっていると思う。それが私の役割ならば仕方がない。

私はリンさんの元へと近づき、リンさんが座る椅子の横で地べたに座る。



「ちょっと何してんのルキナ。立ちなよ。」


「はい…?私、何かしでかしましたでしょうか…?申し訳ございません。許して下さい。怒らないで下さい。」



しまった。考え事をしながら行動したのはマズかった。リンさんが明らかに怒っている。私は即座にリンさんに土下座をして謝罪する。



「だからそれもやめなって。怒ってないから。ルキナが下に座ったからやめさせただけだよ。」


「下に座るのがダメだったのですか…?すみません、ではどうすればよろしいのでしょうか…?人族の文化に対する教養が足りてないのでわからないです…」


「私の隣に座ればいいんだよ。」


「奴隷の私がですか…?奴隷が主人に同席するなんてゆるーー」

「ーーいいからさっさと座る。」


「は、はい…!!」



私はリンさんに言われるまま恐る恐る隣の席へと座る。リンさんの顔をビクビクしながらチラリと見るとリンさんは満足そうな顔をしていた。良かった。怒られない。



「ルキナ、お腹空いてるでしょ?何か食べなよ。」


「いえ大丈夫です。吸血鬼は空腹でも一月は生きられます。」


「うん、だからお腹空いてるんでしょ。知った風な口を利かせてもらうけど、奴隷って状況で、あんなクソ野郎ならご飯一度ももらえてないでしょ?下手をすれば飲み物だって。」


「空いていないといえば嘘になりますが本当に大丈夫です。もし許して頂けるのならリンさんの食べ残しをお与え下されば幸いです。」


「…はあ。ねえルキナ。そんなに遠慮する事はないんだって。好きなの食べなよ。それに私は食べ残したりしないから余らないよ。」


「それでしたら貧民街で売られているパンでも頂けましたら私は幸せでございーー」

「ーーいいからさっさと頼む。」


「で、ですが…奴隷がこのような高級店の食事を頂くなどあり得ない事かと… 」


「マスター、ドルドルキノコのリゾットとギュルギュルオレンジのソーダよろしく。リゾットは大盛りで。」


「きっとそれ頼むと思ったからちょうど出来たよ。」


「流石マスター。」



私は理解した。大盛りにしてワザと残そうとしてくれているんだ。そうすれば私が食べると思って。リンさんは優しい。こんなに待遇の良い奴隷は聞いた事がない。リンさんの為に精一杯お勤めをしよう。性行為などした事がないけれど、私が上手くやればたくさんのお客がつく。そうすればリンさんが私に使った以上の金額を稼ぐ事が出来るはずだ。早期に達成出来れば実験や転売に回される事もないかもしれない。頑張ろう。



「はい、食べなよ。」


「えっ?」



リンさんは一口も口をつける事なく出された食事を私に渡して来る。ギュルギュルオレンジは飲みたいのか店主に追加で注文をしている。



「あの…リンさん…食べ残しを頂けるのでは…?」


「食べ残しなんかあげないよ。さっきも言ったけど私は食べ残したりしないから。」


「で、ですが…」


「じゃあ捨てて良いよそれ。」


「……。」


「食べたくないなら無理に食べる事ないもんね。そういう強制も私はしないし。でも晩ごはんの時もまた同じようにするから。私の食べ残しは出ない。貧民街?のパンだっけ?それも買わない。ずっとココのメニューをローテーションで出すから。気が向いたら食べなよ。」



リンさんが凄く真剣な顔で目をそらす事なく私の目を見ながら話す。怒っている訳ではない。本気で言っているんだ。この方がこうまで言っているのにその気持ちを無下にするなんて出来ない。私は…その言葉に…少しだけ…甘えてしまおう。



「……頂いてしまってもよろしいでしょうか?」


「フフ、どうぞ。」



リンさんは満面の笑みというのは出さない。ほんの少しだけ笑うだけだ。でも心から喜んでいるのはわかる。



「…頂きます。」



何日ぶりの食事だろう。


このリゾットの味に私はほんの少しだけ涙を流してしまった。




********************




美味屋での食事を終えた私はリンさんが宿泊している宿へ連れて行かれた。安眠屋。大陸で三本の指に入る程のハイクラスの宿だ。そしてここでも店主とリンさんは親しい間柄だった。一体何者なのだろう。だがそれよりも私が気になるのはきっとここが私の役目を果たす場なのだという事だ。きっと今日から客を取らせられる。多分研修というものを今からするのだろう。



「さ、入って。今日からここがルキナの寝泊まりする所だよ。ま、多分だけど。」



やはり私の勘は当たった。この部屋が私の仕事場なんだ。そして多分とリンさんは言った。私が貴族の男を満足させられなければすぐに売り払われるか配置換えなのだろう。背筋がゾッとし、心臓が掴まれるような嫌な気分になった。



「んー、まだ来てないけどどうしようかな。私だけで決めちゃっても大丈夫かな。ルキナなら全然大丈夫だと思うし。」



やはり他に誰かが来て研修をするんだ。決めるというのは客の事だろう。私なら全然大丈夫というのは多分…プレイ内容の事だと思う。私なら客のどんな要望にも応えられるとリンさんは思っているんだ。もちろん私に拒否権など無い。やれと言われればどんな事でもするし、させるしかない。でもきっと痛い事は無いと思う。約束してくれたんだから。



「んじゃルキナ、お風呂入ろうか。お風呂入ってないでしょ?それに足だって汚れてるし…っていうか全部だね。」



こんな汚れた臭い身体では仕事にならないのは当然だ。研修に備えて早く綺麗にしたいとリンさんは考えているのだろう。



「お姫様って自分の身体洗った事ある?イメージでは侍女に洗ってもらってそうなんだよね。」


「リンさんが仰る通り、侍女に洗ってもらっていました。ですが自分で洗えます。大丈夫です。」


「いいよそんなの。私が洗うから。どこもかしこも。」


「そんな…!主人にそんな事をさせるわけには…!」


「それに関してはルキナに拒否権はないかな。もちろんアナスタシアにも。」


「は、はあ…。わかりました…。」



先程から名前が出て来るアナスタシアという方もリンさんの所有奴隷なのだろうか。

リンさんに命令されるのなら仕方がない。きっとちゃんと綺麗に出来るのか信用が無いんだ。もっと信頼されるようにならないと。



「んじゃ全部脱いじゃって…って言ってもマントの下は最初から着てたそれだけだもんね。それは捨てちゃいな。もう必要ないし思い出したくもないでしょ。」


「はい。わかりました。」



私はリンさんに命じられるまま裸になり、ゴミ箱へと布の服を捨てた。外套は洗濯機の中に入れろとリンさんが仰ったので言われるままにした。



「そしてっと。」



リンさんが私に近づき首に手を伸ばす。



「これが邪魔なんだよね。はい取れたっと。」


「えっ…!?な、何をしているのですか…!?」




リンさんが私に付けられていた奴隷の首輪を外してゴミのように軽快にゴミ箱へと捨てた。私はリンさんの行動が全く理解出来ず、ただただリンさんの顔を見ているだけだった。

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