第3話 一ノ瀬若菜は学園の有名人である
「はい、OKです。次の方どうぞ」
校門に近づくとそんな声が聞こえた。校門を潜ると昇降口までの道に多くの生徒による列ができている。その一番先にいるのが風紀委員の連中であることが肩から下げている緑の襷から見て取れる。その中でも特に目立った人間が一人。
「少しスカートが短いです。早めに直してください。では、年組番号をこの紙に」
「えぇぇぇ? これでも駄目なの? 少しくらいいいじゃん。ね?」
「スカートの基準は貴方のルールではなく学校のルールによって決められています。それに……」
「何? まだあるの?」
「あなたはそんなことしなくても十分魅力的ですよ」
「……え? あ、ありがと……」
スカートの注意を受けた女性はそのまま紙を受け取ると恥ずかしそうに去っていった。
何を話していたのかは分からなかったが
俺と雄二は自転車を置き場に止めると列の一番後ろに並ぶ。そして自分の順番が来るまでに曲がった襟を直したり暑さのために曲げていたズボンの裾を直したりしておく。年に2、3度あるこの服装検査だがバッグの中身を見られることもある。普段は検査に引っかかる物どころか教科書すら学校に置いていて空のリュックで登下校してる俺だが、一応心配なので中身を見ておくことにした。まぁ、ここで不味い物がバックから見つかったとしてそれをどうするんだという話なのだが
「ん……?」
入っていたのは筆箱と一枚のプリントだった。そのプリントの内容とは——
冒頭を少し読む。
{この度は街中でセクハラにも近い言葉を連呼し——}
「ブフォッ!!」
「ど、どうしたん創」
ま、不味い。これは昨日言峰会長に絞られた時に書かされた反省文だ。こんなもの風紀委員に見つかったらただでさえ三馬鹿と間違われている俺の評判が更に下がってしまう!
ここでプリントを隠すのは簡単だ。しかしそうなれば必ずこの反省文を書いた紙は汚れてしまうだろう。そんなものを言峰会長に提出したらどうなるか、結果は見えている。あとから書き直すという選択肢もあるがこの紙、無駄に凝ったデザインであり手触りもいい。字が汚い俺が書いたのにも関わらずなぜか綺麗に見えるそんな紙である。つまり何が言いたいかというとこの紙は恐らくちょっとお高いものなのだ。
なぜ反省文をそんな紙に書かせたのかはわからない。もしかしたら会長のことだから今日服装検査があるのも分かってただろうしこのヤバい状況をわざと作ったのか? それでなんとかこの状況を切り抜けて見せろ、そう言いたいのかもしれない。それこそが今回の一番の罰なのだろう。
深読みのし過ぎとは思うが会長の目的がどうであれ俺はこの状況をどうにかしないといけないわけだ。
「面白い……なんて言えねーよな。この状況どうすんだよ……」
「ん? 何が?」
なけなしの脳でたどり着いた一つの答え。それは——
× × ×
「待ちなさい! 葛木君!」
「待ったら摑まるだろ!」
「服装検査を回避するという違反行為をしたのだから当然です」
「頼むから服装検査は今回は勘弁してくれ!」
「だめです! そんなの不平等ですし生徒を公平にするためのルールなので貴方だけ特別扱いは出来ません!」
「だぁぁぁぁ! どうしてこうなったぁぁぁぁ!」
たった今、俺こと葛木創は俺のクラスの風紀委員である
一、偶然か狙ったのか一人でいた柊と出くわす。
二、約一分間の世間話の中でうっかりボロを出したことによって俺が服装検査をすり抜けたことがバレてしまう。
三、その場で服装検査をされた後リュックの中身を見られそうになる。
四、見せられるわけもないのでその場からリュックをもって逃げる。
…………なにこの
判断力に長けた柊はどうやったのかいつの間にか仲間を何人も引き連れて俺を追い回している。
俺とて馬鹿みたいにただ逃げ回っているわけではない。場所を悟られてその先に他の風紀委員を配置させられる、なんて事態にならないように迂回しているが、目的地である生徒会室には少しずつ近づいている。
そもそもそこにいる会長に反省文を提出さえすれば持ち物検査で俺の悪行が書かれた紙を見られないですみ、胸を張って検査を受けることができるからだ。
