Chapter 4 自分の身体に興味は無い
「うぅぅ…ちくしょう…ちくしょぉぉ…!!」
美味屋から宿に戻った俺は布団に包まりながら咽び泣いていた。俺がイケメンで転生出来ていたら今頃はジュノーとこのベッドでニャンニャンしていたのに。俺の第一夫人になっていたはずなのに。それが悔しくて悔しくて咽び泣いていた。
「せめて準イケメンならジュノーとワンチャンあったのに…それどころか女って…ワンチャンもニャンチャンも無いだろ…」
俺は小一時間ほど咽び泣いた所で疲れたからやめた。もう風呂に入って寝てしまおう。もしかしたら朝起きてイケメン転生できてるかもしれないし、と女々しくもまだ期待をしていた。
バスルームで服を脱いでいる時に鏡に映る自分に気づく。よく考えて見れば俺は超絶美少女なんだからこの身体の隅から隅まで見ても誰にも文句は言われない。それどころか触り放題の揉み放題だ。これはこれでいいんじゃないか?こんな超絶美少女の身体を好きに出来る奴なんて限られたトップイケメンたちだけだ。いや、そいつらだって何でも好きな事が出来るわけではない。拒否されたら出来ないのは当たり前だ。でも俺なら何でも出来る。どんな卑猥なポーズもシチュエーションも何でも出来る!
そうと決まれば行動は早い。俺はとりあえず自分の身体を堪能する事にした。女の身体の構造をしっかりと確認する為に。
先ずはダブル履きしていたスカートとズボンを脱いでパンツを見てみる。薄いブルーの何ともそそられる下着だ。続いて制服のブレザーみたいな上着を脱いでワイシャツ一枚になる。彼氏のワイシャツを羽織ってる彼女みたいな萌え要素の強い状態になってしまった。これの破壊力は凄まじい。胸がドキドキして来た。
そしてワイシャツとネクタイを外してとうとう下着だけとなった。ブラジャーの色もパンツと同じで薄いブルーだ。秘部以外の皮膚が完全に露出されている。引き締まった健康的な身体だ。胸も程よい大きさだし、くびれもしっかりとある。足も長いし肌もスベスベのパーフェクトボディだ。
そろそろメインディッシュといこう。女の秘密の花園に俺は行く。俺は高鳴る心臓の音をききながはゆっくりとブラとパンツを外していく。ブラのホックを外すのには苦労したが無事に全裸になる事に成功した。俺は鏡に映る超絶美少女の生まれたままの姿をじっくりと観察する。数分かけて全角度から身体をしっかりと観察した時に気づいた。
「…自分の身体見ても全然ムラムラしないんだけど。むしろ萎えて来たんだけど。」
超絶美少女だろうと所詮は自分の身体なのだ。自分の身体見て嬉しかったり劣情を催したりする訳が無い。賢者モードに入った俺はそのまま黙って風呂に入り、咽び泣きながら異世界一日目を終えた。
*************************
異世界二日目の朝を迎えた。今日は揃える物を揃える一日に充てる事にする。服とマントはともかく下着が一組しか無いのは嫌だ。俺は潔癖だからこれだけでも相当なストレスだ。それに荷物を入れるカバンや、情報を仕入れる為の新聞も必要だ。朝メシを食べたら買い物に行こう。
先ずは一階の受付に降りて宿の更新をする。暫くはここを住処にするしかない。他の宿の価格はわからないが店主と顔見知りになった美味屋が隣にあるのは大きい。部屋のグレードにしても文句は無いから十分だ。
「おはようございます。」
「おはようございます!チェックアウトですか?」
「えっと、今晩も泊まって大丈夫ですか?今晩というか暫くは泊まりたいのですが…」
俺の言葉を聞くとオッさんは嬉しそうな顔をして身を乗り出して来る。
「もちろんです!一週間ご利用頂けるのでしたら銅貨49枚にさせて頂きますがいかがでしょうか?」
一日あたり銅貨7枚になるのか。すごいお得だな。それなら一週間泊まるべきだ。ここから移動するかどうかはまだわからないし節約できるならできるだけしよう。
「なら是非お願いします。」
銅貨49枚をオッさんに渡す。だがオッさんは10枚返して来た。俺が不思議そうな顔をしているとオッさんが、
「一日分はサービスって事で!」
と言って来たので俺は有り難く受け取る事にした。人の好意は無下にするべきではないし、これから金が入って来る保証は無い。節約出来るならするべきだ。
「ありがとうございます。じゃあ行ってきます。」
俺はニコっと微笑むとオッさんは凄い嬉しそうな顔をしながら手を振って見送ってくれた。男ってチョロいな。
宿を出た俺は美味屋に向かった。朝メシ食ってからじゃないと気合が入らない。昨日も言ったが腹が減っては戦ができぬだ。
美味屋のドアを開けると夜とは違ってアルコールの匂いは全く感じられない。パンとコーヒーの良い匂いが店内に満たされていた。その匂いに俺の胃袋はまたご立腹だ。早くメシを寄越せと怒りの声を上げる。待ってろ待ってろ。今食わせてやるから。
俺は昨日と同じカウンター席に座り、店主のオッさんと挨拶を交わす。
「おはようございます。」
「おう、おはようリンちゃん!昨日はよく眠れたかい?」
「隣の宿屋のベッドは悪くないのでぐっすり眠れました。」
流石にイケメン転生出来なかったのが悔しくて咽び泣いていたら疲れて眠ってしまったとは言えない。
「安眠屋のベッドは俺も寝た事あるけど悪くないよね。値段も良心的だしさ。」
『安眠屋』って言うのかよあの宿屋。てか美味屋といい異世界のネーミングセンス悪くないか?もっとお洒落なネーミングにした方が良いとか考えないのかな。
