第307話 微妙な笑顔が大好き
「神に選ばれ……神託を受けた……あきらめるわけには」
「ちょっと何言ってるかわからない。これだから宗教家は……」
なんとか抵抗しようとしている神官だが、がっつりとらえられているうえにシオリがめちゃくちゃ警戒して抑えている。さっきの不意打ちによほど切れたのだろう。俺としても抑えてもらえるのはありがたいのでそのまま会話をしよう。
「なぁおっさん、神託を授けたって神ってもしかして……」
俺が大女神と後輩女神の特徴を説明すると神官は驚いた顔をしていた。しかしまくしたてるようにして会話を打ち切ってきた。曰くあてずっぽうだ、自分以外のところに姿を見せるわけがない、などを色々な言葉で言ってくる。
大女神様とは和解出来たので、俺としてはそこまでこの街に固執する気持ちはなくなってきている。この神官が世間一般的な神をあがめてる人って思うとやる気もそがれてくる。
俺、みんなからこんな風にみられてたら嫌だなって意味で。
「それは誤解で……」
「うるさい! そんなわけがあるか! 私は神官で神のお告げを聞いたのだ! お前のような一般人が口出ししていいことではない!」
こんな感じで全く話のしようがない。話が通じないというよりも話をしようとする姿勢が感じられない。自分が一番正しく、一番偉く、それで他人を見下しているといった様子だ。
うん、めんどくさいな。
「シオリ、そいつの始末はいつもどうしてたんだ?」
「え? 普通に倒してるよ。こういう悪役は普通死ぬじゃん」
「ちょっといいですか?」
もうめんどくさいからシオリに始末を任せて神気を回収しようかなと思い始めたらめぐが質問してきた。
「お兄ちゃんは神気を回収したい、そこの迷い子はお兄ちゃんの暴走を止めたい。もう神気を回収して帰れば二つとも解決ですよね? ……大女神様がおっしゃったことをよく考えてみてください」
めぐはうつぶせに倒されている神官に近づき、膝をついて目線を合わせてあげる。その姿はめぐではなく俺がよく知っている疲れた顔をした女神様そのものだった。その姿に何かを感じたのか神官が目に涙を浮かべ始める。
「あぁ……あなたから神の存在を感じます……そうか、神は……」
そして神官は何かを悟ったように気を失った。
「それじゃやっちゃうね」
そしてシオリは何事もなかったように神官の首をはねた。
「お前なにしてんの!?」
今めぐが良いこと言って神官改心させたみたいになったじゃん!? しっかり見てたし頷いてたよね!? お、動かなくなったしちょうどいいな、とどめ刺しとこ。じゃないんだよ!
「だって生かしておいても意味ないし」
「……」
「お前めぐ見てみろ! 今すんごい女神様っぽいことして慈愛の表情でやり切った感じだったのに一気に台無しにされてなんとも言えない顔になっちゃっただろ! この微妙な笑顔が大好きなんだよありがとう!」
「信者一号破門でいいですか」
「お前めぐ見てみろ! 今すんごい女神様っぽいことして慈愛の表情でやり切った感じだったのに一気に台無しにされてなんとも言えない顔になっちゃっただろ! もっと空気を読めよ!」
「キミヒト……」
なんとも言えない空気が漂ってしまっている。いやまさかこんなことになるとは思わなかった。正直めぐが許すなら俺にとってはそれが正義だ、だからそのまま放置して帰ろうかって言おうと思っていたところだ。
それにめぐの慈悲により改心したなら、今後のこの街は実質めぐの支配下に置かれることになる。そうすれば色々と便利になったはずだが……。
それなのにこの状況。まじでシオリなんのためにこいつ殺したんだよ。この街の偉いやつ殺したら明らかに面倒くさいだろうに。
「だって悪者だよ? 私たち勇者だよ? やったほうがよくない?」
……あれ、もしかしてこいつ、記憶戻ったと同時に呪いも発症してないか? この真っ直ぐに狂っているような考え方、前の世界の勇者たちにそっくりなんだが。
そうだとしたらこのままこいつを逃がすのはまずいんじゃないか? あかねに解放を使ってもらって正気に戻す必要がある。そうすれば勇者としても人としてももう少しまともになってくれるはず。
いやでも発症してたら暴走しててもおかしくないんだよな。前の世界で暴走したのは術者が死んだとかそういった理由からだ。前の世界の状態を持ってきて、女神の加護がないならシオリは……。
「あぁ私は正気だよアオノ君。そんな身構えなくても大丈夫。ほら、ゲームの進行的には何も問題ないから次に進んでよ。私はみんなと合流するから気にしないで」
確かに、一度解放は使われているんだよな。そして召喚された瞬間を見るに呪いは引き継がれていない。ゲームとか言ってるし前世についてもしっかり記憶があるし今までの行動におかしすぎる点はあんまりない。
マジで素かよ。
不安、とにかく不安だが正直どうしようもないなこれ? 素なのか、ループしすぎて精神すり減らしておかしくなったのかはわからんが、とにかく理性はある。狂い切ってる方がまだ楽だったなぁこれ。
「キミヒトどうする? あなたがこだわらないなら別に放置してもいいと思うけど」
「わ、私も同じ、意見です」
クロエははっきりとめんどくさいと顔に書いてある。もしくは一度逃がして安心させたところをイリスと二人がかりでボコボコにしようとしているのかもしれない。
うん、たぶんそっちだな。油断したところを捕まえて仕返しする方がずっと楽しいもんな。これから引きずってイリスのところに行くにはあまりに時間がかかるし、仕返しならいつでも問題ない。神官についてもクロエは正直にどっちでもいいのだろう。
めぐは、うん。全てをあきらめた顔してる。かわいい。
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