Chapter 22 ルキナ・スノウフレイク
「よし、到着したな。ではコイツを…とりあえず拷問部屋でいいか。連れて行け。」
「ハッ!!」
私を買った奴隷商の男が部下に指示を出し檻の鍵を開けている。下卑た笑みを浮かべ私をみながら。
「カカカ、拷問部屋と聞いて怯えているのか?安心しろ。大事な売り物のお前に傷をつけるような真似はせん。お前の身体の検分をするのに手頃な場所が空いていないのでな。人の目のつくところでは嫌であろう?」
「フン、ニンゲン風情が。貴様らのような屑に恐れを抱く事などない。」
私は精一杯の虚勢をはる。本当は怖くて仕方がない。拷問部屋と聞いて自分がどんな事をされるか想像しただけで漏らしてしまいそうなぐらい恐ろしくて仕方がなかった。そして、この男が私を拷問するつもりが無いと知って心底安堵してしまった。
「流石は吸血鬼の国、スノウフレイクのお姫様だ。まだまだ心は折れていないと見える。」
「何故この私が心を折らねばならん?この首輪を外した暁には貴様らのような卑劣な下等生物など即刻討ち亡ぼしてくれるわ。」
「カカカ!!これはこれは勇猛なお姫様ですな。」
奴隷商の男は私を馬鹿にしたような言い振りで嘲笑う。
「だが姫様も少しは身の振り方を弁えた方がいい。貴様らは帝国に敗れ去ったのだ。吸血鬼など恐るるに足らん。」
「あのような小細工をしておいて良く言う。あんなもの騙し討ちではないか。」
そう、私の故郷であるスノウフレイク国はギュルテルティーア帝国に滅ぼされた。
会談と称して使者が訪れたのが一月前。私たち吸血鬼は争いを好まない。人族の間では好戦的で気性が荒いと伝えられているらしいがそれは誤解だ。そんな我らに対して帝国側の平和的な会談の申し出は非常に喜ばしいものであった。何より我らの地位向上の為に尽力したいという帝国の考えに感動してしまった。それが罠であるとも知らずに。
そして一週間前。会談の予定日のその日、武装した帝国兵団1万がスノウフレイクへと攻めて来た。我らの戦力は1000足らずだが大半が個人ランク40を超える魔道士であるし、父や兄たち、そして重臣たちは聖天魔道士や大魔道士という高位のジョブに就いている。帝国の三将軍が出張って来なければ戦にすらならない。そう思っていた。
だが戦はほんの数時間で決着した。後はひたすら蹂躙され、略奪され、虐殺され、犯され、終わった。国民たちはどうなったかわからないが、父、母、三人の兄たちは皆殺しにされ、重臣たちも皆虐殺された。
敗戦の理由は『魔封結石』だ。魔封結石という魔力を封じ込める結界を張る石がスノウフレイクに敷かれていた。本来魔封結石は魔法系モンスターたちを弱体化させる代物であり、戦争の道具として使用してはならない条約が人族の間には存在している。我々も当然そのような卑劣な真似はしない。例え条約などを結んでいなくてもそのような行為はするわけがない。何より魔封結石を使うには特殊な方陣を組まなければならない為、それを戦争に使うのはなかなか難しい。相手国の領土を堂々と歩く事が出来なければそれは叶わない。だが今回に限ってはそれは可能であった。会談をする為の使者が訪れたのだから。城へと入り、方陣を組む機会も得られる。私たちの考えが甘かったのだ。
「騙し討ち…か。まあ、人族相手に騙し討ちをするのは条約に反してしまうが、亜人に対してはそのような事は適用するまい。ただの害獣駆除、だからな。カカカ!!」
「貴様ァ…!!!」
私は恐怖よりも同族を愚弄された事に激昂した。檻を破ろうと揺すり、叩くがどうにもならない。この奴隷の首輪により私には何の力も使う事が出来ない。
「フン、往生際の悪い女だ。おい、さっさと連れて行け。拷問部屋へ連れて行ったら壁に両手両足を吊るしておけ。反抗するなら鞭で叩いて構わん。だが顔はやめろよ。価値が下がるからな。」
「ハッ!!」
檻の鍵が開き、傭兵のような連中が私を抑え、首輪に鎖をつけていく。
「暴れるなよ!!暴れたらこの鞭で引っ叩くからな!!」
