呪われたプリンス2

OPENING

 世界は大量の「物語」であふれかえっている。その表現方法は活字であったり、絵であったり、映像であったりと、実に様々だ。


 そこで我々は、最初の2つに注目してみよう。活字と絵。


 そこからもう少し絞り込む。新聞やマンガも「物語」を伝えうるものではあるが、今回のメインは本、もしくは絵本。


 世界は大量の本や絵本であふれかえっている。本屋や図書館、そしてあなたの家にも、それらはある。


 それらの本や絵本が媒介する物語はほとんど――いや必ず、誰かの手によって終わらせられている。ハッピーエンドであろうがバッドエンドであろうが、物語は完結している。


 しかしこの世界には、「終わりのない物語」が存在していることは、ご存知だろうか。終わりがない、つまり作者が途中で、書くことを諦めてしまった物語。


 書くのが面倒になったから、途中で矛盾が生じてしまったから、どうせ誰も読まないと思ったから、書ききる前に死んでしまったから――物語が未完成のまま放置されてしまう理由は、作者それぞれだ。


 昔であれば紙、現在であればパソコンのデータに残されるだけで、永遠に日の目を見ない運命となってしまった物語。作者はそれでもいいかもしれない。だが物語の登場人物は、その運命をどう思うだろうか。時が止まった世界の中で、一体何を思うだろうか。


 動きたい――そう思うのではないだろうか。歩き、語り、物語を生きたいと。


実はそんな哀れな人々を救い、物語にきちんとしたエンドを与える者たちが、我々の生きる人間の世界とは、また違った世界にいる。


 名もなきその世界はひとつの大陸でできており、その極西の空は一年中黒く分厚い雲に覆われ、雷が絶えず鳴り響いている。こちらは比喩表現ではなく、本当に日の目を見ることができないため、木々は枯れ、一輪の花も見当たらない。彼らの屋敷は、そんな場所にあった。


 屋敷の中を埋め尽くすのは、膨大な本。といっても、未完成のものだ。我々の世界の人間が、書くのを途中で放棄した物語たちが、一応本や絵本といった形で、本棚におさまっている。作者に存在を忘れられて長いことたった物語が、不思議な道を通ってこの屋敷に転送されるのだ。もちろんその物語は、作者たちの世界でも見ることができる。屋敷に送られてくるのは、いわばコピーだからだ。もっとも、見るような人間がすでにいないから、屋敷に転送されるわけだが。


 さて、ここでかわいそうな物語がどのようにしてラストを手に入れるのか、ひとつ見てみよう。


 一人の細身の男が地下一階の書庫を、足早に歩いている。年齢は二十歳前後だろうか。真っ白な体を、白いタキシードが包んでいる。髪は雪のように完全な白。遠くから見ると、彼はまるで白い幽霊だ。


 なんの感情も浮かんでいないその顔は、ひどく整っていた。それゆえに、切れ長の銀色の目の下の隈が、とても目立つ。ペンで書いたのではないかと思われるほどの濃い隈が、抜けるような白い肌に浮かんでいる。


 彼はふと立ち止まり、一冊の絵本を本棚から引き抜いた。それをパラパラとめくる。銀の瞳が、不規則に動く。

 その本の最後のページに、白い手袋をした手をかざす。次の瞬間、彼は消えていた。絵本だけが、そのまま宙に浮いていた。


~5つの掟~

1.等価交換する

2.取引終了後、登場人物から物語の進行上不適切な記憶を消去する

3.取引以外で人の命を奪わない


これらを1つでも破った場合、死あるのみ。

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