「朝って夜のメニューとは違うんですか?」
「全然違うよ。昼も違うしね。はい、これが朝のメニュー。」
オッさんに差し出されたメニューを見てみるが理解できる名称が無い。パンとコーヒーの匂いがするんだからその二点は絶対にあるはず。
「すいません、お店の中に充満しているこの匂いって何ですか?」
「これはサクサリンカとニガミドビッシーだよ。」
あ、理解した。パンはサクサクしてるからサクサリンカ、コーヒーは苦いからニガミドビッシーなんだな。リンカとドビッシーは意味分かんないけど多分そうだろう。相変わらずのネーミングセンスだな。
「じゃあそれを下さい。」
「サクサリンカとニガミドビッシーはゴロマーゼエグエグとセットになるけどいいかい?セットは銅貨2枚!」
「安いですね。お願いします。」
どこの世界でもモーニングは安いって決まってんだな。ゴロマーゼエグエグもネーミングセンス的にスクランブルエッグ的なやつだろう。基本的に元の世界と変わらないのかもしれないな。
「リンちゃんはこの国でどうするつもりだい?」
オッさんが調理をしながら俺に話しかけて来る。その質問の意味が俺には分からなかったので質問返しをする。
「どういう意味ですか?」
「リンちゃんぐらい腕の立つ旅人なら『クエスト』をしに王国に来たんじゃないのかい?」
「クエスト?クエストって何ですか?」
「あれ?違ったか。クエストってのはダンジョンに入ったり、依頼をこなしたり、ボスを倒したりする事だよ。」
急にRPG臭くなったな。ダンジョンはともかくボスって何だよ。治安良くないじゃん。騎士団何してんだよ。ボス討伐しなきゃだろ。ジュノーにお仕置きしなきゃいけないな。
「もっと詳しく教えてもらえますか?」
「んっとな、ヴィルトシュヴァイン王国の領地には現在8つのダンジョンが見つかっていて、そのダンジョンの攻略を国中で行なっているんだ。2つのダンジョンは攻略されたが、まだ6つは手付かずな状況だ。だからダンジョンクエストの参加者は急務なんだよ。」
「ダンジョン攻略すると何かあるんですか?」
「強い装備品があるらしい。その装備品を集めてギュルテルティーア帝国に対する備えにするつもりなんだろうな。」
なるほど。ダンジョンにレアアイテムがあるのもRPGの定番だ。それが欲しいからダンジョン攻略に力入れるってのは正常だな。話から察するに両国は友好国で無いのは確かだ。いつ戦争が始まってもおかしくない状況って事だろう。だからこそ戦力を増やしたいんだな。
「次に依頼だが、ギルドに様々な相談をする人がいるんだよ。ギュルテルティーア帝国まで連れてってくれとか、とある武器を探してるから手に入れてくれとか、迷子探しとかな。それらをギルドが依頼として出している。依頼をこなせば依頼料が入るしランクポイントが貯まるわけさ。」
「ランクポイントって?」
「誰でも依頼を受けられる訳じゃない。依頼はパーティーランクによって受けられる受けられないが決まるんだ。キツい依頼の方が依頼料は大きいからな。なるべく死亡者を減らす為に設けられた制度なんだよ。ダンジョンも同じさ。パーティーランクが低いと入る事は許可されない。」
要するにレベルが低いと先に進めないってシステムか。オープンワールドじゃないわけね。死亡率を減らす為なんだから決して悪いシステムではないな。
「最後にボスだな。このボスってのが厄介でな。魔物が巣食っている場所には稀に強い個体が現れるんだ。それがボスなんだよ。ボスに出くわしたら基本は逃げるしかない。ボスに勝てる連中は王国でも数人しかいない。リンちゃんが昨日会ったジュノー・マウリウカとかな。」
「えっ?ジュノー?ジュノーってそんなに強いんですか?」
「強いも強いよ。なんてったって聖騎士の称号を国王陛下から授かった程だからな。王国内で5本の指に入る実力だろう。」
マジか。顔が可愛いだけじゃなくて強いとかチートすぎるだろ。主人公属性じゃん。俺の第一夫人は武力でも俺に尽くしてくれるとか最高じゃん。
「パーティーって誰でも組めるんですか?」
「組めるけど王国民じゃないとランク貯めるの大変だよ?9ランク以下はダンジョンには入れないし護衛の依頼もできないから必然的に迷子探しが主体の依頼になる。王国民なら10ランクからスタートできるが、他国民ならランク1からスタートだ。ランク1から10まではなかなか上がらないようになっているから3年はかかるよ。誰かランク上がってるパーティに入るか王国民と組むのがベストだ。」
自国民を優遇するのは当然だ。だけど3年も下積みするのはだるすぎる。誰かとパーティーを組んだ方が効率良さそうだな。でも男とは嫌だな。ダンジョンに入ったら襲われそうだし。魔物よりもそっちの方が危険だ。
「パーティー組みたいなら一度ギルドに行ってみるといいよ。商店街から少し外れた所に大きな建物がある。そこがギルドさ。」
礼拝堂みたいな所の事だろうか。パーティー組むかどうかは別として行くだけは行ってみよう。ジュノーに近づける存在になれば自然と俺に興味を持つかもしれない。元の世界では百合が世界的に認められ始めてたんだ、こっちだって百合は大丈夫かもしれない。この際百合でもいいじゃないか。美少女ハーレムが作れるなら俺の性別は問題無い。
「色々とありがとうございます。食べたら行ってみます。」
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