Chapter 6 アナスタシア・ナーシセス

女の手を引いて俺は美味屋に入った。本当ならホテルに連れ込んでお礼をしてもらいたいが親愛度を上げてからじゃないと状況的に厳しい。イケメン転生していたらそのルックスにより女どもは俺に跪いていただろうが、今の俺は女だ。女の体で女を落とすのは絶対難しい。超絶美少女だろうとそれは同じだ。ならば親愛度を上げて心を落とすしか無い。大丈夫、俺ならやれる。逆に考えれば俺は女だから相手も警戒心は持たないだろう。同性同士で警戒心なんてまず持つ事は無い。この女を絶対に俺の第二夫人にする。俺は心にそう誓った。


「あ…あの…?」


女は上目遣いをしながら不安そうな顔で俺を見てくる。そそるぞ。男心をそそるぞ。もう押し倒して第二夫人にしてしまいたい。だが落ち着け。今それをやってしまったら猫耳娘に逃げられてしまう。クールになれ。クールになるんだ渡辺凛。


「ごめんね、驚かせちゃったかな?あそこだと人だかりが出来て面倒だったから連れて来ちゃったんだ。」


「い、いえっ!!その…助けて頂いて…嬉しかったです…あの、私、アナスタシア・ナーシセスって言います…」


「私は凛、渡辺凛だよ。よろしくね、アナスタシア。」


「ワタナベリンさんですか…?名字が先って珍しいですね…?」


「そうみたいだね。昨日も言われたんだ。私の国ではこれが普通だったんだけどね。」


「リンさんは王国民じゃないのですか…?」


「うん、私は東の方から来たんだ。」


「東って…最果ての方からって事ですか…?」


「最果て?」


「えっと…この世界には最果てと呼ばれる場所があるらしいんです…その場所は竜によって統治され、竜によって守られていると聞きます…ヴィルトシュヴァイン王国もギュルテルティーア帝国もその地を目指して遠征を行なって来ましたが辿り着ける者は誰もいなく、存在自体が疑わしいお伽話になっています…」


「へー、でも私が来たのはそこからじゃないよ。竜なんて見た事も無いし。私の国でも竜は伝説の存在だもん。」


「そうなんですね…東方自体が謎に包まれているので色々な国があるのでしょうね…」


「でも何で東を探索してるの?竜の存在を証明したいから?」


「それもありますが一番の目的は竜神に会う事です。最果てにいる竜たちの神である竜神に会えばどんな願いでも叶えてくれるらしいのです…」


「えっ!?何それ!?それ本当!?」


テーブルから身を乗り出してアナスタシアへと顔を近づけるのでアナスタシアは驚き身を縮めてしまう。


「はっ、はいっ…!!それがこの地に伝わる伝説ですから…」


マジか。そんなナントカ玉みたいな設定がこの世界にあるなんて。それもただ竜神に会うだけなんだろ?玉を集めるとかややこしい手順が無いなんて超楽じゃん。どんな願いでもって事は俺をイケメンにする事もできるんだろ?キタ!キタキタ!!男に戻れるイベントがキター!!俺がイケメンになればジュノーもアナスタシアも間違い無く俺に堕ちる。そうすれば当初の予定通り異世界ハーレムライフを送る事ができる!!絶対竜神に会うぞ!!今から東に向けて出発だ!!


「東ってどうやって行けばいいの?」


「と、東方に行かれるんですか…!?東方に行くには許可証が必要です…許可証はランク50以上のパーティーか騎士団に所属する白騎士以上の階級じゃないとダメです…」


あー…そうだった。この世界はオープンワールドじゃないから条件満たさないと先へ進めないんだった。アナスタシアが出した内容的にはゲーム終盤にならないと行けないラストエリアみたいなもんか。


