第299話 ちょっと厳しいお母さん
信仰心、それは心の拠り所。
弱みに付け込み高額商品を買わせることもある宗教勧誘。
ネズミ講と呼ばれるランク式の商売という名の宗教。
はたから見ると搾取されるだけの哀れな人たち。
しかし本人たちは認識がずれているため幸せを感じていることに違いはない。
何故?
信仰心を植え付けられてしまったからだ。
どうしても自分を変えたいなら自分自身で何とかしなければならないのに、どうしてか自分以外に自分を変えてもらおうとする。
そういう信仰心を植え付けられた人は永遠に搾取されていく。疑う力も失われて行く。
しかしもし、この信仰心が本物だったら?
誰からも強要されず、誰に何を言われても少しも揺るがず、狂ったように自分の信じるものを信じる、確固たる信念で信仰心を拠り所にすることが出来たなら?
自分の中の心の拠り所。それが自分自身だと、信じることが出来るのなら。
俺は何も恐れない。
「えぇ……?」
後輩女神が何か気持ちの悪いものでも見るかのような視線を俺に投げかける。その視線が俺のめぐに対する信仰心を肯定しているかのようで、より一層気持ちよくなってしまう。
大女神も俺の奇行に少し戸惑いを感じているようだ。本来束縛しているはずの人間が動いた、その力は魔法ではなく世界に働きかけるものだったのかもしれない。それを強制的に解除するなんて驚かない方が無理だろう。
そして俺の真剣な表情を見て大女神は表情を消し、より一層強い力を向けてくるが俺には効かない。クロエも動こうとしているようだが動けず。俺のめぐに対する信仰心は世界一だぜ。
「キミヒトにはほんと恐れ入るわ……」
「流石の私も改めてそう思いました」
クロエとめぐのつぶやきに、感心というよりは呆れのニュアンスが強いのは何故だろうか。俺にとってはめぐに手を出そうとする相手は人間だろうと神だろうと許せない。どんな事情があるにせよ、だ。
どんな格上だろうと今はこの熱すぎる信仰心を武器に戦うしかない。ていうかさっき俺声出せなかったのにクロエは喋れるんだな。……一瞬信仰心が負けていた……? いやクロエの事だから別の何かだろううんうん。
「……」
「私は何もしてませんよ!?」
大女神が後輩女神をにらむように見つめると後輩女神は慌てて否定した。どうやら普通の人間だと思っていた俺が異常な力を発動していると思っているようだ。実際に異常なのかもしれないが俺のめぐを想う気持ちは異常なので問題無し!
そして乗るしかない、このビックウェーブに。
「いいえ私はその方にもお世話になりました」
「ちょ!?」
大女神の視線はより一層強く後輩女神をにらむ。めぐへの当たりが弱くなるならなんでも利用するぜ。そういう気持ちを込めて大女神に言葉を投げかけた。どうやら俺の行動によって対話が可能な状態になったようだ。
「こう言っていますが?」
「大女神様!? その人間は嘘をついていますよ! 大女神様のお力で確認してください」
「残念ながら私の力が及ばなくなっているようです。ですがこの人間からは嘘の気配を感じません。普通の人間がこの域に達するには複数の女神から加護を受けないと不可能ですよ。それにどうやらあなたはこの人間達と顔見知りのようですし、状況的にはあなたが嘘をついているように見えますね。あなたが私に嘘をつけないとしても、そう見えます。どういうことでしょうね」
「それは……!」
なんか勝手に勘違いしてくれたわ。確かに大女神の言うように本来であれば人間が打ち破れるような物じゃないんだろうな。信仰心の薄いこの世界の事情じゃありえない。
そんな中で女神の力を授かった人間が微妙にいたとしても、大女神の力を打ち破るには至らないのだろう。後輩女神との力関係を見ていてもそれはわかる。にも拘わらず打ち破るなら、複数の加護をもっていると考える方が自然か。
めぐからもらってるのは確定だが、本来力を失っているめぐが加護を与えていることはおかしいと思うだろう。時間を戻したら本来無くなるみたいだが、めぐは滅茶苦茶やってスキルや記憶を引き継いだ。そしてそんなめぐを助けたこの後輩女神には間接的にだが大変お世話になった。
加護はもらっていないがめぐを助けた恩人だから敬意も払うし感謝もしている。つまり俺は本当にお世話になったと思っている。後輩女神は俺のその辺の感情をあまりわかっていなかったようだな。
……恩を仇で返して本当にすみません。人間堕ちしたら一生貢ぐので許してください。敬意も払うし感謝もしているとはなんだったのかって感じだが、それはそれ、これはこれだ。
ってか大女神で呼び方合ってたのか。女神の上にいて大きい女神だからそう呼んだけどそれでいいのか。
後輩女神はしどろもどろになりながらもなんとか活路を見出そうと自分の無実を訴えている。大女神に対して嘘がつけないため、大女神は後輩女神の訴えをしっかり聞いている。
そしてその訴えは一言で玉砕する。
「でもあなたはこの子に力を貸したんですよね?」
「……うぐぅ。はい貸しました」
論破。どんまい後輩女神。嘘ついてもばれるもんね。
「……まぁいいでしょう。あなたはよくやっていましたし、この子が強引にあなたを味方に引きずり込んだのでしょう。その罰は降格という形で既に受けているということにしておきます。いいですね?」
「はい、ありがとうございます……」
なんかちょっと厳しいお母さんとか先生みたいな感じに見えてきたな。
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