第304話 質問から入ろうか

「ストップストップ! ねぇアオノ君止めてよ!?」


 ついにシオリは動き回る元気がなくなって来たのか急所だけ守りながら俺に助けを求めてきた。クロエはシオリの動きに合わせて弾幕を調整しているようで、今の弾幕は当てるもの以外はそこまで魔力が込められていない。


 無理やり突っ込めば突破出来るとは思うが、だからこそ罠が待っていると見ていいだろう。相手がやけになった時と、勝利を確信した時、そこを叩き潰すのがクロエはきっと好きだろう。


 だがシオリはクロエの攻撃に心折られていた。反撃する意志が全く見えない。せっかくクロエが逃げ場を残しているのにそこに行く気すらない。どうせならちょっとあがいてやられてほしい。


「ねぇ聞いてる!? 聞こえてる!?」


「え? なんだって?」


「アオノてめええええええええ!!」


 なんかシオリが思ったより戦いに積極的じゃないので煽ってみたらとても元気に返事が来た。うんうん、女の子は元気がいちばんだからね、よかったよかった。


 しかしシオリはそれでも動こうとはしなかった。このままだとシオリが何故ここに来たのかよくわからないまま気絶するまでクロエがなぶってしまうだろう。そうするとシオリを担いでここを出なくてはならない。それは面倒だと思ったのでクロエに声をかける。


「クロエ、シオリと話がしたいから一旦攻撃とめてもらっていいか?」


「もうちょっと楽しませてくれてもいいじゃない。新しい魔法の試し打ちって大事なのよ?」


 だめだこの子普通に楽しんでるわ。試し打ちの範疇も余裕で超えてるしなんだったら試し打ちしたからこその魔法の完成度まである。


「いやほら、このまま生け捕りにして連れ帰ってからイリスと一緒にやれば良いんじゃないか?」


「いいえ? 私が楽しんだ後イリスと一緒にまた楽しめばいいじゃない?」


 俺が提案するとクロエは即答してきた。自分が楽しんだ後に二人で楽しむ……いやこれはたぶんイリスにも遊ばせたあとさらに二人で遊ぶパターンかもしれない。


 じゃあいいか。


「それもそうだな。シオリー、そのままでいいから話聞いてくれー」


「いいわけあるか! こっちの状況ほんとに見えてるの!? アオノ君そんな人だったっけ!?」


 俺は元からクロエの味方です。クロエがやりたいというなら全て肯定しよう。それに今クロエを止めて不完全燃焼でイリスと一緒にしたら絶対もっとひどいことになるからな? どっちかというと俺は優しい行動をしているよ?


 ……アトラクションのダンジョンで起きた出来事だけは忘れねぇ。


 他にも敵対行動取らないという保証もないしな。服剥いてバインドでとらえればいいって話もあるにはあるがそれは絵面がやばいので却下で。すでにかなりひどい絵面ではあるが。


「ちょ、ほんとに、やめ」


「あ」


 ボゴンといい音がしたと思ったらシオリが倒れたまま動かなくなった。下からえぐるように打ち上げられた玉が顎にあたり、ふらついたところに側頭部ヒットは普通に死ねる。生きてるか?


「……クロエ?」


「大丈夫、ちょっと当たり所が良かっただけで気絶しただけよ。キミヒト、縄だして。ヒール。ウォータ。……グーでいいかしら」


 気絶したシオリを流れるように縄で縛りあげてヒールをかけるが魔法服に寄りカット。しかしクロエさん、縛るの慣れ過ぎてやしませんか。そして頭に水をぶっかけるがこれも当然弾かれる。


 クロエは仕方なくシオリを壁に押し付けて顔面にグーを振りかぶる。しかしまたやりすぎるんじゃないかと思ったのかビンタに変更してもらった。ヤンキーすぎるよ。


「お兄ちゃん、迷える小悪魔が怖いです」


「安心しろ。俺も怖い」


 相当うっぷんが溜まっていたんだろうな。でもぶっちゃけシオリは俺の中で要注意人物の一人だからこのくらい強めにマウントを取って置いた方が良いんじゃないかって思ってる。


 強制的にまた世界戻されたりなんかしたら目も当てられない。しかしシオリの目的はあくまで世界を救うというのが一番だ。だからクロエとイリスがここまで強くなったのが分かれば充分すぎる結果だろう。


 他の勇者も誰も呪いにかかっていないし、シオリが体験したループの中では今回が一番いいはず。多少無茶やっても許してくれるだろう。


「う、うぅ……」


「起きたか。さて質問から入ろうか」


 クロエのビンタで顔をちょっと腫らしながらこっちを恨めしそうに見ている。もしこっちが男だけだったらかなりの事案だが、こっちに幼女がいる以上ぱっと見はシオリが何かしら悪い事したっぽく見えるだろう。


 実際はこっちが明らかにやばいが気にしないこととする。


「シオリ、記憶が戻ったなら俺達が強くなったことも分かっただろう? なんでここに来たんだ?」


 まずは確認。俺とあかねによって勇者達は全員無事、戦力に関しては今回のループが一番出来が良いのはシオリもわかっているだろう。それなのに何故ここに来て俺を止めようとしたのか。 


「アオノ君がこの街に関わるとロクなことにならないからだよ!」


「……」


 確かに今ロクな事になってないな、うん。


「この街は、内側と外側で変な戦争起こしてるでしょう? ループの内の何回かでアオノ君がこの街に来た時は決まって街が滅ぶまでいらない戦争がおきたりするの。そのせいで勇者が駆り出されて戦力が減るの! だから止めるために色々してたのに今回はすぐここに向かうから急いで来たんだよ!」


 うーん、ぐぅの音もでねぇ正論だ。


 俺が今からやろうとしていることはまさにそれに等しい行為かもしれない。この場所を壊せば間違いなく大きな騒動になる。どんな権力構造してるのかは全くわからないが、中枢っぽい場所を破壊してただで済むわけがない。


「そもそもなんでアオノ君はここにもう来てるの! ここに寄るのなんてかなり低い確率なのに……」


 俺がやりたいことは街を壊す事じゃなくて女神様の力を解き放つことだ。他の俺がここに来たのは偶然かもしれないが、今の俺には明確な目標がある。そらもう一直線で向かうほどに。


「ねぇあんた。もしかしてここ開けられるんじゃないの?」


 俺がどうしようか迷っているとクロエがシオリに声をかけた。ここを開けられるのかとは、扉っぽい所だろう。俺の虚偽のスキルで開けようとしていたが確かにシオリの魔法無効化なら……。


「出来るのか?」


「出来ると思うけど……。何する気?」


「お前が協力しなければここで全てを破壊する」


「流石アオノ君だぁ……。わかった、どうせ何言っても意味はない事は分かってる。じゃあ早くこの縄を……って、え、ちょっとまってひきずらないで!?」


 クロエはシオリを引きずっていき扉っぽい所に押し当てた。

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