Chapter 13 初めてのダンジョン

とうとうパーティーを組んだ俺とアナスタシアはダンジョンへと向かった。当面はダンジョンに潜ってパーティーランクを上げるのが俺の使命だ。どれぐらいでパーティーランク50になるかはわからないが、なるべく早く到達して許可証を貰い東方にいる龍に会わないといけない。早く男に戻ってアナスタシアの処女を貰い、ジュノーも俺の女にしないといけないからな。


「それにしてもダンジョンが城下町から結構近い場所にあるのが驚きなんだけど。」


「そうですね。私たちが目指してるダンジョンは町から近いです。」


俺たちが向かったダンジョンは城下町から徒歩で20分ぐらいの場所にある。町からこんなに近くてモンスターは出てこないのだろうか。そもそもモンスターっているのか?俺が勝手にいるって思ってるだけで実はモンスターなんて存在しないかもしれない。アナスタシアに聞いてみよう。


「ねぇアナスタシア。モンスターっているよね?」


「もちろんいます。」


やっぱりいるんだな。


「だよね。ならどうして町までモンスターが来ないの?これだけ近いなら出て来てもおかしくないと思うけど。」


「ダンジョンの入口に騎士団員が常駐しているからです。騎士団が常駐してダンジョンから出て来てしまうモンスターを喰い止める事によって王国の平和が保たれています。」


「なるほどね。モンスターって強いの?」


「強いモンスターはダンジョンの深くに行かないと現れないので上層階は大丈夫だと思います。でもリンちゃんなら下層のモンスター相手でも大丈夫そうですけどね。」


「アナスタシアはそう思うの?」


「はい。私たちが向かっている『エアストダンジョン』は既に攻略された初級ダンジョンです。ここは地下30階層まであるダンジョンですが、推奨されるパーティーランクが地下5階層まででランク10、地下10階層まででランク15、地下20階層まででランク20、地下30階層まででランク30です。私も以前にマーカスたちと入っていた時は最下層まで行った事があります。」


なんだろう。アナスタシアの口から他の男の名前を聞くと最高にイライラするんだけど。絶対後でお仕置きしてやろう。俺の前で他の男の名前を出したらどんな目に合うかその身体に教え込んでやる。


「へぇ。それなら何とかなりそうかも。ていうか攻略されてるなら宝箱は出ないって事?それならあんまり行く意味ないんじゃない?」


基本的にダンジョンに入る目的は生活費を稼ぐ為なのが大半の理由だろう。ダンジョンのシステムがよくわからないが、宝箱から出るアイテムを売ったりするのが目的なら宝箱の無いダンジョンにはレベル上げ以外に用は無くなる。でも俺はそれなりの実力はあるんだろうから未攻略のダンジョンでも恐らくはそれなりに戦える可能性がある。なら『エアストダンジョン』とやらには俺たちは行かない方が得なんじゃないだろうか。


「それなら問題ありません。攻略されたダンジョンでも宝箱はまた生まれるんです。ある程度の時間で定期的に中身が補充される仕組みになっています。理由はわかっていませんが。」


まさにRPGって感じだな。この世界ってゲームの世界の話じゃないだろうな?実は俺もプログラミングされた登場人物の1人だったりして。


「それなら意味あるね。って、話してたら着いたね。ここがダンジョンか。」


俺たちが着いた先にあったのはエジプトのピラミッドを彷彿させるような遺跡だ。入口の様な扉が一ヶ所だけある。あそこから中へ入るのだろう。俺とアナスタシアは入口へと近づき扉を開ける。すると中には騎士と思わしき3人の男たちがいた。王国の騎士たちであろうか。


「冒険者の方ですか?」


俺が考察していると騎士の方から話しかけて来る。そのままむさ苦しい騎士が俺たちに近づいて来る。あんまり近寄るなよ。男は嫌いなんだよ。


「は、はい…!」


俺が答えないでいるのでアナスタシアが慌てて返事をする。


「許可証の方を拝見させて頂けますか?」


「こ、これです…!」


アナスタシアが先程承認されたパーティー許可証をポケットから取り出す。パーティー許可証は金属製で手の平サイズのエンブレムのようになっている。そしてエンブレムの裏には隊員の名前が彫られ、結構カッコいい作りになっている。


「確かにナーシセス隊のエンブレムですね。」


そう、隊長はアナスタシアなのだ。隊長のパーティーランクがそのまま反映される事になるのでアナスタシアじゃないとパーティーランクが10にならない。それだとダンジョンに入れないからな。俺は役職にこだわりなんて無いから全然構わない。


「隊員はそちらにいるワタナベ・リンさんが一名だけですね。ナーシセス隊はパーティーランクも個人ランクも低いのであまり下層には行かれない方が良いかと思います。5階層毎に転送持ちの騎士がおりますので危険を感じたら撤退して下さい。」


「わ、わかりました…!」


何だと?ナメやがって。俺の個人ランクは低いかもしれないが装備とジョブは一級品だぞ?俺の個人ランクが上がれば王国を滅ぼす事だって出来るかもしれないんだからな。口の利き方に気をつけろよ小僧。

