回収依頼3

 迷宮までは連合ユニオンが用意をした馬車で半日ほどの移動となった。その馬車の中では商会の戦力の生き残りから連合に伝えられた情報の補完が行われた。とは言っても銀髪の男には然程有益な情報は無かったようで、連合ユニオンから付けられた従者の話に眉一つ動かさず静かに席に座っていた。


 馬車が迷宮の入り口に着くと銀髪の男は従者が開けた扉から外に出る。そしてその従者に見送られながら迷宮入り口を管理している重装の衛兵達が詰めている砦とも言える事務所前で足を止めた。まだ日が明ける迄には少し時間があるためだろう、辺りに見える人影はまばらだった。


「タグを」


 短槍を右手に持つ重装の衛兵が声を掛けると、銀髪の男は胸元から銀色のチェーンに括られた幅2センチ、長さ3センチほどの長さの薄い黒い金属の板を左手の指で取り出した。


 タグと呼ばれたその金属板は迷宮に出入りをする為に必要な身分証明書の代わりである。冒険者と呼ばれる人間は冒険者ギルドで発行される銀色のタグを持つことが殆どだが、まれにこの銀髪の男のように冒険者ギルド以外の大手の商会などが発行をするタグを持つものがいる。この珍しいタグを持つものが犯罪行為を犯し、捕まった場合にはその全ての責任を発行元が負うことになるため、その犯罪の内容によっては発行元の存在を揺るがすほどの問題に発展する危険性を孕んでいるなど潜在的なリスクは大きいが、有能な人間を専属として囲い込むことが出来る大きなリターンもある。


 今回銀髪の男が持つ黒い金属板のタグの裏には大手商会の名前が書かれ、表面の名前を記載する部分にはアイビスと書かれている。これは馬車の中で従者があらかじめ銀髪の男に手渡していたものだった。


 そのタグを珍しそうに重装兵が覗き込み、事務所の中に声をかけると皮鎧の衛兵が手元の用紙にそのタグの内容を書き留めていた。それを確認するとアイビスは迷宮の中へと消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る