第290話 仕方ないとは

 シオリがいるというのならやることが増えてしまうな。流石に本当に宗教に目覚めたとは思えないし、それなら何故単独行動をし始めたのかっていう疑問もある。ヒビキからも頼むと言われたのなら様子を見るくらいはしたほうが良いだろう。


 厄介事の匂いしかしないが、一度助けた以上放置するのも目覚めが悪い。スキル的に守りに関しては大丈夫だろうが、それ以外がどうなってるかわからん。もしシオリのスキルで記憶が戻ってるとかあったら……どういう行動をとるだろうか。


 今回はシオリのスキルを無視して女神様の力で戻った、それで記憶が戻っていないって言うのならそれでいい。実際に呪い解いたのに記憶戻って無かったしな、これが一番。その代わり協調性皆無な唯我独尊キャラとして成立していまう。


 もう一つは記憶が戻るのが時限式だった場合。リーベンのおじいちゃんとやらに呪いを解いてもらった時点で記憶が戻るとか言っていたが、その時間になれば勝手に戻るならどうだろうか。


 そうした場合リーベンに行くだろうか。俺だったら、行くだろう。この世界を救うために確実に味方になることが分かっている人物なのだから。しかし、もし記憶が戻っているのだったら俺に連絡が無いのはおかしい。


 俺は呪いを解いたし、魔王軍との戦いについてみんなに話している。世界を救うという点では利害が一致しているし、何度もパラレルワールドを行っているシオリからすれば今回のループに関してはかなりの前進になっているはず。


 こう考えると記憶が戻っていないと思って良いだろうか。ただ、じゃあ何故単独行動でロックベルまで移動してきたのかという点がまるでわからない。自由気ままに魔物蔓延る世界で単独行動決めて引きこもるぜヒャッハーなんてのはあかねだけでいい。


  あとは……世界を救う動機が無くなったとか? 今までなんで世界救おうとしてたのかわからないけど、おじいちゃんとやらのために救おうとしていたならわからなくもない。中途半端に記憶戻ってる説ならそれもなくもない……か?


 わからん……が、とりあえずクロエに釘をさしておくか。


 次の日、クロエにそのことを伝えてみるとあっさりした返事が返ってきた。


「記憶がないなら仕方ないわね。魔法服の耐久性だけ突破出来るか確認させてくれれば殺しはしないわ」


「仕方ないとは」


 クロエお前それ突破したら確実に死ぬじゃねぇか。確認だけってレベルじゃねぇぞ。それって普通に戦うのと何も変わらないんじゃあないですか?


「変わるわよ。本当だったら沼式のバインドで周りを囲みつつ空気を無くして逃げられなくしてからイリスの落とし穴使って落下させた後に蜂の巣にして土砂で埋めるつもりだったんだから。それに比べたら可愛いものでしょ? ……わかったわ、全力のホーリーレイで勘弁してあげる」


 シオリの魔法服は魔法を完全に無効化してくれるスキル。……そのはずなんだけどこの世界に変わってからのクロエとイリスの魔法は留まるところをしらない。やりすぎじゃないのかと思っていたがこのためだったのか。なんにもわかってねぇ。


 やられたらやり返す、だいぶ過激な子達ですわ。こう考えるとよくシオリ無事で生きてるよな。他のパラレルワールドでやられなかったのが奇跡に思えてくるわ。スキルの防御力に自信あり過ぎだろ。


 意志が固すぎるのでシオリには頑張って耐えてもらうとしよう。もし殺ってしまってもクロエならヒール使えるし何とかなるはず。それに前の世界では片腕生やす凄腕のヒーラーもいたっぽいしな。勇者かもしれんがなんとかしてくれるはず。


「……そうだな、やるなら俺のいるところで頼むぞ? クロエなら無茶しないと思ってるから信頼してるよ? 振りじゃないからな?」


「ええ」


 これなら最悪どうにかできるだろう。ダメだったら……いやたぶん耐えるだろう。うん、シオリのスキルを過信しておこう。考えた所でまじでどうしようもない。なるようになるさははは。やっちまっても俺はクロエの味方だよ。


 現実逃避したところで街に繰り出す。俺は単独、クロエとめぐは一緒に行動という形で二手に分かれた。理由はあの二人と一緒にいると確実に目立つというのが一つ。あんな可愛いロリ連れてたら俺が俺だって吹聴してるようなもん。


 あとは、顔隠してるけど俺だとバレた時に二人にも指名手配がかからないようにするため。わざわざ指名手配されている俺と一緒に行動して危険になる必要もない。


 そう言ったら。


「キミヒト? もう指名手配されてるしやりたい放題やろうなんて考えてないわよね?」


 とありがたい言葉を頂いたので方針を変更した。流石クロエ、俺がスキル全力で街の中心まで一人で突破して隠密よろしくめぐの力を盗み出してくることを見越していた様だ。それが一番手っ取り早いやん? ここでの指名手配がどのくらいの規模になるか分からないからまじでやめろと言われれば考える余地もある。


 基本的にステルスと気配遮断さえ発動しておけばほとんど見つかる事はない。何か特殊な装置だったりスキルだったりしなければ大丈夫。ちょっと試しに特攻しますかと思っていたけどそれもめぐに止められた。


「お兄ちゃん、街中に結界張ってあるから派手に動くとばれるよ」


 めぐからもこう言われたら諦めざるを得ない。クロエだけなら丸め込んで一緒に行ってくれるかもしれないけど、めぐは一応女神様。街単位で迷惑かけるのは良しとしないだろう。今更だけども。


 というわけで単独行動しつつも人に声をかけられないようにこそこそと移動する。クロエからは、絶対にまた問題起こすから人と話すなと厳命された。ロリに命令されるのってなんでこんなテンション上がるんだろうな。


 怒られるために話したくなっちゃうじゃんね。


 でももう一回やったら流石のクロエもガチでキレそうだからやめておく。クロエの懐の広さに感謝しかない。


「ん……? あぁ、これが結界か」


 街の人と話せない以上、先に街の中がどうなっているかの確認をしていたら見えない壁にぶつかった。なんとなーく、こっちに行きたくないなっていう感覚を無視していきたくない方向に無理やり進んだらぶつかった形だ。


 人避けまでされてるのかこの結界。どんだけ真ん中に人寄せつけたくないんだよ。つまりどう考えてもこっちの先では悪いことをしている奴らがいるって証拠なわけで。


 うむ。

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