私は傭兵が振りかざす鞭を見て抵抗する形をやめた。棘のようなものがついている恐ろしげな鞭。そんなもので叩かれたら服が破れるどころでは済まない。肉は裂け、血が吹き、骨が見えるかもしれない。私は臆病だ。
「おっ?意外とおとなしいな。最初から素直にそうしておけばいいんだ。ケフリカル様に逆らっても何も良い事はないんだからな。おら、行くぞ。」
傭兵が力任せに鎖を引き、強制的に私を歩かせる。想像以上の圧力に首が折れるかと思った。奴隷商人の館に入る事に足が竦みそうになる。陽が出ているのにも関わらず夕暮れ時のような暗さ。ここに入ったらもう本当に終わりだ。そうは理解しているが反抗する勇気もない。私はおとなしく鎖を引かれるまま館の中へと引きずられる。
中は外観以上に薄気味悪かった。この世の底のようななんとも形容しがたい気味の悪さ。もう堪えられなく震えてしまいそうであった。泣いてしまいそうであった。だが私を思いとどまらせたのは吸血鬼としての誇り、一族の誇りであった。一度は逃げてしまった己の恥をこれ以上上乗せしてはいけない。
しかしその決心が早くも揺らぐ。地下へと引きずられて行く時にもう二度と外へ出られないような恐怖が私を襲う。何よりここには血の臭いがする。怖い。恐ろしい。父様、母様、兄様、もうルキナは駄目です。心の震えが止まりません。私はどうなるのでしょうか。みんなで楽しく過ごしたあの日々に戻りたいです。
それでも私は泣き出さなかった。死んだ皆の事を思うとどうにか耐えた。耐えられた。
「おい、拷問部屋ってのはここか…?」
「まあ、ここだろうな。」
どうやら着いたらしい。傭兵たちが部屋の様子を見て顔が引きつっている。
「あの奴隷商人様も恐ろしい方だな。一体ここで何をしているんだか。」
「なんか生臭い嫌な臭いがするぜ…昼時なのに食欲が湧かねえよ。」
「さっさと終わらせて報酬もらって帰るぞ。おい吸血鬼。鎖を外すが暴れるなよ?暴れたらわかってるな?」
私は反抗しなかった。下を向き部屋の中も見なかった。余計な情報が入れば本当に耐えられなくなる。私はおとなしく両手足を括られ目を閉じた。
********************
それからどれくらい時間が経ったかわからないが地下へと降りてくる足音が聞こえた。心臓の音がバクバクと大きくなっている。私は乱れそうな呼吸をどうにか落ち着かせる。
「これこれは、なかなか唆る格好ですな姫様。」
先程の奴隷商の男が手に何かを持ってやって来た。薄暗くて何を持っているかはわからないが何だろう。怖い。
「さて、あまり時間も無いので検分をするとしましょうか。」
奴隷商の男が私に近づく。その時に手にしているものが初めてわかった。ナイフだ。それを理解したと同時に男が私の纏うドレスの胸ぐらを掴みナイフをあてる。
「な、何をするこの下郎が!?」
「うっせえ!!黙ってろ!!時間がねえって言ってんだろ!!殴られてえのか!?」
突如として豹変する男の態度に私は萎縮してしまう。男は構う事なく私のドレスをナイフで破り、下着も全て破り捨て一糸纏わぬ姿を晒される。
そして男はランタンを右手に持ち、左手を私の秘部へあて、指を開いて中を調べるようにしている。恥ずかしさと情けなさで私はたまらなかった。
「よし、間違い無く処女のままだな。野盗崩れの傭兵だからひょっとしたら犯されてるかもと心配であったぞ。処女じゃなければ売値がグッと下がってしまうからな。」
「……この…ゴミが……」
私がどうにか搾り出した言葉はそれだった。声が少し震えてしまったような気がする。
「ケフリカルよ、それが吸血鬼の娘か?」
部屋の外から声がするので反射的に目を向ける。奴隷商の男に辱めを受けていて気づかなかった。
「おぉ、マチリアス伯爵!!ええ、ええ!!こいつがスノウフレイクの姫でございます!!」
伯爵…ヴィルトシュヴァインの貴族か。貴族が奴隷を持つのは人族では当たり前と聞いた。ギュルテルティーアでも恐ろしい事になっていただろうけど、こんな腐敗した国の貴族では私の末路はやはり変わらない。
