第14話 小白
小白がクラスメイトの死に人一番悲しんだのは言うまでもない。
事件翌日。
殺された阿澄翔子が小白のクラスメイトだという事実は周りの人間を酷く刺激した。
誰もが関係ないと分かっていながらも意味のない目線を送る。
それを見て蓮は小白に告げた。
「少しの間、あんたは学校休んだ方がいいね。色々、群がる奴がいるかもしれないからさ」
蓮の助言により、小白は二日ほど学校を休んだ。
星読高校の近くにはマスコミが殺到し、生徒に話を聞こうと張り切っていた。
蓮は彼らに小白が見つかるのを嫌ったのだ。
ショックを受けた小白も学校を休むことを受け入れた。
その間、ノートは蓮に取ってもらっていた。今日学校でそれを受け取ると、ノートには励ましの言葉が書かれていた。
そして事件発表から三日が経った。
マスコミの数が減ったこともあり小白は学校にやって来た。
昼休み。
小白は蓮はいつも食事を取る教室から離れ、新聞部の部室へと向っていた。
その途中、クラスメイト達の視線に嫌気が差した蓮は誰に言うでもなく不機嫌さを露わにした。
「なにあれ? 阿澄が死んだらみんな小白見るっておかしくない? ああ、腹立つ」
「シロちゃん・・・・・・」
小白はなだめるが、蓮は納得いかない様子だ。
蓮は小白に尋ねた。
「あんた。変な奴にうろつかれたりしてない? テレビとか新聞記者とか」
「うん。そういうのは伯父さんが対処してくれてるから心配しないで」
小白は無理矢理作ったような笑みを浮かべる。
それを見て蓮はフーッと長く息を吐き、新聞部の部室を乱暴に開けた。
蓮は弁当箱を机に置き、パイプ椅子にどかっと腰を下ろす。
「どうせ男と喧嘩したとかなのに、警察はまだ捕まえてないなんて。なにやってんだか」
それ以降しばらく、二人共何も話さなかった。
箸が進まない昼食がだらだらと続く。
「・・・・・・・・・・・・色々言っといてあれだけどさ、あんま気にしない方がいいよ」
蓮はちらちらと小白を見ながら告げた。
「あはは・・・・・・。うん。大丈夫だよ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・でさ、ごめん。先に謝っとく」
「・・・・・・え?」
小白は顔を挙げた。
「あたしね。今回の事件、色々調べてるんだ。いいかな?」
箸を置いて背もたれにもたれる蓮。
小白はちょぼちょぼと食べていた手を止めた。
「・・・・・・えっと、シロちゃんがやりたいなら、やったらいいと・・・・・・思うけど・・・・・・。でも、危ないのはやめてね?」
小白としては複雑な心境だった。
蓮に危ない事件の調査をしてほしくないというのもあるが、それをわざわざ聞かれるのが気を遣わせているようで心が痛んだ。
そして蓮は小白の気持ちをよく分かっていた。
そして小白も蓮が自分の気持ちを知っていることを理解している。
互いに気持ちが分かるからこそ、二人の心境は複雑だった。
沈黙の中に全てを悟った蓮は寂しげに微笑んだ。
「小白は優しいね。嫌なら嫌って言っていいんだよ? あたしになんて気を遣わないでさ。その分、自分を気遣ってあげないと」
蓮の優しい言葉に小白はいつもよりしっかりとした目で言った。
「シロちゃん。私は大丈夫だよ。だからやりたいことをやって。ね?」
普段弱々しくも見える小白だが、根は誰よりもしっかりしていた。
「小白・・・・・・・・・・・・。うん。ありがと。あんたも何かあったらすぐに電話してきてね。いつでも助けに行くからさ」
「うん」
小白は濁りのない笑みで頷いた。
それを見て蓮はぱんと手を叩いた。
「よし! 暗い話はこれで終わり。お弁当食べよ」
蓮は食事を再開し、すぐに何かを思い出した。
「そうだ。放課後どっか遊びに行こっか。何か甘いものでも食べに行こうよ、何が良い? バイト代入ったから奢るよ。ネットで書いてる記事がお金になったんだ」
甘いものを奢ると言われて小白の顔がぱあっと華やいだ。
「なんでも?」
「なんでも!」
「じゃあ、あんみつ!」
「いいねえ。あんみつ。放課後が楽しみですなぁ~」
二人は仲良く笑った。
それは傍から見ると日常に忍び寄る微かな闇を祓うために楽しい事柄を思い浮かべいるように見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます