第279話 なにこれラブコメ?

「なあめぐ聞いてくれよ、みんなが俺の事スルーするんだよ」


 みんないなくなってしまった一室で寝たきりのめぐに話しかける。食事が終わった後一夜明けてみんな本当に行ってしまった。街に残った俺はひたすらにめぐの世話を焼くことにした。


 寝苦しそうなら煽いであげたり濡らしたタオルをおでこに乗せたりとかそのくらいだけども。浄化が使えるから体を拭いてあげる必要もないのでほんとこの魔法いまだけ世界から無くならないかな。


「……心配してくれてるのはわかるんだけどな」


 俺が無茶をやらかしたのはみんなに伝わったので一旦休ませようとしているんだと思う。めぐとデートしたというのにイリスもフラフィーも何も言ってこなかったのがいい証拠だ。


 相当なダメージを受けたし正直不屈が無かったら今も起きてられなかったかもしれない。二度の転生で頑丈になったとはいっても限度がある。それがみんなにはわかったから、めぐの看病という名目で置いて行かれたのだろう。


「とりあえず今日は俺も一緒にゆっくりやすむよ」


 部屋にあるベッドを引きずりめぐのベッドとくっつける。流石に同じベッドで寝るのは恐れ多いのでこうしてすぐ行動できるようにしておく。本当は腕枕とかして寝顔がん見してたいけど何か言われたときの言い訳は必要だ。


 なのでベッドを近づけて合法的に近くから見られるようにしておく。これなら不慮の事故でベッドに潜り込んでも言い訳が出来るからな。寝相が悪くてさーみたいな。完璧だろ。


「しっかしこんなに女神様してるのになんでみんな信じ切れてないんだろうな」


 みんな俺が女神様だって言ってるのに若干信じてない風に見える。納得はしてるし認めてはいるけどなんか拒んでる感じ。なんでや。本能で何か回避してるとかそんな感じだろうか? 嫉妬か? 神に対して? 立場が違いすぎるんだよな。


 あかねも同じような反応だったからこの世界が原因ってわけでもないはずだ。なんだろ、みんな信仰心足りてないんじゃないの?


「俺はこんなにめぐの事愛してるのになー」


 横になって手を伸ばせば簡単に頬に触れられる。ぷにぷにと柔らかい感触に幸せを感じずにはいられない。美しい女神様がこんなに可愛らしく変わってしまった程度でわからなくなるなんてな。


 女神様を信仰しきれてないという点だけはみんなに不満を感じる。まるで怪しい宗教にはまってしまったみたいな感じだけど、実際に崇める神が目の前にいるから怪しい宗教ではない。まじの宗教なだけだ。


「みんなもめぐの事愛してくれれば神気もすぐ回復しそうなもんだけど」


 俺の信仰心があるからめぐは神気が無くならないし回復すると言っていた。それなら俺と同じくらいみんながめぐを信仰すれば……って思うけどそれは無理か。俺と同じくらい信仰したらそれはそれで俺が嫉妬で狂いそうだわ。


 俺未満の信仰心で頼むわ。


「……ごめんなめぐ」


 こんなこと言ってるけど正直俺がもっと強ければめぐは今寝てないで元気なはずなんだよな。俺のせいで魔力も神気も全て使い切ってこうやって眠りについてる。めぐはきっと俺のせいじゃなくて俺のためにって言ってくれるだろうけどそれはそれ、これはこれだ。みんなが信仰すれば回復してくれるなんて本気で思っているわけじゃない。


 俺がもっとしっかりしてればよかったんだよ。クロエが来てくれたから何とかなったけど次があったらどうなるかわからない。俺ももっと力を求めなくちゃいけない。みんなよりも強く。


「頼むぜ、スキル確認」


 俺はめぐの安らかな寝顔を見ながら決意を固める。今まで切羽詰っていなかったからスキルがゴミみたいなものしかなかった。今更初級の魔法とかを覚えても仕方なかったからスルーしてきた。


 スキルを覚えるための経験値はもう充分以上にたまっている。これを、めぐを守れるくらいに強くなるために使う。ひたすらに強く強く願う。勝てなくてもいい、ただ守る力が欲しいと。


<<投資しますか?>>


 は?


<<投資しますか?>>


 幻聴じゃないな。これ、あれだ、ダンジョンクリアした時に聴こえるやつ。若干違うような気がしないでもないが何で今? 何を投資するんだ? スキルポイントか?