しかし生徒会室は二階にある。校舎内にも複数の風紀委員が柊の命令によってうろついているだろうし、その中で二階の生徒会室にたどり着くのは至難の業である。もちろん昇降口からの正面突破なんて話にならない。まず一般生徒が多すぎて走り抜けられない。つまり窓から、もしくは都合よく校舎内に簡単に入れる扉があればそこから入らなくてはいけない。しかし相手はあの柊、鎌田や巴門を悉(ことごと)く捕まえて会議室にぶち込んだ怪物だ。
そんな扉は罠だと思った方がいい。きっと入った瞬間に意識がなくなる。
となると前者の窓から入る線で行くことになるが——
「お! それ俺も買おうと思ってた奴じゃーん」
「これは中々にすげぇぞ。俺の所持してる物の中ではTOP3には入る。読むか?」
「いいのか!? さすがだぜ鎌田! やっぱり持つべき者は親友だよな!」
「ハハハやめいやめい!」
「「HAHAHAHAHA」」
とても頼もしい仲間がいた。
「巴門! 鎌田! 急で悪いが風紀委員に追われてるんだ。助けてくれ!」
俺は二人持っていた雑誌らしきものを取り上げ、リュックにそのまま詰め込むと二人の手を引いて駆け出した。
「おい、創どういうことだよ。お前が追われてるって何かやらかしたのか?」
心底意外そうに金髪の微問題児である巴門が問う。
「詳しくは後から説明する。今は俺に頼まれてくれ」
「頼まれてくれったって一体何をするんだよ」
「二階の生徒会室に乗り込みたい。窓からだ」
「へぇ、面白いこと言うじゃねえか。どうする? 鎌田」
巴門の真っ白な歯が光る。先ほどからずっと口を
「いつもは巻き込む側だからな。たまにはこういうのもいい」
「決まりだ。それじゃ創、生徒会室の下で待ってるぜ」
「え、ああ。うん? どういうことだよ——って速っ!」
一体何をするのか分からないが逃走のスペシャリスト達には何か策があるらしい。ずっと走っていて体力が減りスピードが落ちてきた俺との距離をもの凄いスピードで離していった二人の後を追いかけていく。
× × ×
生徒会室の下へ来ると巴門が立っていた。しかし鎌田の方は見当たらない。俺はとりあえず追手との距離が大分離れているのを確認すると一旦巴門の元へ行く。
「どうするんだ? 巴門」
「お前が俺を踏み台にして二階に跳ぶんだよ」
「なるほど」
本当は全然納得いってないのだが今は時間がない。出来る出来ないとかではなくとにかくやらないといけないのだ。俺は高さ確認の為に生徒会室の窓を見上げる。
「お、おい! 開いてないぞ生徒会室の窓は!」
俺が戸惑っているとその隣の多分廊下の窓から「大丈夫だ!」と聞きなれた声が聞こえる。そこにいたのはどっかに行ってしまったと思った鎌田であった。鎌田は自分の制服を脱いで片腕の方だけ持ってその窓から垂らしていた。なるほど、俺の運動神経を考慮して足りない分の高度は引き上げることで補おうってことか。
「早く準備しろ創! 追手が来るぞ!」
巴門はそう言うと腰を低くし、両腕を一点に集め、バレーボールでのパスをつなぐ際の構えのようなポーズを取リ始める。ん? あの構えは……
チアダンスだ。
チアダンスで下の人間が乗ってきた他の人間を大きく上に飛ばす際に取る構えだ。時間的にさすがに校内に入って階段を上がり、所定の位置につくなんてことは不可能なので鎌田は巴門にチアダンスの要領であそこの窓に飛び込んだのだろう。
……しかし他人の援助無しでそんなことをやってのける鎌田は本当に俺と同じ普通の人間なのか? 運動神経が異常に発達した新人類とかじゃないかと疑ってしまう。
俺は二人の意図を理解すると巴門から距離をとり、一呼吸の後に助走をつけて最後はホップステップジャンプのリズムでタイミングを合わせると巴門の手に飛び乗る。
「おらぁぁぁぁぁぁ!!」
巴門の馬鹿力によって高く上げられる俺の体。しかしやはり俺のやりかたのどこかがおかしかったのか二階の窓に直接入れそうにはなかった。しかしその代わりに友が垂らした制服をしっかりと掴む。幾度の鎌田本人による修理という名の強化をえてより強度が増した制服は普通のロープと何ら変わりなく俺の体重を支える。制服が破れないといった安心と同時に掴んだ右腕に強い力が加わるが、この程度なんてことはない。
「よいしょっとぉ!!」
