Chapter 14 初めてのモンスター
通路の角からモンスターが現れる。現れたのはミノタウロスだ。頭が牛で首から下が人の体をしている完璧なミノタウロスだ。リアルでミノタウロスを見るとは流石に思ってなかった。ちょっと感動。
「ミノタウロス…!?地下1階で出るモンスターじゃないのに…!?」
アナスタシアがめっちゃビビってる。なんだ、やっぱり強いのかアレ。ゲームでも結構強かったような気がするぞ。
「アレ強いの?」
「強いです…普通は地下20階以降に出てくる攻撃型のモンスターです…マーカスたちでも3人がかりじゃないと苦戦する程です…」
また昔の男の話をしやがった。もう怒ったぞ。絶対お仕置きしてやる。アナスタシアには俺の怖さを教え込んでやるからな。ホテル戻ったら覚悟しておけよ。
「ふーん。ま、私がやってみるよ。アナスタシアは離れてて。」
とりあえずは俺のストレスをこの牛男で発散しよう。俺は基本的に動物が好きだから本当はちょっと微妙な気分だが、牛を冒涜したようなコイツならまあいいだろう。
「き、気をつけて下さいねリンちゃん…!!」
「うん、大丈夫だよ。」
アナスタシアを少し下がらせ俺はミノタウロスと一騎打ちの様相を見せる。ミノタウロスが持っている得物は斧。パワータイプのコイツの一撃を受けたらきっと押し込まれてやられる。受けないでスピードで翻弄するしかないだろうな。どこまで俺が動けるかの実験。初陣と決め込みますか。
俺が腰に差す神魔の剣を鞘から引き抜き戦闘態勢に移ると同時にミノタウロスが襲い掛かって来る。その体躯に見合わないスピードで俺との距離を一気に詰め、手にしている斧を振り被る。出遅れた俺が一撃を躱そうと後方に移動しようとした時、下がろうとした足が前に進み、すれ違いざまに神魔の剣をミノタウロスの胴へと叩き込む。すると、それを喰らったミノタウロスの身体が上半身と下半身で綺麗に分かれ、接合部から離れたそれぞれのパーツが力無く床へと崩れ落ちる。一撃だ。たったの一撃で、強モンスター設定のミノタウロスが俺の前に沈黙した。
「つ…強い…」
少し後ろにいるアナスタシアの呟きが聞こえる。美少女にそういう風に言われるのは気分が良い。でも今更そんな事を言ったってお仕置きする事には変わりないからな。アナスタシアが悪いんだぞ。
しかしそれにしても俺の強さには驚きだな。強モンスターっぽいミノタウロスが一撃で俺の前に屈してしまった。これはちょっと想定外だな。もっと苦戦すると思ったもん。何より戦闘時の俺の身体がセミオートで動いてくれるのがありがたい。当然ながら俺は戦闘なんて未だかつてした事が無い。喧嘩ですら一度も無い。そんな俺なんだからいくら強くてもマニュアル操作だと死ぬ確率が高まってしまう。これは非常にありがたいオプションだ。神に感謝しよう。
「そうかな?」
俺は当たり前のようにアナスタシアに答える。こうやってクールに答えるのが女は好きなんだろ?ネットや雑誌で散々書いてあったからな。但し、イケメンに限るという極悪残虐設定ではあるがな。
「リンちゃんは強すぎますよ…」
「強いならアナスタシアをちゃんと守れるから安心したよ。」
「私がする事なんて何も無さそうですね…」
「そんな事ないよ。『索敵の加護』でモンスターがいるのを教えてくれるんだから奇襲を受ける事も無いし。アナスタシアの役割は凄く大事だよ。」
「リンちゃん…」
そうだ。そんな事あるはずがない。アナスタシアは俺の夜伽担当なんだからホテルに戻ってからが活躍の場なんだぞ。こんな所で活躍する必要なんて無いんだ。回復担当なわけだし。俺の回復をしてればそれでいい。
「そう言えば聞いてなかったけどアナスタシアってどんな魔法が使えるの?」
すっかり聞くのを忘れていたけど確認はしておいた方がいい。こんなに上手くいく事ばっかりでは無いだろうから仲間の出来る事を把握しておくのは必須だ。
「えっと…私が使える魔法は『エアホールング』という回復魔法と、『マハトシュタイガーン』という攻撃力上昇魔法、『マハトフェアミンダーン』という攻撃力低下魔法です。」
やっぱり有能じゃねぇかよ。味方の攻撃力上昇、敵の攻撃力低下。これだけの事が出来るのに何で冷遇されてんだ?いくらなんでも無能過ぎだろ異世界住民。
