第280話 真意がつかめない
「ええとごめん、聞き取れなかった」
「う、うんごめん」
めぐは俺にカップを押し付けてまた黙ってしまった。顔は赤い。たぶん俺も赤い。心臓の音がやけに聴こえてくるけど、外で探索者達が今日はどこに行くとかそういう会話は聴こえてくる。
つまり俺がいつも以上に緊張しているということ。さっきのめぐの言葉は聞き間違いだろうか? そうだよ、恋愛感情が欠落している女神様がそんなことを言うわけがない。俺の勘違いだろ。
そう思わないとやってられないが、一応聞き返してみる。
「めぐ、その、もっかい言ってもらっていいかな」
「ん……キスしてほしい」
聞き間違いじゃなかった模様。一瞬完全にフリーズしてしまったけど良く考えるんだ俺。目の前に人生で最大級に愛した女性がいる。俺に生きる意味を新しくくれて、俺のために無茶してくれて、俺もその想いに応えたいと思っている女性。
初めて出会ったときはめんどくさそうに、それから少しずつ仲良くなって打ち解けて、毎日感謝を捧げていたらいつの間にか俺の事を気にかけてくれるようになって。そして自分を犠牲にしてまで助けてくれて。
そんな女の子から、キスをねだられている。緊張で死にそう。何でびびってんだろうな。
「ど、どうしてか聞いても良いか?」
「ええっと、直接触れてる方が神気をもらえるかなって」
馬鹿か俺は。神気回復する方法があるってさっき言われたばっかりだろうが。それなのにまた女神様に説明させてしまって本当に申し訳ない。命を捧げて詫びたいところだがそれをしても誰も喜ばない。
迷惑をかけるだけだってわかってるから言わないしやらないけどなんだこの空気は。言えばよかったわ。そうすればいつもの冗談の空気で流せたかもしれないのに。というかいつもだったら言ってるのにこの空気で言い出せなかった。
甘酸っぱい空気やばい。
なんでこんなに恥ずかしいのか。
「ご、ごめん。困らせたよね。私とじゃ嫌だよね。ごめんね」
「嫌なわけじゃ……」
めぐは段々と小さい声になっていき布団に顔をうずめてしまった。なんか泣きそうな声になっていた。心が痛い。思わず手を伸ばし抱きしめそうになるがその手は止まってしまう。
俺は今何をしようとした? 崇拝する女神様に対して俺の欲望をぶつけようとしていなかったか? そんなことが許されていいのか? 良いわけがない。めぐは、女神様なんだぞ。
「おやすみ、お兄ちゃん」
「あ、あぁ」
めぐは涙声のまま布団をかぶってしまった。どうしたらいいだろうか。めぐがめぐじゃなかったら今普通に色々して何もかもすっきりする流れだとは思うが、相手はめぐだ。
まるで本当の妹に愛の告白されて泣かれてしまった兄のような心境。実際そういう設定だからあながち間違いじゃないけど全然違う。何もかもが違う。立場も、心境も、どうしたいかも。
初めてクロエとしたときは半ば襲われるみたいな感じだった。血を吸われて、その気になって、不安を打ち明けながらそのまま。みんなに薬盛った事実が純愛を打ち消した日だった。
フラフィーとしたときも同じく洗脳を解くために流れでそのままやった。色んな意味で肉体の限界を感じたのはこの時が初めてだった。そういえばそれが原因ってわけじゃないけど精力剤ゲットしたのもその後か。大変だったな。
イリスは構わな過ぎて欲求不満で襲われた。正直すまんかったとしか言いようがないけどあそこまで暴走するとは思わなかった。みんなの洋服で舞い上がってからの拉致監禁は素直におかしいと思うよ。しかしスク水は良いものだ。
あかねは……うん、あかねこそ流れでやっちゃった感あるよね。イリスといっしょだったしそのうち二人だけでというものしたほうがいいだろう。俺から言い出したらすっげー調子のりそうだな。
「あれ……? まともなの誰もいないな……?」
こう改めて考えると基本的に襲われるか流されるかどちらかしかしてないな。自分からがつがつ行かないようにはしていたけどそれにしてもひどい。初々しいやり取りとか雰囲気作りとかガッツリやったの誰もいないのでは……。
クロエがそれっぽいけど媚薬飲まされたようなもんだしな。ほとんど効かなかったから同意のうえだけども。色々話したしみんなとするときも気持ちをちゃんと通じ合わせたけど、今の状況はどれとも違う。
みんなとの関係がシナリオありの抜きエロゲーなら、めぐとの関係は純情系のギャルゲー。一線を越えてはいけない雰囲気を感じている。
ずっと家族だと思っていた子が急に恋人になりたいと言ってきて、困惑するようなこの展開。色々と汚れきってしまった俺にはまぶしすぎるし心臓が壊れそうなほどドキドキする。
だけど、たぶん、めぐの求めている事だけで済むとは到底考えられない。歯止めが効くかどうかと言われたら、何もなければたぶん効くとは思う。でも、それ以上をもしおねだりされたら絶対に耐えられん。
ちょっとだけキスして、もっととか言われたら理性焼き切れる自信がある。これ以上めぐの事を好きになってしまったらどうしたらいいんだ?
布団をかぶって動かなくなっためぐの真意がつかめない。
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