「ほう、顔も体も最上級だな。」
貴族の男が私の顎を乱暴に掴み正面を向かせる。私は精一杯の反抗をしようと試みた。
「何をする貴様ッ!!」
私はそう言うと顎を強引に引いて貴族の男の手から離れる。そして想定外の痛みが私の左頬を貫いた。
「あぐっ……!?」
貴族の男が私を殴っていた。両の手をグーにして二発、三発と私の両頬を殴りつける。
「亜人の分際でヴィルトシュヴァイン王国伯爵位であるこの私に対して手を振り払うなどどういう了見だ貴様ッ!!」
私は痛みと恐怖で身体が震えているのがわかる。もう心が完全に折れてしまう寸前だ。謝って殴るのをやめてもらいたいと思っている。心がもう持たない。
「伯爵!?マチリアス伯爵!?おやめ下さい!!商品に傷をつけられては困りますぞ!!!」
意外な事に私を助けたのは奴隷商の男であった。私は心が完全に折れる寸前に貴族は殴るのをやめた。
「フン、吸血鬼なのだからこの程度の傷すぐに回復するであろう。それにこいつは私が買うから心配するな。」
「はぁ…、そうだとしても困りますぞ。伯爵が必ず落札されるとは限りませんので。」
「案ずるな。私はこいつに銀貨80枚出すつもりだ。」
「ぎっ、銀貨80枚ですか…!?」
「その額を払ってやる。だから細い事をいちいち言うな。まあ、今はここでやめておいてやる。おい、吸血鬼。」
ぐったりと前に倒れ込んでいる私の髪を力任せに掴み強制的に顔を上げさせられる。
「連れ帰ったらたっぷりと楽しませてもらうぞ。私は苦痛を与えて歪む顔を見ながらの性行為が好きでな。前にいた亜人の奴隷は体のあちこちを少しずつ切り刻んでいたら死んでしまったし、その前の亜人は首を吊らせながらしていたら終わる頃には死んでしまった。だが、貴様は吸血鬼だ。首を落としても死なんのだろう?クハハ、実に楽しみだ。首を落としての行為はした事が無い!!存分に私を楽しませるのだぞ!!」
私はついに漏らしてしまった。あまりの恐ろしさに、恐怖に、とうとう屈してしまった。歯をガタガタと震わせて。心が完全に折れてしまった。
「おや?なんだなんだそれは。つまらんではないか。精一杯の虚勢を張っていたのだろう?」
「……え?」
貴族の男の言葉に私は心臓をえぐられるような気持ちになった。なんで私の心の内を知っているの?どうして?
「マチリアス様、まだそれを言うのは…」
「良いではないか。どうせ私が買うのだ。おい、吸血鬼。貴様が臆病者の腰抜けなのはとうに知れているのよ。此奴もそれをわかっていて貴様の演技につきあっていたのだ。心の中で腹を抱えてな。我らのように奴隷の扱いに長けた者が奴隷の考えなど手に取るようにわかる。それに、貴様は戦の時に震えて自室のクローゼットに隠れていたのだろう?笑い草として王国にもその話は届いておるわ。」
その言葉を聞いて、私はもう争う気は無くなった。あまりにも惨めで、情けなくて、恥ずかしくて、絶対的な服従を決めてしまった。
この後私は手枷を外され、奴隷商人からボロボロのワンピースのような布服を着させられた。その時に飼い主を御主人様と呼び、平伏すような態度をしろと命じられた。そうすれば少しは大切に扱ってもらえると言っていた。私はただ「はい」としか答えなかった。
もう逆らわずに少しでも優しくしてもらうようにしよう。もう怖いのも痛いのも嫌だ。
********************
「おい、時間だ。行くぞ。」
「…はい。」
私は奴隷商人に連れられ拷問部屋を出る。もう虚勢を張って反抗する事もしない。臆病者の自分が知れ渡っているのなら隠す事も無い。一族に対して申し訳ない気持ちはある。だが、戦の時に勇気を出せなかった私が一族に対して何かを思う事こそ冒涜である。もうあの戦の時に私は吸血鬼としての誇りを捨て、一族から追放されたのだ。