俺が落ちてないことを制服を通じて腕に伝わる俺の体重によって確認すると鎌田は一本釣りのようにして俺を引き上げた。
教室に投げ出された俺は転がることで受け身を取ると鎌田に短くお礼を言って生徒会室へ再び走り出す。さすがの風紀委員共もこの展開は意外だったのか追手が来てるような気配はない。そもそも俺の教室と生徒会室は同じ階ではあるものの、場所としては正反対に位置するため俺の目的地がこの生徒会室だと知らない風紀委員共がここを見張る道理はない。後ろにいた追手の一部に今頃気づいた人間ならいるかもしれないがそいつの優れた勘もこの状況では何の意味もなさない。
生徒会室前に着くと靴を脱いでドアの前に並べた後にノックをする。
ノックは3度、トイレは2度と近所に住んでる作法にうるさい婆さんが言っていたのでその通りにする。
それほど時間がかからない内に返事が返ってくる。
「どうぞ」
会長の声だ。ようやくこれで反省文を渡せることができる。俺の勝利だ。
「失礼します」
× × ×
「おお、お前か。その様子だと上手く切り抜けたみたいだな」
会長はやはり俺が来るのを予想していたのか特に驚きもせず、優雅にお茶を飲んでいた。
「やっぱりこの状況は意図的に仕組んだものだったんですね」
「まぁ、な。しかし一つ意外なのが私が予想していたよりも君に疲れが見えない事だ」
「いや十分疲れてますよ……確かに俺一人じゃどうにもなりませんでしたけどね」
「と言うと協力者が他にいたと。ああそういえば確かお前は問題児二人と仲が良かったな」
「言い方が初々しいですよ。本当は巴門と鎌田が協力するところまで予想していたんでしょう?」
「さて、どうだかな。何はともあれ君はこうやって私の元にたどり着いて反省文を提出できる。合格だよ。君が紙を忘れてきたというのなら別だがね」
「それは大丈夫です。ちゃんとここに入って」
リュックを前に持ってきて中の反省文を取り出そうと探りをいれる。その時だった
ボトン、と何かが落ちた。どうやらそれは雑誌のようでそのページの間に高級な反省文を書いた紙が見えた。挟んであったお陰で先ほど転がった時に紙がぐちゃぐちゃに折れ曲がらなくて済んだのかもしれない。だとしたら運がいい。紙の状態まで考えてなかったのだ。
「すいませ——」
俺はその雑誌を拾って挟んである紙を取り出そうとする。
手が止まった。
いや、ここでは手を止めてはいけない。俺はさっと、紙を引き抜くと雑誌をリュックに放り込む。そして何事もなかったように笑って会長に反省文を提出する。
「お願いします」
「……さっき落ちた物はなんだ」
「わかりません。では、これで」
俺は振り返って一刻も早くこの最悪な空気の生徒会室を出ようとする。
「そうだな……別に直接私が裁かなくてもいいしな。そういったことに対する処罰を与えるのは他に適任がいる」
物凄く怖いことを言っている気がするが気のせいだろう。これで俺の勝利のはずだ。
「し、失礼します」
ドアを開けて廊下に出るとそこには——
「おはようございます。葛木君」
「お、おはよう柊」
「リュックの中、見せてください」
葛 木 は あ た ま が 真 っ 白 に な っ た
見事に俺の評判は落ちて本当に三馬鹿の一員となってしまった瞬間であった。
× × ×
「冷凍最高」
「また言ってるお……」
春風を前進で感じながら箸を運ぶ。冷凍食品によってご飯が進むのはもちろんのことなのだが、最近食欲が増えてきたので米の量を増やしている。それに対して食費の節約のために冷凍食品の量は今まで通りである。
いくら旨いといっても高いからな。そして、この場合、必然的に米が最後に余ってしまうのだ。
それでは困る。そこで登場したのがのりたまふりかけである。俺の場合はふりかけの袋ごと持ってきてその時に残ったご飯の量に適切な量を使用する。
しかし迂闊! のりたまふりかけは昨日で切れてしまっている。昨夜母親に買い物の際にお願いしておいたはずなのだが俺の日本語の発音がよほど悪かったのかその後に母親から渡されたのは消しゴムであった。
おかしい。ふりかけと消しゴムでは「け」の一文字しか合ってないじゃないか。これはあれか? 親が子供に勉強道具を買い与えるってことはその分勉強を頑張りなさいよってことなのか?
