Chapter 16 初めての強敵

マンティコアじゃん。完璧マンティコアですやん。伝説の生き物もいるのかよ。流石は異世界。いやいや、あんまり余裕こいてはいられんぞ。確かコイツって尾に毒があるはずだ。針を出して飛ばして来るって内容の本を見たような気もする。それだとかなり困る。俺は『神々の衣』の効果である状態異常無効できっと毒化はしない。でもアナスタシアに当たれば毒化するかもしれない。この世界で解毒が出来るのかどうかは聞いてなかったからな。ミスったぞ。もっとその辺聞いとくべきだった。少なくともアナスタシアは解毒魔法は使えない。絶対アナスタシアに攻撃を通しちゃダメだ。


「な、なにこのモンスター…!?こんなの見た事無い…!?」


アナスタシアが怯えたような声を出す。アナスタシアも初見って事か。モンスターリストみたいなのが公開されてるかどうか知らんが、誰も知らないようなモンスターだったら相当マズいのかもしれん。やっぱ逃げようかな。どうしよう。


「アナスタシアでも見た事ない奴?」


俺は余裕ぶった態度でアナスタシアに声をかける。この美少女俺って焦ったりとかしないのだろうか。俺的には焦った感じでアナスタシアに聞いたつもりだったんだけど勝手に余裕モードに変換されてるからな。


「ありません…!!王国図書館にも記載されていない新種です…!!」


やっぱヤバい奴ですやん。逃げた方がいいやつですやん。アナスタシアとヤッてないのにまだ死にたくない。何より痛いのは嫌だ。殺されるのは嫌だ。

俺が逃げる算段をしているとマンティコアの野郎が口をモゴモゴさせて壁に何かを吐き出した。吐き出した物を見る。するとそれは人の生首であった。まだ若い男だろう。苦悶に満ちた表情を浮かべている。


「ひっ…!?人…!?」


それに気付いたアナスタシアは酷く怯える。正直俺だってビビりまくりだ。人の死んだ所なんて見た事無いし、ましてや生首なんて見るはずも無い。

だがそんな心とは裏腹に身体は震える事も無ければ心臓の鼓動も平常運転。この美少女俺はまったく怯む事は無いようだ。


「アナスタシア。大丈夫だよ。私がいるから落ち着いて。」


少し離れた所にいるアナスタシアに俺は背を向けたまま声をかける。緊張で口の中がカラカラに乾いてもいないし、声が上ずったりもしていない。余裕だ。

そんな俺の様子が気に入らなかったのかマンティコアが俺を睨む。その表情は非常に醜悪で禍々しく、邪悪と形容するに相応しい程だ。


『俺を見てそのような態度を取るとは可愛く無い女だな。』


喋りやがった。人の顔をしてるから喋ってもおかしくは無いが実際に喋られると余計と恐ろしさが増すな。


「別にアンタに可愛いなんて思われたくないんだけど。」


『クックック。精一杯の虚勢か?本当は俺が恐ろしくて仕方が無いのだろう?』


「いや、全然?オッさん顔なのがキモいぐらいかな?」


恐ろしいっす。怖くて仕方が無いっす。出来れば逃げたいっす。


『…ほう。どうやら虚勢を張っているようではないな。面白い。』


いやいやいや、虚勢ですって。上の口は素直じゃないだけですって。仲良くしましょうよ。喧嘩はよくない。オッケー?


「ごちゃごちゃ言ってないでかかってくれば?それとも私が怖いの?」


おい馬鹿やめろ。マンティコアが怒り狂って来たらどうすんだ。俺的には喧嘩やめようって言ってるつもりなのにそうやって変換されてしまう。『カッコつけの加護』とか付いてんだろこれ。1人の時に独り言言っても変換なんかされなかったからな。


『クックックッ。俺は女を喰うのが最も好きでな。ここへ来るまでに何人かの騎士を喰らったが皆男で苛立っていたのだよ。だが貴様らのような極上の女を喰う事が出来る。今日は良き日になりそうだ。』


あかん。こんな奴に食われたら絶対痛い。即死はしない。地獄だ。なんで異世界でまで地獄を味合わないといけねーんだよ。なんかイライラして来たな。いいよ。やってやるよ。俺は絶対こっちで男に戻るんだよ。アナスタシアとジュノーとヤリまくるんだよ。それをテメェみたいな奴に邪魔されてたまっかよ。一度死んだ男の執念ナメんじゃねぇぞ。行くぞオラァ!!