長い階段と通路の先に一つの部屋についた。ここでオークションが行われるのだろう。私を買うのはあの貴族だと決まっている。銀貨80枚か。そんな金額以上を出せるものなんてまずいない。貴族の財産でさえ半分近く失う金額だ。どうせ死ぬのなら少しでも楽に逝かせて欲しい。痛いのや苦しいのは嫌だ。首を落とされれば吸血鬼でも間違い無く死ぬ。吸血鬼が首を落としても死なないなど馬鹿な迷信だ。首を落とされたら苦しいんだろうな。
「じゃあ行くぞルキナ。あの伯爵のボンボンが銀貨80枚だと言っていたが出来るだけ釣り上げたい。値が上がるよう頑張れ。」
「……はい。」
私は鎖を引かれ舞台裏からステージへと上げられる。オークションの舞台は劇場のような作りだった。薄暗い室内に、上から下に下がって来るような作りの階段。席は全て埋まってはいない。最前列付近に気味の悪い人族の男たちが下卑た笑みを浮かべて私を見ている。
「さあ、さあ!!お待たせ致しました!!本日の超目玉商品!!先日!!ギュルテルティーア帝国によって滅ぼされた吸血鬼の王国、スノウフレイク国第一王女、ルキナ・ヴァン・スノウフレイク!!」
ウオオオオ、という声が会場中を包む。地獄と呼んでもまだ緩いと思うような仄暗さと狂気を帯びた異様な空間。私は身体の震えが止まらない。あまりにも恐ろしくて奥歯まで音を鳴らしていた。
「この眉目秀麗な容姿もさる事ながら、個人ランクは40を超え、ジョブは上級職である大魔道士!!更にはクラスまでも上位種であるヴァンパイアプリンセスにチェンジ済み!!加えて処女!!ダンジョンや戦に使うもヨシ!!この美貌を徹底的に蹂躙し穴という穴を犯すもヨシ!!そして、ヴァンパイア特有の再生力を使っての人体実験に使うもヨシ!!それは落札者様の自由となります!!!」
なんでこんな事になってしまったんだろう。どうして帝国は攻めて来たのだろう。帝国が憎い。帝国さえいなければ誰も死ななかったのに。みんなと幸せな日々をおくれたのに。私は帝国を許さない。でも…一番許せないのは私。これは私だけ逃げた罰なんだ。みんなが苦しんで死んでいく中で私だけ逃げた罰なんだ。
「では始めましょう!!スタートは銀貨一枚からッ!!!」
「銀貨10枚!!!」
「20枚だッ!!!」
「25枚ッッ!!!」
狂気に満ちた空気が更に濃くなった。私は誰に買われるのだろう。やはりあの貴族の男だろうか。それとも半狂乱になったような他の男たちからだろうか。何れにしても碌な所には行かないだろう。何より全員男。性奴隷になる事は間違いない。
「銀貨50だッ!!!」
銀貨50の提示を聞くと、狂気に満ちた空気が遠のいていくのがわかる。それだけの金額を出されれば大抵は黙る。当然だ。銀貨50もあれば貴族の屋敷が建てられるような凄まじい額だ。
「さあさあ!!他に誰もおりませぬか!?おられなければーー」
「ーー銀貨80だ。」
会場が静寂に包まれる。銀貨50を提示した小太りの男は固まったように銀貨80を提示した貴族の男を見ている。やはり決まった。私の主人はあの伯爵の男か。一体どんな目にあわされるのだろう。本当に首を落とされるのだろうか。怖い。震えが止まらない。食事ももらえてないのに吐き気が込み上げてくる。でもそれが私の運命なんだ。仲間を裏切った罰なんだ。償わないといけない。でも…怖くてたまらない。
「……他には誰もおりませんな?それでは銀貨80枚でらくーー」
「ーー金貨1枚。」
「……は?」
貴族の男が間の抜けたような声を出す。金貨での入札をいれた声に対して皆の目が向く。もちろん私の目もそちらへと向いた。
その声の主は会場の中段付近に一人で座っている少女だ。歳は私と変わらないであろう十代後半の見た目をしている。薄暗いのではっきりとはしないがおそらく黒髪。非常に珍しい髪色だ。確か東方にある国でしか黒髪の人族はいないという話だったはず。
そして何より目を引くのはその美貌だ。人族の中で有名な美女といえばギュルテルティーア帝国将軍のルナ・チックウィード、ヴィルトシュヴァイン王国聖騎士ジュノー・マグノリア、そして同じくヴィルトシュヴァイン王国王女アテネ・アルストロメリア・ヴィルトシュヴァインが有名だ。三人とも目にする機会があったので私の記憶とこの少女を比較しても勝るとも劣らない美貌なのは間違いない。現に私も恐怖を忘れて彼女の美貌に見惚れてしまっていた。
