Chapter 18 騎士道

ダンジョンから出た私たちは外にいた騎士たちに事情を話して美味屋へと戻って来た。やっぱりアナスタシアの予想した通り黒い玉は騎士に証拠品として取られてしまった。なんか納得いかないよな。なんで戦利品を取られなきゃいかんのだ。結局は銅貨7枚しか稼いでないし。今日はもうダンジョン行かないから完全な赤字だよな。うーむ、困った。アナスタシアと2人で生活するのには困らないけどハーレム拡張するのには絶対困るぞ。この国で家を買うとしたらいくらかかるかもわからんし。やっぱ男は稼がないといかんな。明日は気合い入れてダンジョン攻略しよう。


「おう、リンちゃん!アナスタシアちゃん!無事だったかい!?」


美味屋に入った俺たちを店主のオッさんが出迎えてくれる。だけどなんだかやたら心配してる風だな。俺の実力を知ってるオッさんがそんな態度を取るなんて妙だな。


「特に問題無かったですよ。ね、アナスタシア。」


「リンちゃんが強いから大丈夫でした…!」


「それなら良かった!リンちゃんたちが行ったエアストダンジョンでアクシデントが起こったって聞いたから心配になっちゃってな。なにやら未確認のモンスターが出て転送役の騎士たちがやられちまったらしいんだよ。」


おい。なんでこんなに情報出回るの早いんだよ。俺たちは騎士たちに報告して真っ直ぐここに来たのにそれより拡散が早いってどういう事。異世界の情報伝達スピード速すぎだろ。


「あ…それはリンちゃんです。」


「え?」


「リンちゃんが未確認のモンスターを倒したんです…!」


アナスタシア、余計な事を言うな。この話が拡散されると結構面倒くさい事になるぞ。俺はあんまり目立ちたくはないんだ。男に戻ってから目立つなら俺の勇姿に心を奪われた美女たちが『キャー!!抱いてリン様ー!!』ってな感じで大挙して押し寄せれば片っ端から俺の女にしてやるけど、今の俺じゃ野郎が大挙して押し寄せかねん。そんな事になったら地獄だぞ。臭い男なんかに近寄られたくもない。


「あの話のハンターってのはリンちゃんの事だったのか!?いや…リンちゃんの強さならおかしくない。流石じゃねぇか!!」


おい、オッさん。その話を拡散するなよ。お前がインフルエンサーになりそうだから嫌なんだけど。


「私だけの力じゃないよ。アナスタシアがいてくれたからだよ。」


「そうなのかい?でも…こう言う言い方は気を悪くさせちゃうかもしれないがアナスタシアちゃんは僧侶だろ?それじゃあ何も貢献出来ないんじゃないかい?」


「アナスタシアが補助魔法で私の攻撃力を上げてくれたから勝てたんだよ。みんな勘違いしてるみたいだけど僧侶は優秀なジョブだよ。それを理解出来てないだけ。」


私は少しイラっとしたような口調でオッさんに答える。俺のアナスタシアが有能じゃないわけがない。


「俺にはジョブの事はよくわからないが、リンちゃんが言うならそうなのかもしれないな。嫌な言い方してごめんな、アナスタシアちゃん。」


「い、いえっ…!?大丈夫です…!私はリンちゃんが必要としてくれるだけで大丈夫ですので…。」


当たり前だろ。アナスタシアが必要じゃないわけがない。男に戻ったら毎日可愛がってやるからな。


「お詫びといっちゃなんだがコレ食ってくれ!新作デザートのジェリジェリベリリだ!」


そう言ってオッさんが出して来たのはイチゴのゼリーっぽい物だ。ゼリーの中にナタデココみたいなのも入ってやがる。俺も食いたいな。


「うわぁ…!綺麗なジェリジェリ…!い、いいんですか…!?」


「おう!」


「あ、ありがとうございます…!では…いただきます…!くぅーっ…美味しい…!!」


アナスタシアも美味しそうだよ。もう我慢できないよ。


アナスタシアがイチゴゼリーを食べてるのを眺めていると店の外が騒がしい事に気付く。何だろうと思って入口の方に視線をやると店のドアが開き、外から甲冑を身につけた騎士たちが10数名なだれ込んで来る。そしてカウンター席に腰掛けている俺たちの周りを取り囲むように包囲された。


