第291話 同好
「動くな!」
結界を触ってみたり近くに何かないかを探っていると兵隊さんっぽい人に見つかった。恰好としては一般人のように見えなくもないが、その佇まいと持っている剣が特徴的だった。なんか宗教っぽいマーク入ってるものその剣。
俺は今ちゃんとスキルを発動しているというのに見つかった。すげえなこの人。しかし抜刀もしていないし一触即発、という空気でもなくなんか困惑しているような空気を感じる。何?
「お前、冒険者か?」
「そうだけど」
「顔を見せろ」
やべぇ。俺指名手配中だから流石に一瞬でばれるし、何故か隙のない目でこちらをうかがっているこの兵士から逃げるのは難しい。そもそもステルスと気配遮断使ってる俺を見つけるとか凄腕だよね。
姿が見えないはずの俺に対して視線をそらさず見つめてくるってなんか新鮮だわ。この人がいれば魔物とか侵入してきてもほとんど撃退できるだろうな。俺を見つけられるなら隠れて侵入とか出来ないだろうし。結界のせいかもしれんけど。
「……わかった」
逃げることは出来るだろうが、ちょっと話が通じそうな感じがしたので大人しくスキルをオフにしてフードを取る。というか大人しくしなかった場合この兵隊さんは間違いなく俺を追跡してくる。
撒く自信はあるが、この街でさらに動きづらくなることは間違いないだろう。問題起こすなと言われて問題起こして帰ったらクロエから怒られることは自明の理。なんだったら溜息疲れて無視されるまである。ありかもしれん。
「お前は外側の……ふむ。なぁ、お前は月の女神様の教徒じゃないんだよな? お前の女神様とやらはどんな姿なんだ?」
「そうだな……俺が初めて出会ったのは忘れもしない……」
「馴れ初めや出会いを語りたいのは非常に良くわかる。が、今はその女神様の容姿の話をしている。答えろ」
え、何怖い。急に殺気立ってるんですけど。しかもこの殺気、スキルの力が上乗せされてる。嘘やごまかしをした場合確実に殺しにくるだろうという確信が持てるほどの迫力を感じる。
一対一じゃまずやられることは無いだろうけど、ここまでの殺気を出すならもし逃げたりしたらクロエとめぐにも迷惑がかかりそうだ。あの二人なら返り討ちにできそうだけど。だが、ここは正直に答えよう。戦闘になるならここで俺がやるべきだ。
この人は絶対に勇者クラス。二度の転生でステータスがん盛りの俺ですら戦いを避けたいと思うほどの威圧感。ここで戦いもし勝てたなら、俺は大きく成長できる気がする。
「俺の女神様は、スレンダーなロリだ。見目麗しく小さいが、大人っぽさも兼ね備えているパーフェクトヴィーナスだ」
「ならばよし」
何が?
殺気を完全に消し去り大きく息を吐いている。どうやら緊張状態にあったのはあっちも同じようだ。確かに俺は得体のしれない人物だし、治安を守る側ならめちゃくちゃ警戒して当然だろう。
全く持って治安を守るって感じの問いじゃないし、それに対する俺の答えで満足してるの何かしらおかしいだろ。俺の覚悟を返せよ。
「お前はこの先に行く権利がある。殺気を向けてすまなかったな。それにしてもその隠密のスキルはどうなってるんだ? 気配もうっすらとしか感じられないし姿は全然見えないが」
権利? いや何言ってるのこの人。この街の中心に向かうには何かしら月の女神に対してお布施とかそういうのしないといけないんじゃないの? この人にそんな権限があったとしてもそんな簡単に決めていいの?
……いや違う、めぐの素晴らしさをあの少しのやり取りで感じ取ったとしたら? 権限を持っているからこそ柔軟な対応をしたと言う可能性は? 俺の言葉が本気だとしっかり伝わって、こいつも同じ趣味なら? 数多の宗教観に対して柔軟な対応が出来る男だとしたら?
この男、出来る。俺の気配を感じ取れるという意味でも。
「俺、一応指名手配されてるけど」
「あぁ、外側の街と内側の街ではそもそもが違う。中に入ればそこまで気にしなくていい。だが月の女神様を崇めているという点では一緒だから人によっては何か言ってくるだろう」
「……?」
全然わからん。同じ神を崇めているのに違う? 外側と内側というのは結界の中と外ということで納得しても、崇めている神が違う俺に対する扱いが違うと言うのはよくわからん。
異教徒である俺を裁こうとしている外側、特に気にしないと言う内側。容姿に関してだけまじな問答。俺の答えによっては戦闘を辞さない構えを見せる謎の強気。
この兵隊さんの実力は勇者に匹敵しそうなほど洗練されているにも関わらず、何故かおとがめなしになり俺に対してややフレンドリー。どうなっとんねん。
「そうか、この街の事を何も知らないで来たのか。良いだろう、同好の士として教えてやろう」
情報収集も今の俺の活動の一環だったので非常に助かる。さらにはこの街の中心に関してかなり関わりがありそうな人物から直接聞けると言うのはかなりありがたい。実力もあるからもしかしたら特殊な部隊かもしれないけど。
それにしてもこの街は内側と外側で別れているのはなぜなのだろうか。宗教国家と勝手に思っていたけど、内側は緩いのだろうか? 普通は内側がかなり信者率高くて外側は冒険者向けに一般の人が多いとかならわかるけど……。
なんにせよ教えてくれると言うのならばここでしっかりと聞いておこう。そして帰ったらクロエにドヤ顔しながら話して褒めてもらおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます