第305話 ザ・神官
「っつ!」
シオリを壁に押し当てた瞬間壁が消失し、そこから物凄い勢いで炎が噴き出してきた。クロエは咄嗟にシオリをそのまま持ち上げ壁にしてなんとか回避することに成功する。その場から離脱するよりも盾にしたほうが早いと判断したんだろう。
その証拠に炎は扉を超えた瞬間から大きく広がっていた。もし避けていたら炎に呑み込まれていたかもしれない。
「クロエ! 大丈夫か!?」
「大丈夫よ。障壁は張れなかったけど、代わりに優秀な盾があったから。フラフィーにあげたいところね」
「……魔法は効かないって言ってもこういう範囲攻撃は驚くからほんと嫌い」
今の炎でシオリを縛っていた縄は焼き切れたが、シオリ自身に焦げ跡は皆無だった。魔法服の範囲はどうやら結構自由に自分で設定できるらしい。初めて見た時は服以外の場所はダメージ食らってた気がするけど強化されたか?
この世界のスキルの適用範囲は結構ザル、もしくは成長させたのか。俺のスキルに比べて次元を超えて移動するってどう考えてもインチキだもんな、成長させたと考えるべきか? っていうかあきらかに人為的な魔法だよな今の。
「君たちがお告げのあった人達ですか。ここにあるご神体は渡すわけにはいきません」
扉の中からは六十代くらいの男性が出てきた。法衣っぽいのを纏っていて、ザ・神官の偉い人といった立ち姿。持っている杖はシンプルながらもそれなりの大きさがありかなり使い込まれているという事がわかる。
神に仕えているだけの神官というよりは、実際に魔物を倒し浄化を行ってきた歴戦の強者の雰囲気を漂わせている。その証拠に俺から見ても全く隙がない。
「スリープ」
だがそんな人物もクロエのスリープの前には圧倒的無力。クロエが唱えた瞬間崩れるようにその場に両ひざをついた。一切の抵抗を許さず相手を倒すという意味ではこれは明らかにチート能力だと思う。
それにしてもクロエのスリープだけで魔王以外なら全部倒せるんじゃないかと思い始めてるよ俺は。勇者より強いんじゃないのこの子は。
「……驚きました。まさか聖域を突破出来る魔法とは」
しかし神官はすぐに立ち上がり驚いたようにこちらを見ていた。こちらとしても驚きを隠せないが、理由は明らかにめぐの力、もといその場に満ちている女神の力によるものだろう。勝手に使いやがってぶち殺すぞ。
「ふーん、面白い結界ね……」
「無駄ですよ、この聖域に魔力は普通は干渉出来ません。あなたの魔力の量、操作精度には多少驚きましたが出力を上げればこの通り。完全に無効化出来ます」
神官がそう言うと部屋の中の明かりがほんの少し強くなる。これは神気というよりも……別の何かじゃないか? 神気を使っていることは間違いなさそうだけど、それを媒介にして結界を作ってるような……。
実際ただの神気なら魔力を無効化するなんてことは出来ない。クロエも魔法を発動しようとしているようだがどうやら中に届かないらしい。そもそも入口が狭いため有効な魔法を撃ちづらいというのもあるんだろう。
というかたぶんこの扉、中からの脱出用っぽいよな。外からだと解除できないのもすごくそれっぽい感じ。それなのにここに案内するラッセルよ……お前は一体何に仕えているんだ。
「あなたたちがこの力を望んでいるのは分かっています。その欲望、浄化してあげましょう」
「!! やめろおおおお!」
神官が杖から出る何かを俺に向かって撃ってきたが、その射線にシオリが飛び込んできて俺をかばった。シオリの魔法服によって魔力の塊みたいなものははじけ飛ぶ。
もしめぐやクロエが狙われたなら咄嗟に俺はかばうだろう。ここにいないイリス、フラフィー、あかね、あいつらでもそう。
だがシオリには俺をかばう理由がないはずなのに何故……? 混乱しているとシオリが叫んできた。
「もうほんと最悪! アオノ、あんただけはこいつの攻撃食らっちゃだめ! 倒すなら攻撃を食らわないで倒す! 逃げるなら逃げる! 早くして!!」
「じゃあ倒す! こういうことだな!?」
「いやちょっとあんたら人を何だと思ってんの!?」
俺はシオリを後ろから持ち上げるようにして神官に向かって突撃していく。扉は狭いが一列になれば通れないというわけではない。
クロエの魔法が効かない、そして相手は遠距離攻撃を使ってくる。さらに俺は攻撃を食らっちゃいけないと言われる。どの程度食らっちゃいけないのかわからないかつ、魔力を無効化するっぽい結界の中にいる相手を倒す。
めぐの力が中にある以上俺に逃げるという選択肢は存在しない。
それら全てを満たす方法はたった一つ。
魔法もスキルも完全に無効化出来るシオリを盾にしてただただ全力で突っ込む。
なんて便利な女なんだ。
「うおおおおお!」
「なっ、馬鹿な!」
扉のあった場所を通り過ぎる時に一瞬風船を押すくらい抵抗があったが、何事もなく突破してそのままタックルをかます。人二人分の重さ、そして全力ダッシュのタックルを食らって神官は吹っ飛び転がる。
シオリから手を放し神官の落とした杖を蹴り飛ばし、うつぶせになっている神官の腕をひねりながら体重をかける。ついでに防御を反対向きにかけて魔法が使えないようにする。流石にやぶられないだろう。
「いつつ……。アオノ君、終わったら一発殴っていい?」
「クロエとイリスにボコボコにされる未来の後にそんな余力があるならいいよ」
「……」
俺のセリフに黙ってしまい、ため息を吐きながら服の埃を落としている。その間に収納から縄を取り出しがんじがらめにしておく。両腕を後ろでがっちり固定しそのまま足を折りたたみ足も固定。こうしとけばしばらく動けないだろう。
「シオリ、よくわからんがかばってくれてありがとう。そこはお礼言っておく」
「そうね……間に合って良かったわ。あれをアオノ君が食らっていたら大変だったから」
どういうことだよ。
「どういうことって……私が何のためにここに来たと思ってんのよ」
「俺に喧嘩売りに来たんじゃないのか?」
俺がこの街に関わるとロクな事にならない。そして戦争が激化して街が大変なことになるとか言っていたけどそれを止めるために来たんじゃ? 俺に喧嘩売ってこの街から遠ざけるのが目的だって言ってたよな。
「そうその通り。私がここに来たのはあんたを止めるため。そしてそのトリガーになるのがさっきの攻撃ってわけ。あれを食らうとね……」
「こうなるんですよ」
「は?」
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