舐めとんのか
余談ではあるが俺はそこそこ偏差値の高いこの高校でなんとかトップ10に入っているだけの実力はあるし、物理に関しては学年一位だし全国模試でも決して悪い成績を取ったことはない。
要するに俺は俺なりに勉強を結構頑張っているのだ。不真面目な点を挙げれば現国と古典の授業用ノートがまだどちらとも一年生から使っているのにも関わらず一冊目の半分も行ってないことくらいか。国語は俺には無理だ。国語は全教科の基礎とか現国の先生が言っていたがそんなことはないと思うね。
突風が吹き、もう全て散ってしまったと思っていた桜の花びらが俺の弁当箱の蓋に落ちた。その隣にある容器を見る。それは例えて言うなら少し小さめの水筒である。縦幅が短い代わりに普通の水筒よりも一回りほど円周が大きくなっている。
容器こそ水筒と似ているが中身は全く違う。共通点を挙げるならばそれらが液体であることくらいだ。
そう、そこに入っているのはJapaneseスープことお味噌汁である。ちなみにインスタントではなくしっかりとダシはとってある。
なにを隠そうこれこそがのりたまふりかけの代わりになる第二のご飯のお供である。
冷えたご飯と一緒に飲むととても美味しい。この旨さは冷凍たらこパスタに匹敵するほどだ。
専門の容器に注ぐ。ほんの少しだが湯気が空気を白く染めた。
(今が冬ならばもっと濃ゆく見えるのだがなぁ)
そう考えながら淵のギリギリまで味噌汁をついでいると————
ドサッ
髪を真っ赤に染めた大柄の漢が俺と雄二の前に振ってきた
「うわっ何事だお!」
「衝撃で味噌汁がぁぁ……」
突然の出来事に俺は驚いて容器を持った両手を放してしまった。結果、それらは重力に抗うことなく真っすぐに地面に落下し、中の液体は全てこぼれてしまった。
しかし悲しんでなどいられない。俺の経験上こういった人間に関わるとロクなことにならない。だから早くここを立ち去らないと。
俺は顔を隠しながら急いで弁当の道具一式を片づける。そんな俺の行動を見て悟ったのか雄二も同じ行動に出ていた。
「ってぇな! ブッ潰すぞコラ!」
背後から怒りのこもった大声が聞こえた。誰に言っているのか分からないが喧嘩はせめて別の場所でやってほしい。具体的には体育館とかで
さっきチラッと見えたがこの男は
巴門とかその辺の人間に訊けばこの男の名前ぐらいはわかるかもしれない。俺は基本的に他人に無関心なので友達皆が知っているような話を俺だけ知らないということが多々ある。ただ、ぶっちゃけ名前とかよりもなんでこんなTHE不良Aのような奴がこの学校に入学できたのかが知りたい。俺ピアスしてる男なんて初めて見たぜ?
「続けるのはいいが……先に倒れるのはお前の方だと思うぞ?」
そそくさと荷物を抱えて去って行く途中、なんとも凛々しい聞いていて耳が心地よい、そんな声が聞こえた。顔を上げると声の主と思われる人間がちょうど俺の横を通りすぎるところだ。
「————――」
時が止まった。意識は一つに固定され、体は動くのを拒否した。木の葉がこすれる音も聞こえなくなった。
動くのは目だけ。呼吸することさえ忘れてしまっているのに俺の視線は確実に彼女彼女を追っていた。
俺に続いて足を止めた雄二が口を開く。
「……あれって一ノ瀬若菜さんだよね? 確か舞高かっこいい女性ランキング2年連続一位の剣道部のホープの」
「!? 雄二はあの人のこと知ってるのか?」
「知ってるも何もめっちゃ有名だお。去年剣道部が全国ベスト8入りしたのも彼女のおかげだお」
「有名なのか……知らなかった」
そう言われてみると表彰式でそんな名前を聞いたことがある気がする。基本的に集会では睡魔と戦っているのではっきりとではないんだがな。
それと雄二の言ったかっこいい女性ランキングっていうのがすごく気になるんだが。
「ん? キミ達、向こうで食べるんじゃないのか? そうでなくても」
「早くそこから離れた方がいいぞ」
「オラァァァァァ!!」
瞬間、赤髪の巨体が雄たけびをあげて突進してくる。狙いはこの……一ノ瀬さんといったか、この人だと思うのだがハズレ玉が十分に当たる距離だ。呆けていた俺も急いで意識を覚醒させ、精一杯横に跳ぶことで躱そうとする。
「創ガード!」
「は?」
しかし雄二の謎の必殺技により軌道が強制変更された!
