第289話 連絡

 あまり派手に動けなくなってしまったので街の中心部から離れた所の宿を使う。もちろん俺は顔を隠してごまかしている。クロエからはもう何も喋るなとちょっと強めに言ってもらえたので満足しつつ黙秘。


 どうやらロックベルは街の中心に大きい教会があり、それを囲むように街が作られたようだ。そのため真ん中に行けば行くほど権威が高かったり、金持ちが多かったりと、漫画とかでよく見る保身や金儲けに走る人が多いような形式の街だ。


 しかしみんなガチの宗教者になってるので実態はどうなってるかわからん。一番偉い人がめぐの力の源を管理してるとは思うが、まともな人間で耐えられるのかあれ。普通のスケルトン変異させるレベルのものだぞ。俺は愛の力で無事だが。


「とりあえず明日は街をもうちょっと調べてみるか。動きづらくなったから思ったよりも時間かかりそうだしな」


「キミヒト、反省してないわよね」


「女神様を侮辱されて言い返しただけだから反省する必要はないんだよクロエ。俺が謝ったのは二人に迷惑をかけたからであって、行動に関する謝罪は一切する気はない」


 眼力を込めて言うとクロエはジト目をくれたので良し。めぐはちょっと照れてるかわいい。俺が言うのも何なんだけど、めぐも相当毒されてきているような気がするよな。いや、俺が女神様時代のめぐに毒されたと考えても良い。


 お互いに影響し合えて尊敬出来る相手がいるって、それだけで幸せな事だよね。本意かどうかは置いておく。


「ねぇめぐ、ここに女神の力があるのは確定として、どこにあるかわかるの?」


「うーん、近づいたのは確かなんですが、詳細までわかりませんね。やっぱり封印されているのでしょうか……」


 ある場所が分からないならやっぱり中心が怪しいよな。怪しくなくてもめぐの力だ、さぞ神々しさに満ち溢れていることだろう。中心地にいるであろうこの街のトップを引きずり出せば所在はわかるはずだ。


 しかし月の女神を信仰している邪教徒のくせにめぐの力を使ってるのまじ許せんな。今の信仰心の高まりはめぐの力によるものなんだからめぐを信仰しろマジで。この力を月の女神の力とかほざいたら改宗するまで殴り続ける。月の女神は黙ってないで訂正しろ。


 と思ったところで気付いた。というか邪教徒に対してばっかり気が行っていたから気付かなかった。となればすぐに聞いてみよう。


「そういえばめぐと月の女神って知り合いなのか?」


「知ってるかもしれませんし知らないかもしれません。そもそも私たちはある一定まで格を上げないと名前を授かれませんので。その中に月の女神はいません。たぶん人間が呼びやすいように勝手につけたのだと思います。私もありませんでしたし」


 なるほど。確かに信仰対象に名前がないって言うのも少し不便か。俺の言う女神様はめぐ一人だから間違いようがないから良いけど、普通なら女神様って言ったら複数いるのか。


 後輩女神? ああめぐの下僕な。


 となるとやっぱり街の中心地に向かう方法を探す必要があるよな。すぐ行けるならすぐ行くが、真ん中の方が貴族街だとすると絶対普通に入れない。最悪の場合は強行突破するけど。


 二度と来ようとは思わないから好き放題やっていいだろうという心意気。これが勇者の行いかって感じだけど俺は勇者じゃなく女神様信者だからこの街見逃してやるだけでありがたく思ってほしい。めぐを侮辱する奴は生かしておけん。


 勇者さえ出てこなければ大概の人間は俺一人でもやれるよ。


 と思った時脳内に着信音が鳴り響く。


「あ、やべ、忘れてた」


「どうしたの?」


 そういえば定期的に勇者達と連絡取り合おうとか話し合いしてたのに完全に忘れてた。いや別に忘れてたから困るとかそういうのはないけど、みんな探すの夢中だったしヒビキから連絡くるから気にしてなかった。


 みんな何してるのか急に気になって来たな。緊急事態じゃないならいいけど。


「俺達召喚された勇者達で連絡取り合おうって話があってさ、その連絡が今来た。ちょっと出るわ。もしもし」


『もしもし、ヒビキだ。そっちはリーダーで間違いなさそうだな』


 どうやらヒビキからの連絡は普通に定期連絡で、俺に最初にかけたとのこと。全員一気にかけるんじゃなく、分かりやすく最初に俺にかけてから確認するらしい。ヒビキのパーティは特に問題なく例の湖に到着し、無事に水の精霊に逃げられたらしい。めちゃくちゃ急いで向かったんだな。


 そして今はどこに逃げたかわからないから探すついでにみんなで旅行気分を味わっているらしい。冒険者だから適当に日銭を稼ぎながら出来るのと、男だけだから好き放題やってるみたい。それはそれで楽しそうだな。


『リーダーの方はどうなんだ?』


「あぁ、こっちは一応全員見つけられたよ。ちょっと色々あって別行動してるけど問題無しだ。ぶっちゃけ戦力過多具合で言えば俺の所も相当だと思うよ」


『そうか、それならよかった。それじゃ他の連中にも声かけてくる。水の精霊ちゃんの居場所がわかったら教えてくれ』


 そういってヒビキからの連絡は途切れた。うん、たぶん水のダンジョンに避難してると思うよ。次の連絡が来た時にでも教えてやればいいかな。もう少しみんなでそっちの大陸の調査を頼みたいのもあるし。


 魔族のいる島に一番近い所にいるヒビキの所なら、何か異常があればすぐにわかるはず。ショウも一緒にいるから万が一って事もそうそう起きないだろう。呪いの影響下に無い勇者たちの全力は俺にもわからん。


「というわけで終わったぞ」


「……便利なスキルね。魔法で再現できないかしら。距離無制限の通信機……上手くやればマーキングした場所の音を拾い続けるなんてことも出来そうね……場所だけでなく人でも……」


 クロエが魔法の応用技術について意識が飛んでしまったので会議はお開きになった。特にこれ以上話す事もないから問題なかったけど、クロエなんかやばい事言ってた気がするな。この世界に盗聴という犯罪はないからやりたい放題かもしれん。聞かなかった事にしておく。


 さて寝るか、と思ったところでヒビキからもう一度通信が入る。何だ?


『二回も済まないな。どうやらユウキのパーティにいたシオリは別行動しているらしい。宗教に興味があるって事で気づいたら一人で行ってしまったからユウキから謝っておいてくれって言われたよ。今リーダーもロックベルにいるよな? 着信音はあるから無事なのはわかるんだけど出ないんだ、見つけたら気にかけてやってくれ』


「お、おう」


 まずいわ。そういえばクロエとイリスはシオリに対して殺意に近い感情を持っている。もしもクロエに見つかったらシオリ死ぬやもしれん。なんだかんだバトルジャンキーな姉妹の事、例え前世だとしても戦って殺るとか言い出しかねない。

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