「なんだなんだぁ!?イキナリ人の店に押し入って来やがってよ!!」


オッさんが声を荒げて騎士たちに怒りを露わにする。


「店主、悪いが少し黙っていろ。」


騎士たちの背後から甲冑を着けていない偉そうな男が現れる。


「チッ…白騎士マティスか…」


その男を見るとオッさんは急に諦めたようななんとも言えない表情に変わる。


「ナーシセス隊隊長アナスタシア・ナーシセスと隊員のワタナベ・リンだな?」


メガネ野郎が今度は私とアナスタシアに話しかけて来る。なんだこいつ。気安く話しかけんじゃねーよ。男に興味は無い。そのメガネをブチ破られたくなかったら失せろ。


「は、はい…!」


律儀に返事などするなアナスタシア。


「私はヴィルトシュヴァイン王国王国騎士団第一警備隊副隊長マティス・ハイペリカムだ。エアストダンジョンでの一件について聞きたい事がある。騎士団詰所へと来てもらおうか。尚、貴様らに拒否権は無い。」


はぁ?なんなのコイツ。その態度なんなんだよ。あ、思い出した!!コイツ、ジュノーと一緒にいた奴だ。この野郎、俺のジュノーとヨロシクやってんじゃねぇよ。


「れ、連行するって事ですか…!?」


「そうだ。未確認のモンスター…本当にそんなモノがいたのか?」


「どういう意味ですか…?」


「エアストダンジョン程度でそんなモノが出るなど信じられん。そもそもあそこはクリア済みだ。」


「私たちは嘘を吐いていません…!!」


「少し調べさせてもらったが、随分と羽振りが良いみたいだな。」


「はい…?」


コイツ、ストーカーかよ。


「つい先日まで貴様は食うのにも困っていた程のハンターだったはず。それが美味屋で食事をし、御洒落屋で服を揃え、安眠屋で寝る。これはどういう事だ?そこの女から莫大な報酬を得たからではないか?我がヴィルトシュヴァイン王国の情報を教える事によって。」


「な、何を言っているんですか…?」


「黙っていないで何とか言ったらどうだ?ワタナベ・リン。貴様は帝国の間者であろう?」


美味屋内に集まる騎士たちや客がざわめき立つ。俺が間者ってなんだよ。何言ってんだコイツ。つーか俺のアナスタシアを何イジメてんだよ。


「リンちゃんが間者なわけありません…!!撤回して下さい…!!」


「取り調べをすればすぐにわかる。徹底的にやってやるからな。覚悟しておけ。」


クソメガネがアナスタシアの腕を強引に掴もうとする。だが、



ーーパァン



俺がその手を払い、アナスタシアを俺の所まで引き寄せる。


「リンちゃん…!?」


「貴様…私に逆らう気か?」


「どうでもいいけどさ、私が知ってる騎士ってのは女に暴力を振るうようなクズはいないんだよね。それともこれがこの国の騎士な訳?程度が知れるよね。」


「我が王国だけでは無く、我ら騎士団まで愚弄するつもりか?」


「少なくともアンタみたいなのは騎士じゃない。」


「貴様…」


クソメガネが腰に差す鞘から剣を引き抜く。その光景に店内が更にどよめき立つ。


「力づくで連行させてもらう。俺は女だという理由で手を抜いたりはせぬぞ。」


悪いが男に負ける訳にはいかねぇ。元の世界では男からは散々イジメられ、パシらされ、ストレス発散の捌け口にされて来たが異世界では絶対に逃げねぇ。ここでは俺は男には負けられねぇんだ。それに、アナスタシアに暴力振るおうとする野郎は絶対に許さねぇ。


「やれるもんならやってみな。」


俺も腰に差す鞘から剣を引き抜く。


「アナスタシアに手を出す奴は誰であろうと許さない。私が騎士道ってやつを教えてあげるよ。」




********************



かつしげです。こちらの更新は少しお休みします。要望があれば早めに更新します。

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