「凄い魔法じゃん。流石はアナスタシア。」
「そ、そうですか…?そんな事言われた事ないです…いつも役立たずって言われてたので…」
「私にはアナスタシアが必要だから昔の事なんて気にするのやめなよ。大事なのは今でしょ?」
「リンちゃん…優しいね…」
「事実を言っただけだよ。」
俺がそう言うとアナスタシアは嬉しそうな顔をして笑う。可愛い。
「あれ?そう言えばさ、モンスター倒したらどうなるの?アイテムとか出ないの?それとも今から持ち物物色したりするの?」
「あ、違います。多分もう少しするとわかると思います」
アナスタシアの言葉に頭の中が疑問符で埋め尽くされていると突如、ミノタウロスの身体が煙を出し始める。その光景に驚いているとあっという間にミノタウロスの身体が消え、跡には角が残されていた。
「何これ…?」
「それがアイテムです。モンスターを倒すと一定確率でアイテムを落とします。ミノタウロスが落とすのはミノタウロスの角です。道具屋で買い取ってもらえば銅貨5枚になります。」
「へぇ。こういうシステムなんだね。でもミノタウロスって結構強いモンスターなんでしょ?それなのに銅貨5枚にしかならないんだね。」
「リンちゃんがお金持ち過ぎるんですよ。普通はミノタウロスの角を手に入れたら1日の稼ぎとしては上出来です。」
「そんなもんか。」
「金貨なんて貴族の方しか持ってないですよ普通。だから外では金貨は出さない方が良いと思います。美味屋とか安眠屋、御洒落屋なら平気ですけどそれ以外だと強盗に遭う可能性や、何かのトラブルに巻き込まれるかもしれません。」
「そっか、わかった。私はこの国のルールに疎いからこれからも教えてね。」
「はい!」
「ところでさ、この角があるなら一回ダンジョンから出ないといけないよね。」
そう、これが結構厄介だ。ミノタウロスの角は50cmはある。それに持ってみると10kgはあるであろう重さだ。こんなのを持って歩くと疲れて仕方ない。入ったばっかりでなんだが一旦外に出よう。あ、これを持って町まで戻るのか。うわぁ…大変だなぁ。
「あ、それなら大丈夫です。『ラウム』に入れておきますので。」
「ラウム?」
「僧侶が使えるアイテムボックスです。こことは違う別の空間にアイテムを入れておいて使う時にはまた出せるんです。だから戻らなくてもラウムに入れておけばいつでも出し入れ出来ます。」
「なにそれ凄い。やっぱりアナスタシアって超有能じゃん。」
「そ、そうでしょうか…?私の役割って荷物持ちだったのでこれだけしか取り柄なくって…」
「私にとっては取り柄だらけだよ。やっぱりアナスタシアを嫁…じゃなくて仲間にして良かった。」
「リンちゃん…」
「じゃあラウムっていうのに入れてもらってもいいかな?」
「任せて下さい!!」
********************
ミノタウロスを倒した俺たちはフロアの探索を再開する。どうやらこのダンジョンは入る度にマップが変化する不思議のダンジョンタイプらしい。だから経験者であるアナスタシアでもマップはわからないので俺たちは下へ続く階段をしらみつぶしに探している途中だ。
「思ったよりもモンスターと出くわさないね。もっとバンバンエンカウントするかと思ったよ。」
「でも今日は少ないと思います。いつもならもっとモンスターと戦っていましたので。地下1階にミノタウロスなんかが出て来るから他のモンスターが逃げちゃったのかもしれませんね。」
それだとしたらどっちの方がお得なんだろうか。俺なら連戦よりもボスとだけ戦う方が楽でいいな。
暫くフロアを探索していると地下2階へと続く階段を発見した。宝箱は見つけていないが下に降りられるなら降りるべきだと俺は思う。だが俺だけの意見では決めてはいけない。ちゃんとアナスタシアの意見も聞いた上で判断を下そう。
「階段見つけちゃったね。どうする?このまま降りる?それとも宝箱回収する?」
「1階ならレアアイテムがある事はほとんど無いと思います。下に降りていいんじゃないでしょうか。」
「わかった。それじゃあ降りよう。」
アナスタシアの了解も得たので俺たちは地下2階層へと向かう事にした。
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