「ねぇ、もうこっちから攻撃していい?この後予定があるんだよね。」


『好きにしろ。そして絶望を味わうがいい。』


「それじゃ遠慮なく。フランメ。」


俺は何の脈絡もなくフランメを放つ。リザードマンに放った時は右手を前に出しての詠唱だったが、今回は右手を前に出さなくても魔法が使えた。特に右手を前に出す動作は必要無いのだろう。

俺の前方に現れた魔法陣からマグマのような炎が噴き出る。天井から地面までぎっしりと敷き詰められた炎がマンティコアを飲み込んでいった。

勝利を確信した俺は炎が掃けるのを無警戒で待つ。そして剣を鞘に収めようとした時だった。炎の中から黒い鞭のようなモノが現れる。油断していた俺だが身体が超反応を見せ、その黒い鞭を神魔の剣で弾く。寸前の所で危機を回避した。


『やるじゃないか。』


まだ燃え盛る炎の中からマンティコアが姿を現わす。見る限りではダメージは無い。魔法耐性持ちかコイツ。こりゃ面倒だな。


『初級魔法のフランメにしては信じられない程の威力だが俺には効かん。俺にダメージを与えるなら上級魔法以上でないと不可能だぞ。』


魔法耐性があるなら魔法じゃどうにもならねぇ。ならば剣で戦うしかない。装備の特殊効果の程から見ても俺は剣の方が強いはず。問題なのは個人ランクが1って事だ。特殊効果の上昇値がどういう計算式によって出されてるかは知らないが、もしも基本ステータスに対しての50パーセントアップみたいな感じだとしたらたいした能力向上にはならないだろう。初期ステが高いはずがないからな。こればっかりは運だが賭けるしかない。


「ふーん。それぐらいで威張ってるけどそんなに嬉しかった?魔法がダメなら剣で戦えばいいだけだけど?」


『非力な女が俺の体を斬れるかな?』


「すぐにわかるよ。」


それを掛け声に俺はマンティコアへと襲いかかる。神魔の剣を一振りし、マンティコアの体を斬ろうとするが尾によりそれを捌かれる。攻撃が止まった俺に対してマンティコアが前足の爪を駆使して俺に反撃をする。だが俺も負けじと神魔の剣でマンティコアの猛攻を防ぐ。

これを数分間俺とマンティコアは繰り返し、互いに隙を探る。実力は拮抗し、勝負が着くにはかなりの時間がかかるだろう。解説者がいればきっとそう答える。


だが俺の答えは違った。

相当な強ボスとして現れたはずであろうマンティコアに失望していた。この数分間の攻防で俺はマンティコアを殺そうと思えばいつでも殺せた。最初は釣りか何かだと思って様子を探っていたが、それは俺の勘違いだと気付かされた。ただ単に俺とマンティコアでは実力が違いすぎるだけだったのだ。やはりこの異世界では俺は相当に強い。見習いとはいえ個人ランク30の騎士が殺されるこのモンスターに俺は絶望的なまでの差を与えてしまっている。少なく見ても31。ヘタすればアナスタシアの見立て通り50以上の強さがあるんじゃないだろうか。

そんな俺が何故いつまでもマンティコアを殺さないのか?当然理由がある。それはアナスタシアだ。アナスタシアは自分に自信を持っていない。僧侶というジョブにコンプレックスを抱きすぎなんだ。ヒーラーは絶対に必須。ヒーラーの有用性をアナスタシア自身に認めさせるいい機会だと思ったからこそ俺はマンティコアを殺さないでいたのだ。あとは『それ』をアナスタシアが気づいてくれるかどうかだ。


『この俺と全くの互角!!想像していた以上の強さだぞ女!!』


「どうも。」


『だが貴様では俺には勝てん!!俺は『再生の加護』を持っている。貴様は動けば動く程体力を失うが俺は体力が減る事は無い。無限にこの攻撃を繰り出す事が出来るのだ!!』


あ、ごめん。俺も『神々の衣』の特殊効果で回復してるから疲れてないんだよね。マラソンバトルなら一生やれるよ。


俺はチラリとアナスタシアを見る。マンティコアの言葉を聞いて不安になったのだろう。何かを必死に考えているような顔をしている。よし、ナイスだマンティコア。これならきっとアナスタシアは『アレ』を使ってくれる。


