第300話 なんだこの質問

「さて、ちょっと話がそれてしまいましたがあなたの話でしたね。の前に人間」


 そう言って大女神さまは俺に視線を向ける。その視線はやや厳しく、先ほど後輩女神に向けていたようなちょっとした優しさはほとんど感じられなかった。なんというかミスが許されない仕事やってるときの真剣さが感じられるようなそんな感じ。


 決して嫌な感じはしないが近寄りがたい、そんな気配。神々しさも相まってやっぱりこの人は同じ世界に生きていないのだろうと感じさせる違和感がある。


「なんだ?」


 めぐをかばった体勢のまま大女神をにらむように見る。本来であれば敬語を使うような相手だが、めぐに手を出そうとしていた人物に敬語を使おうとは思わない。たとえ相手がかなりの格上だろうと俺は強気で行く。


 弱気で大好きな人を守れるわけがない。マウントを取るべく自分に気合を入れる意味もある。もし敬語で接すれば、めぐ信仰の強い俺でさえも折れてしまいそうな強い神気を感じさせる。


「あなたはその子が元女神だって知ってるんですか」


 何を言ってるんだ?


「もちろん知ってるが、それがなんだ?」


「それはその子から聞いたからですか?」


「この方は俺の女神様だ。本人から言われる前に気付くし隠されたとしてもわかるわ」


 なんだこの質問。


「それは本当ですか?」


 今度は俺ではなくめぐに向けて質問を飛ばす。大女神様はさっきまで俺に向けていたのとは別種の真剣な表情で聞いている。そこに見えるのは純粋な疑問、そしてちょっと嬉しさのようなものが見え隠れしている。端的に言うとたまに若干にやにやしてる。


 感情隠すの下手だよなこの女神たち。なんで信仰心集めるの下手なんだろ。


「ほ、本当です。確かに私から声をかけましたがすぐわかってくれました! ね、お兄ちゃん!」


「あぁ。姿形が変わってたけど一発でわかったな」


 教会でお祈りしたとき声をかけてきたのはめぐのほうだった。あかねはその時めぐの事を疑っていたが俺は何も思わず普通にあの疲れた顔の女神様だと認識できた。信仰心の強さを肯定された気がして嬉しかったけど、この大女神様の質問からして何か変なのだろうか?


 そういやめぐも俺の対応に戸惑ってたな。普通はあかねみたいな反応になるとか言ってた気がするけど信者なめんなと。この世界初の狂信者は俺の事だぞと。聖女よりも祈り捧げてるんだぞと。


「なるほど……そういうことでしたか」


「お、大女神様?」


 大女神は俺とクロエにかけていた束縛を解いた。おかげで完全に自由を取り戻したが一体どういうことなのだろう。後輩女神もめぐも疑問に思ったようで困惑している。当然俺も困惑しているが、動けるようになったクロエが隣に来てくれたのが非常に頼もしいので気を持ち直す。


 俺と一緒に最後まで戦うという強い意志を感じて嬉しくなる。俺の信仰心はこのロリ達に全て捧げる所存である。


「どうやら、ここに来たのはあまり意味のない行為だったようですね」


「お、大女神様!?」


 後輩女神が同じ言葉をリピートする。俺もその言葉を発したいところだがその意味について考えていきたい。雰囲気がだいぶ和らいだところを見るとこの大女神、めぐに対する教育とやらをやる必要が無くなったと見れる。


 だけど油断したら一体何が飛んでくるかわかったものではないので緊張は解かないでおいたほうがいいだろう。


「しかしそうなるとやってしまいましたね」


「はい……」


 二人は何かを既にしていたようで、それは話の流れからするとめぐに何かをしようとしているという事がわかる。女神が出来る事といえば色々ありすぎて何をしたのかはさっぱりわからないが、これだけは言える。嫌な予感しかしない。


 しばらく二人はうーんとかどうしましょうとか話していたが中々結論が出なかった様子。気にはなったがここで俺が茶々を入れても話がややこしくなるかもしれないと黙っていた。それが失敗だった。


「でもこの人間ならなんとかなるでしょう! 帰りますか!」


「はい、逃げ帰りましょう。……流石先輩です。こちらを」


「ちょい待ておいこら」


 笑顔で天に昇っていく彼女らを言葉で止めようとしたが無駄だった。マジで何も説明しないで帰ったよあの人たち。最悪の事態を免れた、という点に関してはかなりありだったけど謎が深まるばかりなんだが?


 思わず暴言吐いたみたいな絡み方をしようとしたのも無理はないだろう。クロエもなんだか困惑顔だしめぐもやっべーみたいな顔している。身内が好き勝手やるの見てるとなんかやばいって気持ちになるよねわかる。


「……結局なんだったんだ?」


「あの感じだともう来ないのかしら? めぐ、何をもらったの?」


 先に大女神が消えた後に後輩女神はこっそりとめぐに何かを渡していた。


「ええと……なんか神気もらった……正式なやつ」


 なんだ正式のって。今までめぐが使ってた神気は不正のやつだったのかって思ったけどまじで不正のやつだったなそう言えば。他の女神たちに隠れて世界のあちこちに隠した神気なんて正式な物じゃないだろう。


 流石長年めぐの後輩をやっていただけあって、めぐが問題を起こした時にこれが必要になると踏んでいたんだろう。めぐの事分かりすぎてるな、おかげでめちゃくちゃ助かったけど。


 というか神気の受け渡し方法そんな雑で良いのかと思ったけどめぐが元気になるならそれでいい。俺はそう思う事にした。後輩女神からもらったものは一口サイズになった雪見だいふくみたいな白いお饅頭だったが若干光ってる。普通においしそう。クロエもかなり気になっている様子。


 めぐは意を決したあとそれを口に放り込んだ。

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