第301話 後輩女神視点

「ふぅ~、なんとか威厳を保てましたね」


「そうでしょうか」


 今回大女神様にバレて先輩が人間としても生きられなくなるという話を聞いて非常にまずいと思っていたが事なきを得て良かった。それもこれもあの人間のおかげだ。


 いやそもそも先輩が人間に堕ちたのもあの人間のせいだからおかげというのも変な話か。それでも先輩が幸せそうにしているならおかげでいいかもしれない。面白いけどいつもやる気のない先輩が何かのために頑張ってる姿は端的に言って萌えた。


 その姿を見せてもらえたという点であの人間には感謝しておこう。


「それにしてもあの子がここまで成長しているのは嬉しく思います」


「そうですね」


 私はもう階級を上げられない罰を受けているのと、なんだかんだ信用されているためか先輩を見逃した経緯を聞くことが出来た。正直先輩はもう助からないんだと最低最悪の気分だったけど流石先輩、運は良いようだ。


 どうやら罰として人間に変えられ人間界に行かされるのはよくある話で、しかし実際は罰そのものよりも、その中で女神としてどれだけ慕われているのかを確認するのが目的らしい。


 記憶を改竄しているし本来どっちにも記憶が無いというのにどうやって慕われているかの確認をするのかは謎だが、女神の力が強いとどちらかの記憶が残っている場合があるらしい。


 いわゆる運命の出会いというやつだ。私にはよくわからないが。


「あの子は元々素質はあったので記憶が残ってるのはあり得ましたが、人間の方には驚かされましたね」


「そうですか」


 人間はどんなに信者をやっていても人間の姿に変わった女神を認識することはあり得ない、だそうだ。人間界に降りた女神が自分から伝えて、神託のような物を行って初めて認識できるようになるらしい。


 めんどくさすぎるシステムだと思った。


 大女神様が言うには、先輩が記憶を残して降りられたのは女神の力を回収したから、と先輩は考えているようだがそれは違うという。そもそも記憶を消されるのは私達女神のいるところで行われる。


 その後人間の世界に行ったところで記憶が無ければ力を回収なんて出来ない。だから先輩は第一条件はクリアしていた、と聞かされた。


 実際は先輩が人間界に堕ちる時に私が先輩の力を隠して渡したんだけどそこは黙っておこう。やらなくても記憶が残ったのかもしれないし。素質があるというくらいだし残ったと思おう。


「あのぐらいの信者をいっぱい作ってくれればこの世界も安泰なんですけどね」


「そうですね」


 それには完全に同意……したいところだがあれは行き過ぎなんじゃないだろうか。あいつの信仰心は常軌を逸している。先輩のためなら命すらも賭けることができるんじゃないかと思わせる。人間はそこまで強い想いを持てるのだろうか。


 私も結構な数の人間を対応してきたが、感謝はその場のちょっとした時間だけ。転生させたら私の事は忘れてあとはひたすらに好き勝手に生きているのがほとんどだ。たまに信心深い人もいるが、私ではなく神全体を信仰している感じだ。


 あんな個人に向けた信仰は狂っている。そう考えてしまう。それだけにあれがいっぱいいたらと思うと恐怖しかない。


 大女神様はあれを大量に生み出したいと考えているようだが実質不可能だろう。この大女神様にはカリスマがある、そして人間はそのカリスマによって感謝をしているが命を懸ける形が違う気がする。


 大女神様を祀る宗教団体として成り立ってしまうと人間の中に教祖が生まれ、その教祖に付き従うからだ。そして教祖のために命をかけたとしても、それは結局自分が救われるために命を懸けているに過ぎず、それは大女神様のためのものではない。


 人間が宗教にはまるのなんて自分が救われたいと思っているからだ。それ以外の感情は全て後付けだ。人間が求めているのは神ではない、救いなのだ。


「人間なんてハンマーで指の数本潰せば簡単に宗旨替えしちゃいますからねぇ」


「そうですね……え?」


「お、やっとちゃんと返事してくれましたね」


「いや、そりゃ、しますけども。え、やったんですか?」


「ここまで来るのに苦労しましたからねぇ」


 ひたすらに不安を煽って最終的に救済する。それが世界を管理する我々の役目だ。そうすることにより感謝され女神たちは力を蓄え、その力を人間に与えてさらに感謝され、と循環させる。そうすることで世界は保たれる。


 魔物や魔王等も言ってしまえば私たちの管轄である。厳密には違うしこれを知っている女神はかなり少数らしいが。おかげで私は大女神様の監視付きになった。この監視付きではもう先輩に気軽に会いに行く事は出来ないだろう。悲しい。


 一応最低限のバックアップは出来たし、ある意味ではあの人間も頼りになる。大丈夫だと思う事にする。ある意味では大丈夫ではないが。


 世界の仕組みは簡単にいってしまえば放牧だ。監視のみの。そこで私たちのエネルギーとなる信仰が生み出されればあとは何をしてても良いというものだ。その信仰を生み出すためには色々しなくてはならないが、人間は本能的に救いを求めるのでそう難しいことではない。


 私も自分の担当している世界に耳をすませれば救いを求める声なんていくらでも聞こえる。ちょっと声をかけてやれば感謝はされる。それを何度も何度も繰り返し続け私たちは成長を続けていく。


 そのため先輩のように急激にランクを上げる女神というのはかなり異質。その信者がたった一人というのはさらに異質。まともではない。


 先輩にどうやってあんな人間を作り出したのか聞いたら、お昼寝に誘ったら仲良くなった、だ。


 意味がわからない。


「ま、これであの子も幸せになれば問題ありませんね」


「あの刺客はどうするんですか」


「もうこちらの声を届けられませんし、どうとでもなるでしょう?」


 大女神様は簡単に言ってのけるがそこまで割り切った行動を彼らがするだろうか? いや、私にとってもどうでもいい話だな。彼らならうまくやるだろう。そのためにも先輩に力を渡してきたわけだし。


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