アナスタシアを先頭にピラミッド内部を歩く。全体的に薄暗い内部、等間隔に並べられたランタン、まさにダンジョンっぽい。なんとなく不気味な様相を呈しているのがちょっと怖いが気にしないでおこう。


「あの騎士の方はリンちゃんの実力がわかってませんね。」


アナスタシアがちょっと怒ったような口調で話しかけて来る。


「個人ランクを見ただけで判断していました。有能な騎士ではないと思います。」


うーむ、怒っとるな。言葉に棘がある。普段のアナスタシアでは考えられないような口調だ。大人しい子が怒ると怖いよね。


「アナスタシア、怒ってる?」


「怒ってます。私の事は馬鹿にてもいいですけどリンちゃんの事を馬鹿にするのは許せません!!」


「フフ。」


「何で笑ってるんですか…!?」


「ごめんごめん。だって嬉しかったからさ。自分の事で怒ってくれた人なんて今までいなかったもん。だから笑っちゃった。」


「私はリンちゃんを悪く言われたらいつだって怒ります。」


「ありがとう。私もアナスタシアの事を馬鹿にする奴がいたら許さない。」


「リンちゃん…」


良い雰囲気だな。どう見たって今からラブシーンだよな。ここで熱い口づけを交わして隅の方で濃厚に肌と肌を触れ合わせながら愛を確かめ合う…最高じゃん。俺が女の身体って事以外は最高だよクソッタレめ。


「ありがとう、リンちゃん!!じゃあ先に進みましょう!!リンちゃんの力を知らしめてやります…!!」


「そうだね。期待に応えられるように頑張るよ。」




********************




階段を降りて俺とアナスタシアは地下1階層へとやって来た。いよいよ俺の異世界ダンジョンのデビュー戦だ。流石に緊張するな。果たして本当に俺はモンスターを倒せるのだろうか。当たり前だがモンスターとの対戦などリアルでは初体験だ。いきなり死んだらどうしよう。アナスタシアは蘇生魔法とか使えるのだろうか。やっぱり昨夜アナスタシアとヤッとけばよかった。これで死んだら悔いが残るな。


「てかもっと人がいると思ったけどいないんだね。むしろ私たちだけって感じ。」


「エアストダンジョンの上層はそんなに来る人はいないと思います。ほとんどが15階層からスタートすると思うので。」


「え?ショートカットって出来るの?」


「出来ます。記憶石っていうアイテムを使う事で到達済みの階層ならどこからでもスタートする事が出来ます。」


「それは便利なアイテムだね。」


「道具屋に売ってますので次回来るまでに買った方がいいと思います。ただ一度使うと記憶石は砕けてしまうので毎回買わないといけませんが。」


「記憶石っていくらぐらい?」


「木貨10枚です。」


「なら安いね。あ、そうだ。はい、アナスタシア。」


俺はポケットから小袋を取り出してアナスタシアへと手渡す。


「何ですか…?」


アナスタシアが俺から小袋を受け取る。中を開けるように促すとアナスタシアは恐る恐る小袋を開ける。


「えっ…!?な、なんですかこれ…!?」


「念の為かな。」


「き、金貨が3枚もありますよ…!?それに銀貨も50枚ぐらいあるじゃないですか…!?」


「それは万が一の時のアナスタシアの為のお金だよ。」


「どういう事ですか…?」


「ダンジョンに入る以上何が起こるかわからないじゃん。私に何か起こってもそのお金があればアナスタシアは生きていかれるでしょ?」


「…縁起でもない事言うと怒りますよ?」


「備えはするべきだよ。」


「受け取れません。」


アナスタシアは険しい顔で俺に小袋を突き返して来る。


「受け取ってよ。」


「嫌です。」


「アナスタシア。」


「リンちゃんに何かあるとしたら私も一緒です。1人にはさせません。」


「私はアナスタシアには生きてて欲しいかな。」


「……。」


「ね?それはいざという時の為だよ。それ以外ではぐれちゃったりした時もお金無かったら困る場面だって出て来るよ。私が死ぬ前提だけの話では無いからさ。だから受け取ってよ。」


「リンちゃん…。わかりました。ありがとうございます。でもこれは使う事はありません。預かるだけです。」


「好きな物買うのにだって使っていいよ。」


「そこまで甘えられません。それはダンジョンで自分で稼ぎます。」


アナスタシアは結構頑固だな。ま、そこですんなり受け取るような女ならいらないけど。アナスタシアならこういう態度になるだろうって予感があってやったわけだから俺って性格悪いよな。


「ちょっと話がズレちゃったけど人がいないなら好都合かな。自分たちのペースで進めるし。」


「そうですね!あ、リンちゃん。あの角からモンスターが来ると思います。警戒して下さい。」


「え?なんでわかるの?」


「僧侶に与えられる『索敵の加護』でわかるんです。」


おい、有能じゃねぇか。何で僧侶がクソ扱いされてんだよ。この世界おかしいんじゃねぇの?


「流石はアナスタシアじゃん。」


「そ、そうですか…?褒められたのはじめてです。えへへ…」


可愛い。


「よし、それじゃあ初陣と行きますか。」


俺の異世界、初のダンジョン攻略が始まる。

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