Chapter 5 初めての猫耳

朝メシを食べ、美味屋のオッさんに教えたもらったギルドへと行ってみる事にした。礼拝堂だと思っていた建物に着くと、ギルドの看板が立てられ、強そうな見た目の連中や亜人が建物内を出入りしたり、外でプラカードを持ち、パーティー募集をしている。

プラカードを読んでみるとジョブとか種族、ランクが記載されている。ここで俺が気になったのはジョブだ。RPGではジョブは定番だがこの異世界でもそれがあるのか。だがジョブは変更可能なのか固定なのかで大きく意味合いが変わる。固定ならば生まれ持った才能と同じだ。クソジョブを与えられたらオンボロ人生が確定してしまう。特に俺の場合は異世界から来てるわけだからどんなジョブを与えられてるかわかったもんじゃない。『元男』とか『自分殺し』みたいなジョブだったら誰もパーティーに入れてくれないどころかこの世界で生きていけない事態を招きかねない。パーティーを探すよりも先に自分のジョブを確認するのが先決だな。

美味屋のオッさんにジョブの事を聞きに行く為この場を後にしようとした時にプラカードを持ってる1人の女に目がいった。俺と同じようにフードを被って顔を隠しているが体の細さから女なのは分かる。別に女だから気になった訳では無い。顔も分からないのだから第二夫人にしようなんて全く考えて無い。ただ自信なさげに下を向いて立っている姿が元の世界での俺を見ているようで気になってしまった。俺の学生時代はいつも下を向いて過ごしていた。特に女に対しては目が合えば、キモい、臭い、ブサイクと散々な言われっぷりだった。それからはずっと下を向いて目立たないようにしていたらいつの間にか空気になっていた。そんな自分と重なる姿を見るとほっとけなくなってしまう。俺の足は自然と女の方へ向かって行った。だが俺が向かっている途中で女を三人組の男たちが取り囲み始めた。


「よう、アナスタシアじゃねえか!」


「あ…こ、こんにちは…」


「あー?聞こえねえよ!!もっとデカイ声で喋りやがれ!!」


「す、すいません…」


「そんなんだから俺たちのパーティーから追放されちまうんだよお前。」


「…」


話の流れから察するにコイツらと女は一緒のパーティーだったが女は戦力外通告を受けて職探しをしていた。だがそれをクズ男たちが冷やかしにやって来たってところだろう。こういうクズはどこにでも一定数はいるんだな。


「回復と補助魔法しか使えねえお前なんか入れてくれるパーティーなんかねえんじゃねえのか?」


「ガハハ!違えねえ!攻撃こそ全てなのにそんなアビリティは必要ねえもんな!」


そうか?ヒーラーは必須だろ。それに補助って事はデバフだろ?有能アビリティじゃん。それをこれだけ馬鹿にするって事はこの世界の奴らって戦闘システムとかわかってないんじゃね。初心者がアタッカーを使いたがるのと同じじゃん。


「何なら俺たちのパーティーにもう一回入れてやってもいいんだぜ?お前が俺たちの誘いを断らなければな。」


「そうそう。お前は回復担当なんだから俺たちを回復させて労うのが務めだろ?」


ああ、それか。身体を使えってやつか。ぶっちゃけ気持ちは分からなくは無い。俺だってこの状況でイケメン最強チート勇者なら同じ事をしていただろう。だが最低だな。立場を利用して肉体関係を迫るなんてクズの所業に他ならない。


「…嫌です。私はそういう事はしたくありません…だからあなた方のパーティーから抜けたんです…」


「あ?お前何調子に乗ってんの?俺たちがちょっと下手に出たらつけあがりやがって。回復魔法なんか必要ねえんだよ。必要なのは攻撃魔法や召喚魔法なんだよ。お前なんか顔以外に価値なんかねえ癖によ。」


「…」


「謝れよ。俺たちを不快にさせたんだ、地べたに頭を擦り付けて謝りやがれ!」


女は体を震わせながら男たちの要求に応えようと膝を下ろそうとした時に俺は動いてしまった。


「ふざけんな。何でお前らに謝らなきゃならねーんだよ。」


俺は女の前に立ち、フードを脱いで男たちに剣を向ける。


「女をナメてんじゃねーよ。かかって来い。俺が女の力を教えてやる。」


ギルドの前で剣を抜いているからであろう、俺たちを取り囲むように人だかりが出来てきた。昨日の美味屋での一件で剣を抜くというのがどういう意味を持つかは理解している。別にこの女が気に入った訳でも情がある訳でも無い。個人的にこのシチュエーションが無性に腹が立ったのだ。自分よりも立場の弱い者を嘲笑って自分は強いつもりになっているクズ野郎が無性に腹が立つんだよ。これで敗れても後悔はしない。ここで剣を抜かない方が後悔する。絶対にコイツらだけには負けたくない。


