Chapter 9 魔導剣士

風呂から出た俺とアナスタシアは、先程出会ったギルド前まで戻って来る。日も落ち始めた夕暮れ時だがまだ神殿はやっているのだろうか。俺は嫌な事は後回しにしたくない性格だから今日のうちにジョブを確認しておきたい。万が一閉まっていたら司祭とやらを叩き起こしてでも確認させてもらおう。


「リンさん。この建物が神殿になります。」


アナスタシアが指し示したのはギルドのほぼ真隣にある少し大きめの教会のような建物だった。確かに神殿という名に相応しいような神聖さは伺えるが結婚式場って感じだな。俺も式を挙げるつもりはあるけどその時は全員まとめてやるべきだろうか?それとも個別に?うーむ…これはなかなかに難題であるぞ。


「これって普通に入っちゃって大丈夫?勤務時間終了とかしてない?」


「えっと、多分大丈夫だと思います。まだ夕方5時ぐらいですから神殿の閉鎖まで2時間ぐらいあります。」


7時閉店なのか。公務員的なノリなのかと思ったけどそうじゃないのな。


「じゃ、入ろっか。」


俺は神殿の扉を開け中へ入る。やっぱり教会だ。ステンドグラスがあるし、パイプオルガンまでありやがる。どう見たって教会だ。

俺はキョロキョロしながら神殿の中を見て回っていると奥から司祭らしき爺さんが姿を現わす。やっぱり神父にしか見えない。


「いらっしゃい。ようこそ神殿へ。」


「こんばんは。」

「こ、こんばんは…!」


アナスタシアは男が怖いのかな?俺とは普通に話してくれるけど男に対してはビクビクしてる。前のパーティー連中がクソだったからトラウマになっても仕方がない。俺がちゃんと癒してやるからな。


「これはこれは美しいお嬢さん方ですな。」


「ありがとうございます。」


そりゃあこれだけの超絶美少女だもんな。そこら中にゴロゴロいるような有象無象たちとは格が違うんだ。弁えろ爺さん。


「本日はどのような御用で参ったのですかな?」


「自分のジョブを調べたくて来ました。教えてもらってもいいですか?」


「構いませんよ。神殿はその為にあるのです。ではこちらへ。」


爺さんが手招きしてる。まさかとは思うけどセクハラされたりしないだろうな。どさくさに紛れて俺の身体に触られたりしたらこの爺さんぶん殴るよ。俺は男は大嫌いだから指一本触れられたくはないし、近づかれたくもない。俺に触れないと調べられないとかなら諦めて帰ろう。

俺は仕方がないので爺さんに近づく。それでも近づきたくないので微妙な距離を残していたら爺さんから一歩詰めて来た。そして俺に向けて手を伸ばしてくるので、いつでもボディーブローを叩き込めるように拳を握り締めていると俺の顔の前で爺さんの手が止まる。


「目を閉じなされ。さすれば、そなたの頭の中に見えてくるはずです。」


俺は言われるままに目を閉じる。すると、爺さんの言う通り頭の中にテキストのようなものが浮かび上がって来る。それがハッキリと文字として形成されると俺にはこう読めた。




『あなたのジョブは魔導剣士です。』




『魔導剣士』?なんだそりゃ?『魔法剣士』みたいなやつの事か?一応レアジョブなのかな?


「どのようなジョブでしたかな?」


俺が考え込んでいると爺さんが話しかけて来る。せっかちな爺さんだな。俺はお前とじゃなくてアナスタシアとやり取りしたいんだからでしゃばってくるな。


「『魔導剣士』ってなっていました。」


「なんですと…!?」

「えっ…!?」


前にいる爺さんと。後ろにいるアナスタシアが同時に大きな声を出す。

何だ?まさかのハズレジョブじゃないだろうな。異世界転生までしてハズレの人生だったらどうしよう。そうしたら臭くてむさ苦しい男たちにこの身体を陵辱されないといけなくなるのか。そうしないと異世界で生きて行けなくなるのか。それならまた死んで転生ワンチャン狙おう。


「『魔法剣士』じゃないんですよね…?」


アナスタシアが不安そうな顔で聞いて来る。やっぱハズレなやつだコレ。もうダメみたいだな。安眠屋帰ったらこの身体のままでいいからアナスタシアとヤリまくろう。そんで好きなだけヤッたらまた雪山探して凍死しよう。俺の持ってる金貨あげればアナスタシアの今後の生活は大丈夫だろうし。達者で暮らせよアナスタシア。


