チン・トン・電柱

きし あきら

チン・トン・電柱

 酔っ払いが夜道を歩いていた。いい具合に飲んできて、今しがたバスを降りた千鳥足。

 あたりの家がどこも暗くて静かなのは、時刻表も最終になるほどの時間だし、それに今夜が雨上がりだからだと思った。

 なんて素敵な思いつき…。重たい傘はステッキになる、いくつもの水たまりが、雲間のお月さんでよく光る。

 酔っ払いはますます上機嫌で、チン・トン・カン!と並んだ電柱を端からたたきだした。

 チン・トン・カン!

 チン・トン・カン!

 チン・トン・カン!…

 そしていよいよ、この先の角を曲がれば我が家というところまできたとき、電柱は最後の一本になった。

 けれどもカン!という前に、その電柱がするどくにらみつけた。

 「こんちきしょう、よくも兄弟たちをたたいてくれたな!」

 そして酔っ払いの首根っこをつかむと、ポコ!とげんこつを食らわせた。

 「仕返ししてやれ!」

 電柱は隣の電柱に酔っ払いを引き渡して言った。最後から二番目の電柱だった。

 「ああ痛かった!」 ポコ!

 隣の電柱も、そのまた隣の電柱に酔っ払いを引き渡した。最後から三番目の電柱だった。その電柱、そのまた隣の電柱も、次々げんこつをしていった。

 「こいつ!」 ポコ!

 「こいつ!」 ポコ!

 「こいつ!」 ポコ!

 「くらえ!」 ポカ!

 「こいつ!」 ポコ!

 「こいつ!」 ポコ!…

 そんなふうにして目を回すうちに、酔っ払いは、とうとうバス停まで戻されてしまった。頭にできた長いこぶを見て、お月さんがケラケラ笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チン・トン・電柱 きし あきら @hypast

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