創はどうする?
▼体を捻って雄二を不良に向ける
▼力任せに雄二を不良にぶつける
よし、
「下だな」
こいつが先に俺を売ろうとしたんだから強くやられてもしょうがないよな。
「え、うわぁぁぁぁぁ!! ごめんて! ごめんて!!」
思いのほか強く抵抗してくるので関節を曲げて力を弱めてからしっかり照準を不良に合わせて突き飛ばした。しっかし当然のように俺たちよりも先に避けている一ノ瀬さんは何なんですかね。剣道するとそんなに
反応が良くなるのか?
「な、め、るなぁぁぁぁぁ!!」
不良は飛んできた雄二を全身で受け止めると回転で勢いを受け流し、その過程で雄二を羽交い絞めにしてみせた。
「てめぇ……よくもやってくれたな……」
「す、すいません」
「まぁ、いい。おい、女! こいつがどうなってもいいのか!? 少し肉が邪魔してるが骨を折るくらい造作もないぜ?」
「や、やややや止めてくだ、くださいぃぃ」
「お、おい流石に無抵抗の人間にそれは……」
「るせぇ! おめぇがこっちにぶつけてきたんだろうが!」
全くもってその通りである。
「……随分と小物に落ちたな外道。先ほどは私に一対一の真剣勝負を挑んできたくせに少し不利になるとこれか」
「一ノ瀬さん煽っちゃだめだって!」
「しかし……はぁ、何が望みだ?」
一ノ瀬さん呆れ混じりでそう言った。赤髪の不良は一ノ瀬さんの煽りにも似たセリフに少し眉間にしわを寄せるも、やっと話の主導権を自分が握ることが出来たことがうれしいのか笑みを浮かべ
「ゆっくりとこっちに来い。手は頭の後ろで組んでおけ。少しでも不審な動きをしたら——」
「「喰らえっ!」」
「な!? ガッ————」
何か忠告をしようとしていた赤髪の不良だが、そのセリフの続きは俺と一ノ瀬さんが同時に投げた投石によって遮られた。両者の投石は俺たちの予備動作を見て、最後の力を振り絞って体を前に倒した雄二の活躍により頭に命中、さらに雄二への被弾はないといった最高の状態だ。
……驚いた。完全に不意をついて投げたと思ったが一ノ瀬さんも同じことを考えてたなんて。見たところ真正面からの真剣勝負を好みそうな彼女でさえ人質を取るという不良の態度が気に食わなかったのか。しかし俺は雄二が頑張って避けるのを分かっていたから投げれたけど一ノ瀬さんは自分の投擲技術によほど自身があるのか? それなりに速度出てたし一歩間違えれば雄二が結構なケガをしてたぞ。かく言う俺も絶対に雄二に当たらないという自信があったわけじゃないんだけどな。
しかしどうしよう。二人同時に顔面に石を当てたことで不良の状態がかなり悪そうだ。いくら不良が悪い人間だからといってもこの状況を教師や生徒会、風紀委員の連中に見つかったら悪者扱いされるのは俺たちだ。まぁ、実際に他人に石を投げるという悪いことをしたのだからしょうがない部分もあるのだが。
とりあえず赤髪の不良の束縛から逃れて腰を抜かしている雄二を回収、その後に周りを確認して先ほど述べた連中が居ないかの確認をする。
「最悪だ……」
明らかにこちらを見据えて近づいてくる人間が一人、長い黒髪を揺らしながら所々木の根が地上に出ている悪い地形なのにも関らずその姿勢は彼女の生きざまを示すようにまっすぐであった。
「遅いな
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