第308話 解散!

「よし、解散!」


 俺は考えを放棄することにした。だってどう考えても色々とめんどくさい。この神官が街のトップだったならかなり荒れるかもしれないが、逃げればばれることはそうないだろう。


 隔離状態のこの状態が功を奏した形だ。神官がどういう形であったにせよ、とりあえず外側の人たちにはこの神官がいなくなったという影響は少ないはずだ。


 というかまともな人たちは内側よりも外側のほうが多い印象あるし、この謎の性癖捻じ曲げ装置がなくなれば素直に街が機能するのではないかとすら思える。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはない!


 そう思うことにしよう。そもそも子どもを守るという点において外側も内側も共通してるだろ。戦争が起きたのはこの力を回収しきれなくて暴走でもしたんじゃないのか? 今の状態でも回収なかなかきついのに加護無しで回収出来るとも破壊できるとも思えない。


「めぐ、これは俺が回収したほうが良いのか?」


「いえ、私が回収します」


 力強い返事が返ってくる。めぐの体の中に多くの神気を入れるというのは無理があった。人間の体、物理的な器が壊れかねないと言っていたが今は別。後輩女神から本来の力を受け取り、体事強化されたっぽい今ならこの神気を回収しても問題なさそうだ。


 めぐを元気にするという目的も達成出来たし、むしろそれ以上にめぐを安定させられたというのがとてもうれしい。この街に来ることがこんなにメリット多いとは思わなかったぜ。


 女神様の力を体に取り込むという一種のプレイにも似た快感を得られないのは残念だが、そんなことよりもめぐの安定のほうが大事だ。そのためにここに来たんだからな。


「ほんとごめんなさい」


「ええ。今は逃がしてあげる。イリスに見つかったらあなた本当に死ぬかもしれないし」


 後ろではシオリがクロエに謝っていた。前回のことで色々たまっていたクロエだが、的当てが楽しかったのかあんまり怒っていない雰囲気を感じる。対シオリ専用魔法だもんな、それがしっかり効いたならそりゃ嬉しいか。


 そして何故シオリが二人をとらえたりしたのかを考えれば、許してしまえるんだろう。実際に被害はシオリに戦闘で負けたくらいだからな。それ以外に関しては悪いことは何もないし、そこまで切れる要素は正直ない。


 実際は危ないところに放り込まれたが、それも自力で何とか出来るのがわかっていれば気軽にやってしまうのも無理はない。一般常識で考えればおかしな話だが、ゲームでそういう役割の人物と考えればおかしくはない。


「今あの子も頑張ってるし、あなたにかまってほしくないの。だから一時的に見逃してあげるだけだからね? 全部終わったらボコられに来なさい」


「はい……」


「もし逃げたら、水攻めと窒息と蘇生を繰り返すからね?」


「は、はい」


 悪魔かな。


「お兄ちゃん、回収終わったよ」


「早いな、お疲れさま」


 めぐの頭をなでながら労う。めぐの言うように部屋の中に充満していた神気はかなり薄まり、神気を発していた光の玉はなくなっていた。これで外の結界もなくなっただろうし、街はどうなるだろうか。


 何が目的でこんなことをしていたのかは結局聞けず仕舞いだったけど、きっと無くても大丈夫だろう。もし責任を追及されそうになったらシオリを全面的にプッシュしていこう。この女がとどめを刺したんですって言えばそれで大丈夫だ。


 そもそもそんな混乱状態の中俺のことを覚えてる連中はそうはいないだろう。外側の指名手配も結界が壊れることでうやむやにならないかなぁ。


 悪いのはめぐの力を使ってこんなことをしていた奴らだ。俺は悪くない。


「ところでアオノ君、その子は……?」


「俺の女神様」


「あ、そう」


 そういえばシオリ、めぐの事知らないな? 完全に気にしてなかったし俺も説明する気もなかった。シオリにとって女神様の立ち位置ってどういうものなんだろうか。世界のバランスを考えなかった神、それとも対魔王への切り札?


 こいつの考え方はよくわからんからな……。あんまり詳しく説明してもちゃんと理解してくれない可能性すらある。興味なさそうだし放置で良いか。というか他の世界の俺がパーティの幼女に対して同じように言っていた可能性がある。


 めちゃくちゃ塩対応というかほぼスルーだしその可能性が高そうだな。女神はたった一人だが、どうしていたかなんてわからんからな。


「ねぇめぐ。仮にもあなたが作った世界なのにこの街放置で良いの?」


「え? うん。だって運営してるわけじゃないし今更介入しても信じてもらえないしここの人たち私じゃない神信仰してるしむしろ滅びてもなんとかなるくらいだよね! 責任はそこにいる人たちで取らないとね!」


「……めぐもキミヒトに毒されてきた感じが強くなってきたわね。さっきは女神っぽかったのに」


 クロエのごもっともな質問に晴れやかな笑顔でめぐが答える。うん、そういえばそうだよね。めぐが作った世界なのにこんな勢いだけでやっちまってよかったのかと今思ったわ。


 めぐはぶっちゃけ世界滅びるまで全く気付かなかったわけだし、さぼるために廃教会で寝に来ていたもんな。女神やってた頃は見るとこ多すぎて世界に問題が起きるまで気づけなかったんだろう。そのせいで中身にほとんど興味ない、と。


 ちゃんと考えてたのはクロエだけだわ。


 シオリは自分のルートの事しか考えてないし、俺は流れに身を任せるスタイルだし、めぐは何も考えてない。このパーティで活動したらクロエの負担がやばいことになりそうだし早いとこ帰るか。


「シオリ、もう迷惑かけんなよ」


「かけないよ。今回の世界は今までで一番戦力が充実してるしすごく良さそう。早くトゥルーエンドが見たいなぁ」


「あとあれだ、ヒビキの連絡にはちゃんと応答しろよな。数分もかからないんだし無事がわからんと困るからな」


「はいはい」


 やっぱこいつ現実としてこの世界見てないところあるな。あんまり関わらんとこ。死んでもループすれば生き返るしいいじゃんとか言い出したら怖いしめんどくさい。あとは魔王との戦いのときくらいしか会うことはないだろう。


 ……その前にイリスに見つからなければ、だが。

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