「何だお前は?」


「つうかスゲエ可愛くね?」


「おお、ジュノー・マグノリア並みにイイ女だよ!!」


クズどもが俺の顔を見て盛り上がっている。剣を抜かれてんのに怒りもしないなんて昨日のオヤジと違って随分とプライドが低いんだな。


「なあなあ!お前パーティー組んでんのか?良かったら俺たちのパーティーに入れよ!」


「聞こえなかったのか?かかって来いって言ってんだよクズ。」


流石のコイツらでも俺の物言いに表情が変わる。苛立ちが顔に現れ目つきも鋭くなる。


「調子に乗りやがって。テメエもアナスタシアも痛い目合わせてやるよ。」


男たちが帯剣している剣を鞘から抜き、俺に対して構える。流石はクズだな、女1人に対して男3人でかかる事に何の疑問も湧かないとは。コイツらに騎士道は無いのだろうか。

さて、問題は俺が勝てるかだな。昨日の呑んだくれとは実力が違いそうだし複数人相手だ。普通に考えれば勝ち目は薄い。だが昨日の俺を見る限り雑魚設定という事はありえない。それなりに強いのは確かだ。ならばコイツらぐらいなら倒せる可能性は高い。それに後ろの女はヒーラーなんだから最悪回復して助けてくれるだろう。俺が死ぬ確率は極めて低い。よし、それなら十分だ。


男たちが3人同時に剣を振りかぶり先制攻撃の体勢に入る。

だがその動きよりも速く俺の体が反応を見せる。左の男の懐に飛び込み真下から剣を振り上げ男の剣を弾いて攻撃手段を奪う。そこから右のボディーブローを叩き込み男が膝から崩れ落ちる。


面白いぐらいに体が動く。転生前の俺では到底出来ない芸当を簡単にやってのける事にゾクゾクする程だ。


1人が瞬殺されて驚く男の腕を鞘で叩いて剣を離させる。武器の無くなった男の腹にミドルキックを喰らわせて2人目をノックアウトした。


残るはあと1人。2人がやられてキョドっている男に冷静な判断は出来ない。鞘で顎を打ち抜いて男を沈黙させてジ・エンドだ。


これをもって期待が確信に変わった瞬間だった。やっぱりここでは俺は強い設定なのは間違い無い。コイツらのランクがどの程度かは知らないが俺が随分強いのは確かだ。後はダンジョンとかで確かめて見るしかないが収穫は大きかった。


戦闘が終わると俺への拍手喝采が起こる。見た目可憐で華奢な超絶美少女がイカつい男3人をあっという間に倒したのだからお祭り騒ぎになってもおかしくはない。


「スゲエぞ姉ちゃん!!」


「天使だ!!天使が舞い降りて来たんだ!!」


でもちょっと騒ぎすぎたかもしれないな。この国のルールがわからないから騒ぎすぎは良くないかもしれん。警察みたいのが来て身分証だせとか言われたらかなり困る事になる。一時撤退した方が良さそうだな。


「あ、あの…!」


剣を鞘に収めこの場から離れようとした時に女から話しかけられる。フードを深く被っている為表情は見えないが雰囲気から俺に礼を言いたい事は理解できる。別に下心で助けた訳じゃないから礼なんていらない。過去の俺みたいな扱いを受けてるのを見て我慢ならなかっただけだ。デバフ持ちヒーラーとか最高の人材だろうけど俺はハーレム編成しかするつもりは無い。ジュノー並みのルックスじゃないと夫人に加えるつもりは無いのだ。要するにお前に用は無い。達者で暮らせ。


無言で去ろうとした時だった。突如突風が吹き荒れた事により女のフードがめくれ、そのご尊顔が露わになる。


「猫耳…だと…?」


銀色のセミロングヘアー、ぱっちりとした青い目、雪のように白に肌、そして…猫耳!!本当にいるんだ!!流石は異世界!!それにルックスもジュノー並みじゃん。これじゃあコイツらだってヤリたいのわかるわー。色々回復させて欲しいしデバフして欲しいもん。

決定だ。閣議決定だよ。第二夫人はキミに決めた!!


俺は女の手を取りその青い瞳を見つめながら言った。


「私とパーティーを組んでもらえませんか?」

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