検分

 街道に斃れた首無しの死体は夜明け前には発見された。


 大きな拠点を繋ぐ街道ではないため街灯などは設置されておらず星明りだけが足元を照らす小規模のものではあるが、その性質上安全が担保されていない夜間でも火急の用などがある人間の行き来は一定数存在している。


 そして現在その火急の用を持つ者、街道に身元不明の死体があると言う情報の確認役として駆り出された三人の男がその首無しの死体の前に立っている。一人は冒険者ギルドの受付責任者の男。その護衛役の若い冒険者ギルド職員の男剣士。最後は商会ギルドの責任者の一人だった。


「日が昇ってからもう一度確認は必要だが、このすかしたシルバーのブレストプレートにワーウルフのスタデッドレザーアーマー。一本は見あたらねぇがシールド無しの二本差し。この装備から見ると最近名を上げ始めていた四人組のパーティリーダーに間違いねぇだろうよ。遠目にだが何度か見かけてるからな」

「しかし状況を見るに一撃で首を跳ね飛ばしたのですか?ポーションの砕けた空き瓶があるからいきなりってことはないのでしょうが……」

「ああ、一目で分かるくらいに鮮やかな切り口だ。だがな、治安維持ざつようの部署に配置されたんなら全体も良く見ておくことだな。こんな町外れの死体を検分するなんてことは日常茶飯事だ。お前さんも直ぐにやる気が失せちまうだろうが一応新人教育も俺の仕事だからこれから少しずつ教えてやるよ。ほら、左のわき腹を見てみろよ。ブーツのあとが付いてるだろ。これをやった奴は素手でも相当な凄腕だと思うぜ」

「成る程。そこまで目が行ってませんでした。とは言え素手ですか。俄かには信じられませんが親父さんが言うのならそうなんでしょうね」

「迷宮ばっかり潜ってるお前たちみたいなのは魔物相手ばかりだろうから理解しがたいだろうがね、対人間相手ってやつに限って言えば素手格闘は意外と馬鹿に出来ないもんだぞ。剣は突いたり斬ったりしか出来ないが、手は違う。突いたり斬ったりも出来るし掴んで引っ張ったり押し込んだり。あわよくば投げることも出来ちまうし何たって準備が不要だ。ってことはどのような状況にも対応が出来る。ああ、やりあってもデカイ音が出ないのも大きいな。勿論素手で武器持ちの相手をやり込めるだけの実力がないとあっさり死んじまうだろうけどな。まぁ、こうやって暗殺なんてするような奴にはありがたい技術だってことだよ。……なぁ?商会ギルドの旦那」

「仰る意味が分かりかねます」

「まぁ、そういうことにしておこうか。これ、あれだろ。最近人気急上昇中の秘蔵っ子の仕業だろう?あまり派手にやりすぎるとその内足が付いちまうから注意しとけよ?俺たちだって馬鹿じゃないしさ。……ああ。関係ないってスタンスだっけ。でもまぁ、宜しく言っといてくれよ。俺もその内依頼するかもしんねぇし。その時は割引してくれや」

「仰る意味が分かりかねます」

「お前そればっかりだな。ちょっとは愛想良くしとけよ。新人君はこの旦那を見習うんじゃないぞ。俺たちの商売って奴は愛想売っとけば大体何とかなるんだからさ」

「はい」

「おう、その返事が大切だからよーく憶えとけよ」

「建設的なお話も尽きたようですので検分は終了ですね。私はこれで失礼します。書類は後ほどギルドまでお届けしますのでご確認をお願いします」

「おう、協力ご苦労さん。俺たちはもう少し現場を見ておくから領主様に連絡を頼むわ」

「了解いたしました。では」

「じゃあな」

「ご苦労様でした」

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