「きっ、金貨1枚の入札でお間違いないですか…!?」
「間違いないけど?それとも銀貨100枚って言えば良かった?」
「いっ、いえ…!!で、では金貨1枚とさせて頂きます…!!ほ、他には誰かおられますか…!?」
少女はクールな見た目通り少しぶっきらぼうな感じに奴隷商の男の問いに答える。この少女は貴族なのだろうか。金貨なんて出せるのだから恐らく貴族だとは思うけど。いや、それとも貴族の使いとしてオークションに来たのかもしれない。だって女が私を奴隷にする必要なんてあまり無いもの。人族の男が亜人の女を奴隷にするのは性処理が多くの目的だ。むしろそれに加えて付随する何かがあるに過ぎない。だものこの少女が私を奴隷にするのはほぼあり得ない。やはり使いと考えるのが妥当。
「金貨1枚に銀貨50枚だッ!!!」
私が考えていると、伯爵の男が鬼の形相で入札を入れた。とんでもない額だ。その凄まじい額は下手をすれば大半の財産を注ぎ込んでいてもおかしくは無い。やはり私の運命はこの男が握った。これだけの大金を払う予定は明らかに無かっただろう。きっと私はただでは済まない。財産の回収の為に私を何らかの方法で貸し出したりするだろう。また身体が震えだした。心臓の鼓動も明らかにおかしく、呼吸も乱れ始めた。
「しつこいな。じゃあ金貨2枚。」
会場中の誰もがポカんと口を半開きにして少女を見ている。私も同じだ。あまりにも信じられない事が起きているのでまた身体の震えが止まった。
「バッ、バカな事を申すなッ!!!そんな金を貴様のような小娘が持っている訳がなかろうッ!!!」
伯爵の男が少女に向いて立ち上がり、とても貴族とは思えないような品の無い声を張り上げている。
「あるけど?ほら。」
少女が袋から金貨を取り出し煽るような手つきで伯爵の男に見せている。その枚数は3枚。もう伯爵の男は笑うしか無かった。
「これにて終了!!!終了ッッッ!!!吸血鬼族の姫を落札したのはそちらの御令嬢!!!えーっと…おい!!!あの方は誰だ!?参加者名簿に記入して頂いているだろうッ!!!」
「ハ、ハッ!!!しょ、少々お待ち下さい!!!えー…女性は一人なのであの方はワタナベ様です。ワタナベ・リン様です。」
「ワタナベ・リン…?ワタナベなどという貴族はおらーーワタナベ!?ワタナベ・リンだと!?」
「ハッ!!そのように書かれております!!オーナー、ご存知なのですか…?」
「逆に貴様は知らんのか!?あの少女は昨日、王国七人の白騎士『セブンスホワイト』の一人、ハイペリカム伯爵を倒したお方だ!!!」
「あのハイペリカム伯爵をですか!?」
「ああ。美味屋で一悶着あったらしいがハイペリカム伯爵は子供のように扱われたそうだ。」
「あのような少女がですか…?信じられません…。いや、その話が真実ならばあの少女にこの吸血鬼を売るのはどうなのでしょうか?王国に仇をなす者に加担していると思われるのでは…?」
「安心しろ。それは無い。よくは知らぬが、マグノリア侯爵の御友人だと御触れが出ておる。」
「聖騎士様なのですか!?あの少女は一体…!?」
「さあな。だがこちらとしては堂々とあの方に売る事が出来る。それも金貨2枚だぞ?盗品という事もあり得ない。笑いが止まらんぞ。」
奴隷商人と部下が何やら話しているが私の耳には届かない。どうやら何処ぞの貴族の使いでない事だけは確かなようだ。なら、女が私を買うというのはどういう事なのだろう。私はこれからこの少女に何をされるのだろう。私の身体はまた震えだしていた。
「失礼致しました!!落札されましたのは、マグノリア侯爵様の御友人であられるワタナベ・リン様になります!!!」
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