「うん。『魔導剣士』って出てた。」


「見間違えじゃないんですね…司祭様…」


アナスタシアが爺さんに目を向ける。あれだけビクビクしていたのにそんな事すら忘れる程の衝撃って事だ。異世界チートがデフォじゃないのかよ。クソじゃん。


「うぅむ…このお嬢さんが嘘を言っているようには見えん…ならば本当に『魔導剣士』と言う事か…少し待っていなさい。」


爺さんが険しい顔をして奥の部屋へと入って行く。なんか相当ダメなやつなんじゃね?一番ダメなクソジョブなんじゃないの。だからそれを補う為に超絶美少女にして資金もたっぷりにしたんだな。生き残る事が出来るようにっていう神様の配慮なんだわ。それならフツメンでもいいからチートにしてくれよな。


「これって相当なハズレ引いた感じ?」


俺はアナスタシアにストレートに聞いてみた。どうしようもないならせめてアナスタシアの口から言って欲しい。それでアナスタシアの身体をたっぷりと堪能して死にたい。


「ちっ、違います…!!『魔導剣士』は伝説のジョブです…!!それに就いた人は王国の歴史上は存在していません…!!」


「えっ?そうなの?」


まさかの当たり展開かよ。それなら臭い男に陵辱されなくても自分だけの力で何とかなるかもしれん。雪山探さなくても大丈夫か。


「はい…!!文献に残ってるか、他国の歴史書でも見ないと特性もわからないぐらいにレアなジョブです…!!」


「『魔法剣士』と大体同じじゃないの?」


「全然違います。『魔法剣士』は剣に魔力を帯びさせる事で炎の剣や氷の剣を使う事が出来るだけですが、『魔導剣士』は少なくとも攻撃系魔法を普通に使えます。そして『剣士』と付いているので『剣士』としての特性を併せ持つと思われますが、実際は『剣士』の上級職である『騎士』と同等以上の力を有すると言われています。」


「何それ。チート能力じゃん。」


「加護も多数付いているはずです。『天聖剣士』と同等…いえ、それ以上のジョブの可能性があります…!!」


相当なチートジョブってわけか。でも落とし穴はありそうだよな。早い話が誰も就いた事無いなら尾ひれがついていてもおかしくはない。話が盛りに盛られて過大評価され過ぎって展開もあり得る。実は全然大した事ありませんでしたー、って落ちは考えられなくもない。全容が明らかになるまでは過度に期待するのは禁物だな。

アナスタシアと話している途中で爺さんが戻って来る。手には古ぼけたノートみたいなものを持っている。


「申し訳ないですが神殿には『魔導剣士』に関する資料がこれしかありません。後は戦いの中で試行錯誤をしてジョブポイントを貯めてもらうしかありません。」


「ジョブポイント?」


「『固有職』から『上級職』へとジョブチェンジするにはジョブポイントを貯めなければなりません。ジョブポイントは敵を倒す事で一定値を得られる事が出来ます。『上級職』へジョブチェンジする事以外にも技や魔法、加護を解放する為に必要なのです。」


「つまりは戦闘をしないとどんなにレアジョブであっても強くならないって事ですね。」


「そうなります。」


完全にRPGじゃん。レベルが上がればアビリティがアンロックされていくわけだろ。攻略wikiが無いのは面倒だけどまあ大丈夫だろ。


「ジョブポイントってどうやって確認するんですか?」


「神殿で見られますよ。入り口横の扉を開けるとジョブポイントを確認出来る機械がありますので。」


銀行のATMみたいだな。


「こちらの資料を参考にして下さい。何かの役に立つかもしれません。」


爺さんは持っていたノートを俺に差し出す。


「いいんですか?」


「もちろんです。これでダンジョン攻略の助けになるのならば王国にとって利しかありません。」


「ありがとうございます。」


「また何かありましたら気軽に尋ねて来て下さい。」


俺は爺さんから『魔導剣士』についてのノートを貰い、神殿を後にした。外へ出ると太陽が完全に沈み、月が支配を始めている。結構長い時間ここに居たからな。本当はギルドにも行ってみたかったけど仕方ないか。


「今日は遅いからギルドは明日だね。お腹空いたし夕飯食べに美味屋に行こうか。」


「夕食も食べていいんですか…?」


「当たり前じゃん。ちゃんと三食食べるよ。アナスタシアはお腹いっぱい食べなきゃダメだよ。肋骨が見えるぐらいまで痩せちゃってるんだから。遠慮はしないでね。したらお仕置きするからね。」


「あう…。ありがとうございますリンさん。」


「それに『さん』付けはやめてよ。距離を感じる。」


「それじゃあ…リンちゃんでもいいですか…?」


「それなら悪くないかな。じゃあ行こっかアナスタシア。」


「はい!リンちゃん!」


こうして俺のジョブも判明し、異世界での生活がまた一歩前進した。『魔導剣士』の詳細を知るのも大事だが、先ずはダンジョンに入らないと何も進まない。明日はギルドに行き、パーティーを結成してダンジョンへと乗り出してみるか。

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