<<投資しますか?>>


 ノイズが入る。頭痛もする。なんだこれ、ここではいと答えると何かしらやばいことが起きるのが直感的にわかる。何か、自分じゃない何かに意識を持っていかれるような……でも全部委ねてしまいたくなるような気持ちよさそうな感覚……。


<<投資しますか?>>


 だんだん頭痛が快感に変わってきて俺ははいと応え……。


「お兄ちゃん、だめ」


 めぐの声で現実に引き戻される。


「……なんだ、今の」


 いつの間にか知らない景色にいた俺は周りを見回して宿屋にいることを確認する。目の前には体を半分起こして俺の目をじっと見つめるめぐ。ベッドの上で俺を覗き込む可愛らしい顔にまだ夢の中かと思ってしまう。


「お兄ちゃん、今のは、だめだよ」


「そっか。心配かけたみたいだな」


 よくわからないがあの声は聴いちゃいけないらしい。めぐが言うならそうなのだろう。今にも泣きそうな顔をして俺の胸に顔をうずめてくる。愛おしさしか感じないしめちゃくちゃ心配をかけたらしい。そして助けてくれたみたいだ。


 今まで心配してたのは俺なのにどっちが看病されてるんだがわかりゃしないな。今までスキル取ろうとしたときにあの声は聞こえなかった。ダンジョンクリアの時に事務的に聴こえてただけで、確かに違和感はあった。


 なにか誘われるようなひどい違和感。明かりに群がる蛾になった気分だった。


「ありがとな、めぐ」


「ううん、戻ってきてくれたから、いい」


「体調は大丈夫か?」


「大丈夫じゃない。疲れた」


「俺のために起きてくれたのか。ありがとう。寝てていいぞ、何かしてほしい事とかあるか?」


 どうやらめぐは俺の異変に気づき無理やり起きたらしい。女神様として俺を助けてくれたって考えるとかなりの異常事態だったことが考えられる。すっきりしない頭で考えてもわからないな。あとで考えよう。


 めぐと一緒に体を起こして水を渡す。めぐは丸一日寝ていたし食事も頼もうと思って立ち上がろうとしたら服をつかまれた。


「もうちょっと、このまま」


「お、おう」


 壁やベッドの背もたれではなくあえて俺に寄りかかりながら水をこくこくと飲むめぐが非常に可愛らしい。なにこれラブコメ? 大歓迎なんだけど。水を飲むめぐをしばらく眺めているだけで幸せを感じるよ。


 幼女がカップを両手で持ってるの見ると本当にどうにかなりそうなくらい愛しさ溢れる。幼女に小物は似合いすぎるから色々持たせて写真におさめたいです。


「ね、お兄ちゃん」


「ん?」


 水を飲み終わってからも考え事をしているめぐを眺めていたら何か決心したように声をかけてくる。決心していながらもどこか言いづらそうでちょっとだけ顔が赤くなっている。まるでこれから告白するかのよう。


 まじでラブコメみたいで興奮するんだけどどうしよう。フラグ立てたっけ。


「あの、さ。神気、回復する、方法が、あるんだけど……」


「おお! 本当か! なんでもします!」


 まじか。めちゃくちゃ嬉しいわ。でもなんでそんなカタコトなのか気になる。凄い難しい方法だとしても俺にできる事なら何でもしたい。めぐのためなら死ぬ寸前まで血を抜き取られたっていいぜ。血を吸うのはクロエだけど。


 めぐは顔をうつむかせもじもじしながら次の言葉を言えないでいる。待ってくれ。俺もドキドキするから本当に待ってくれ。勢いでこのドキドキを抑え込んでいるというのに焦らしプレイは死んでしまう。


「えとね……」


「あ、あぁ」


 めぐが普通の女の子に見えてきてやばい。女神様だから、崇める対象だから、命の恩人だから、人生に彩りを与えてくれた人だから、とか色々考えて手を出さないようにしてきた。けど普通の女の子だったらドストライクなんだよ。


 なんで女神様にこんなに色々刺激されるのか、もしかして神気が薄まっているからか? ってことはみんながめぐのこと女神様だと信じられないのは神気を感じ取れていなかったからか? 確かに俺は透視で見て、加護で感じてこちらからも信仰心を捧げてるから他のみんなよりは感じ取りやすい。


 そう考えるなら確かにありうる話か……? 明らかに俺の愛は信仰心と相まってめぐに非常に強く向いている。信仰心の分みんなに向けるよりもずっと。その気持ちがみんなをもやもやさせていた……とかかな。


 あかん、めぐが何も言ってくれないから変なこと考え始めてる。


「キス、してほしいの」


 めぐが何か言うから変な幻聴が聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る