「ランク50って大変?」


「大変だと思います…少なくとも未クリアのダンジョンを攻略できないと到達できないと思います…」


「て事はダンジョンクリアすれば行かれるって事ね。」


「そうですけど…ダンジョンクリアを目指されるのですか…?」


「そのつもりだよ。」


「やっぱりリンさんは凄い人なんですね…マーカスたちを瞬殺してしまうぐらいですものね…」


「マーカス?」


「あ、さっきリンさんが倒した連中です…私はあの人たちと一緒のパーティーだったのですが…その…えっちな要求をされて…抜ける事にしたんです…」


「うん、話は聞かせてもらったから分かってるよ。最低だよね。」


俺もこの後キミにえっちな要求するけど女同士だから問題ないよね。うん。


「あの人たちのランクは30だったのでそれを瞬殺するリンさんはきっと50近いんでしょうね…」


「いや、私はパーティー組んだ事無いしギルドにも行った事無いよ。」


「ええっ!?それなのにあんなに強いんですか…!?」


アイツらで30って事はやっぱり俺は相当強い設定なんだな。アナスタシアから見ても俺は50に近いぐらいって事みたいだし。


「強いかは分からないけどそこそこじゃないかな。」


「凄いですね…頑張って下さいね…!応援してますね…!」


「え?アナスタシアも行くんだけど?」


「え?私もですか…?」


「嫌?」


「嫌とかではなくて…私は回復と補助しかできませんし…リンさんぐらいの実力の方とは釣り合わないです…」


「回復とデバフってパーティーに必須じゃん。アナスタシアが居てくれないと話にならないよ。」


「え…?でも…回復補助なんて基本的にどこのパーティーでも不要ですよ…男ならお金を払わないと入れてくれませんし…女ならえっちな事しないと…」


「それはRPGの戦術を分かってない奴らが殆どって事なんだよ。アナスタシアは絶対必要。」


「リンさん…」


「だからさ、アナスタシアが私と組むの嫌じゃなかったら一緒に組もうよ。」


「…本当に良いんですか?リンさんは女だから回復補助以外に私に要求するような事は何も無いんですよ…?」


いや、えっちな事はするけどね。俺の第二夫人だもん。そりゃあ今は一緒に風呂入ったりとか一緒に寝たりしかできないけど男に戻ったらえっちな事しまくりだよ。


「いいからいいから。そんな事気にしない。」


「それじゃあ…甘えちゃってもいいでしょうか…?」


「もちろん。よろしくね、アナスタシア。」


「はい…!!」


「良かったなリンちゃん!」


話の行く末を黙って見守っていた美味屋のオッさんが話しかけてくる。


「はい。これでダンジョンに行けます。安心したらお腹空いちゃった。アナスタシア、何か食べようか。」


「え…あ…その…」


何だろう。せっかく笑顔になって俺と話していたのにまた俯いて暗い感じになってしまった。ダンジョンに行きたくないのかな?


「もしかしてダンジョンに行きたくない?」


「そ、そんな事はありません…!!ダンジョンには私も行きたかったので入れてくれるパーティーを探していたんですから…」


じゃあなんだろう。俯いて指弄りが始まってる姿は可愛いがほっとくわけにもいかないだろう。


「うーん、ごめん、それじゃあなんだろう?何か嫌な事言っちゃったかな?」


「違うんです…その…私はお金は持ってなくて…だからご飯は…」


アナスタシアの身なりをよく見てみると服は埃で汚れているし、髪や肌も所々汚れがある。それに店内でマントは脱いだから気づいたが身体のラインが妙に細い。痩せているとかそういうのでは無く栄養失調に近い痩せ方だ。


「リンちゃん。リンちゃんだから言うけどこの国では亜人は生きるのが大変なんだ。差別とまでは言わないがそれに近い扱いを受けている。だから普通の仕事はほとんど無いんだ。ギルドの高難易度の依頼やダンジョンに行かないと稼ぎは無い。だが迷子探しとか簡単な依頼は亜人には回って来ないんだよ。強い亜人なら稼げるが弱い亜人は基本野垂れ死ぬ。でも女の可愛い亜人は身体を売れば食っていける。でもアナスタシアちゃんはそういう事をしてないんだろ?それなら食う事もできない、住む所も無い、そんな状況で生きてるんだよ。」


「何それ…全然自由の国じゃないじゃん。」


「どこの国でも陰と陽の部分があるさ。この国ではそれが少ないってだけだ。仕方の無い事なんだよ。」


そんな事は分かってる。貧富の差はどんな国にだってあるんだ。でも人種差別は良く無い。別に亜人が何かした訳でも無いんだろ。それなのにそういう扱いをするなんて納得いかない。俺はそういう理不尽が大嫌いだ。散々理不尽な事をされて来てどれだけそれが悔しいかも分かっている。ここに来てもそれがあるとは思わなかった。


「…アナスタシアは何を食べる?私はお昼はピザにしようかな。」


「え…?でも私は…」


「そんなの気にしないでいいよ。私が出すから。これから先ずっと。私たちは同じパーティーなんだからさ。」


「リンさん…でも…」


「ほら!何が食べたいの?早く頼んで!飲み物もね!」


「じゃあ…私もピザが食べたいです…」


「ふふっ、わかった。飲み物はギュルギュルオレンジでいい?」


「うん…!リンさん…ありがとう…」


「気にしなくていいの。」


俺も後でアナスタシアを食べさせてもらうんだからいいんだよ。まだつまみ食いしかできないけどね。


「よし!じゃあおじさんが2人の昼をご馳走するよ!2人のパーティー結成記念のお祝いだ!!」


「いいんですか?ありがとうおじさん!」


「あ、ありがとうございます…!」


「じゃあすぐ焼いて来るから待っててくれ!」



こうして俺は第二夫人のアナスタシアとパーティーを組む事になった。次はいよいよダンジョンだ。俺の異世界ライフも大きく動き出して来たぜ。

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