回収依頼1

 深い紺色に染められたの東の空の地平線は薄っすらと茜色に染まりつつあった。夜明けまではもう間近なのだろう。耳を傍立てずとも町外れの森からは鳥の鳴き声や動物の唸り声などが聞こえてきた。


 だが町が目覚めるまではまだもう暫くの時間を必要とする様だった。必要最低限の明かりを灯されただけの町で起きている人間は町の入り口を警備する薄く目を閉じ目の前のことを見ているのか分からない領主の兵と、酔いつぶれた冒険者の懐を狙う手癖の悪い酷く痩せた子供くらいのものだった。


 そのまだ眠ったままの町の裏通りを黒いコートの男がゆっくりと歩いていた。銀色に光る長い髪の毛を揺らしながら幾つかの路地を抜け、一つの家の前で立ち止まる。


 その家の見た目は裏通りに建てられた周りの民家と同じように所々壁にはヒビが入り、屋根は所々崩れかけている。雨露や風が凌げれば構わないとでも言った様な荒れ方だった。


 だが、その荒れた家の壁には不釣合いな金属製のドアが取り付けられていた。赤錆が浮いているのは鉄か鋼の証拠だろうか。よく見てみると赤錆の他には刀剣類で付けられたのだろう細長く鋭い傷や、鈍器で思い切り叩かれたかのような微妙な歪みも見て取れた。


 男は奇妙な間隔を持ってそのドアを暫くノックしたあと分厚いノブを掴むと手前へ引いてゆく。見た目に反して軽やかに開いてゆく金属製の扉は厚みが3センチほどあるようだが、何か仕掛けがしているのだろう。


 人一人が通り抜けられる程度に開いた隙間に男が身体を滑り込ませたあと、内側からドアは閉められた。

 

 家の中には家具等は見当たらず、人が生活をしている雰囲気は皆無だった。がらんどうの部屋の隅には地下室があるのだろう、降りの階段が下からの明かりに照らされその存在を訴えている。


 男は無言で階段を降りてゆく。階段は螺旋状になっており上の部屋から先は見えない。途中途中にはランプが置かれており足元はしっかりと照らされている。埃などは見えず、ここが外見とは違ってしっかりと管理をされているように見受けられた。


 だが、そんなことには露ほども興味を示さず男は階段を降りきる。するとそこには木製の椅子が二脚置かれ、その片方にはフードを被った男が座っていた。


「お待ちしていました。依頼内容をご説明します」

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