「リンちゃん…!このままじゃリンちゃんが…!!」


良い感じに狼狽えているな。アナスタシアを騙してるみたいでちょっと心は痛むが許してくれ。


「あ…!!そうだ…!!これをリンちゃんに使えば…!!マハトシュタイガーン!!」


アナスタシアが魔法の詠唱を始める。すると、俺の周りに魔法陣が現れ、赤い光の線が俺の身体に降り注ぐ。するとその赤線が俺の身体を覆い、オーラのように展開を始める。


「リンちゃん!!リンちゃんの攻撃力が上がったはずです!!これで勝てます!!!」


アナスタシアが力強い声で俺に告げる。


「ありがとう、アナスタシア。」


よし、計算通りだ。これで俺がコイツを倒せばアナスタシアにも自信が生まれる。ケリつけようぜマンティコア。


俺は先程までと同じ強さで神魔の剣を振る。それをマンティコアが右前足の爪で受けようとするが右前足ごと神魔の剣で切断する。


『グアアアアッッーー!!!俺の足が!?貴様よーー』


続け様に隙のあるマンティコアの首を両断し、マンティコアがその生涯を終えた。全く同じ強さで剣を振ったにも関わらずこの威力。アナスタシアの補助魔法の有用性を証明した瞬間であった。


「悪いねマンティコア。アナスタシアの為に利用させてもらったよ。」


「リンちゃん…!!!」


マンティコアとの戦いを終えた俺の胸にアナスタシアが飛び込んで来る。


「良かった…本当に良かった…」


アナスタシアが涙を流しながら俺の無事を喜んでいる。いい子だなこの子。そんなアナスタシアだから俺の第二夫人にしたんだけどな。顔が良くても性格が悪かったら俺はお断りだ。外見と中身が揃ってこそ至高なのだ。


「ありがとう、アナスタシア。アナスタシアがいなかったら私はやられていたよ。やっぱりアナスタシアの補助魔法は有能だね。」


「私、リンちゃんのお役に立てましたか…?」


「もちろん。アナスタシアと出会えて良かったよ。」


「誰に認められなくてもリンちゃんに認めてもらえれば私は幸せです。私の力、リンちゃんの為に使います。」


うん。アナスタシアの全部を俺の為に使わせるからね。ちゃんと言質取ったからね。


「それじゃ一旦戻ろうか。この事について報告しないといけないし。」


「そうですね。あんな未確認モンスターがエアストダンジョンで出たなんてわかったらきっと大事件になると思います。しばらくはエアストダンジョンには来られませんね。」


げっ…マジか…まだロクにチュートリアルもしてないのに…ん?でもマンティコアの野郎ってここの地下30階にいるモンスターより強いんだよね?それなら俺の力は未クリアのダンジョンでもいけるんじゃないだろうか?いや、それは早計すぎるか?アナスタシアと話し合ってから決めるか。


「あれ?あのモンスターの死骸があった場所に黒い玉があるけどあれがドロップアイテムかな?」


「え?」


マンティコアの死骸があった所に黒い玉がある。綺麗に加工されたような綺麗な球体だ。直径5cm程度の大きさで、持って見てもさほどの重さは感じない。


「見た事ある?」


「いえ…初めて見ました。」


「鑑定してもらったらわかるかな?」


「大丈夫だと思います。でも、さっきのモンスターの証明の為にこの黒い玉は預かられちゃうかもしれませんね。」


そりゃそうだ。あるのはそこに転がってる騎士の生首だけ。これだと俺たちがあの騎士を殺したって言われたらそれが成立してしまう。倒したモンスターが消えてしまう以上は何らかの証拠が無いとあらぬ疑いをかけられる恐れがある。動画でも撮っておきたいよな。スマホとか売ってねーのかな。


「ま、しょうがないか。とりあえず出よう。それでお昼行こう。まずはパーティー初勝利のお祝いだね。」


「はい!」


こうして俺たちの初ダンジョンは無事に終える事が出来た。アナスタシアにも自信を持たせる事が出来たし、俺の強さも確認出来た。次の問題は生活費を稼ぐ事だ。これから第三夫人、第四夫人とハーレム拡張するんだから稼ぎは絶対必要。何だか異世界生活が楽しくなってきたぜ。

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