第263話 そういうとこだぞ

「ただいまー」


「戻ったわ」


 とりあえず正座させたが二人とも全く反省の色を見せないのでどうしたらいいかと悩んでいるとクロエとあかねが帰ってきた。二人はやっぱり耐性系のアクセサリーやら旅に使いそうな薬などを買ってきてくれたようだ。


 俺が結構持っているとはいえこれから旅に出るとしたら買い足さなきゃと思っていた所だ。流石嫁力高いわ。二人からそれぞれアイテムを受け取りすぐ必要なさそうなものは片っ端から収納に入れて行く。クロエの魔法以外にも一応薬は持っておいた方が良い、念のため。


 収納はもはやどこまであるのかさっぱりわからないくらいの容量になってしまったためいくらでも入る。本気出せば建物とか入らないかなまじで。持ち運びできる家とか結構楽しそう。そんなことしたら生活インフラ完全に死ぬからまじでただの建物だけども需要はありそう。


「キミヒトさーん」


「キミヒト、無視する」


 反省しない二人をほったらかしクロエとあかねを構っていると二人がついに声を上げ始めた。お前らまじで反省する気無いというか色々とやる気ないだろ。


「なあ、この二人に効果的な罰って何だと思う?」


「意義あり。こちらの言い分も聞かず罰を与える、良くない」


 イリスが至極真っ当っぽい事を言ってくる。


「ほう、森の結構な範囲を更地にしたあげく燃えたりしてた部分はルカ達のパーティが処理したりなんだりして事なきを経て、さらには街の人へ盛大な被害を出しつつクロエがいなかったら死人すら出ていたと思われ、ついでに言えばあのまま放置していたら街自体にまで被害が発展していたであろうあの戦闘行為の言い分があるのか? 聞こうじゃないの」


「……」


 俺がそう言うとフラフィーはめちゃくちゃ真顔で土下座をし始める。俺の悪影響を受けていることと、実際に不味いことをしたという意識があるからこその土下座だろう。めちゃくちゃ綺麗。慣れたもんだわ。俺みたいに土下寝までは発展しないが、そこまでしたら流石に俺も引いたかもしれない。めぐは俺の土下寝にドン引きで可愛かったよ。


 しかし一方でイリスは正座の姿勢のままこっちをじっと見つめてくる。まるで私は悪いことをしていませんというばかりに。なんかこういう確信を持った目線を飛ばされると本当に何か理由があるんじゃないかと思わされる。絶対何か変な理屈こねくりまわしてくるんだろうけど一応聞いてやるか。


「イリスは何かあるのか?」


「うん。あれは全部私が悪かった。確かにあそこまで被害を出す気はなかった。でもあれは必要な事だったし反省する必要のあることじゃあない。何故ならあれでフラフィーはずっと強くなれたはずだから」


 イリスは謝罪を入れて真面目に語り始める。フラフィーの事を巨乳と呼ばない当たりからもその真剣さはうかがえるが……イリスだからこのあと何を言い出すか全くわからない。しかもフラフィーをかばうというこの言動にも違和感を感じざるを得ない。


 なんで俺はイリスに対してこんなに警戒心を持たねばならないのか。


「いま私たちのパーティはめちゃくちゃ強い。たぶん前の世界の魔族とか余裕でぶっ殺せるくらいのスペックを持ってると思う。それは私もお姉ちゃんもキミヒトもあかねもそこの女……はおかしい。でもフラフィーだけ弱い。その弱い理由を取り除きたかった」


「イリスさん……?」


 イリスは先ほどの戦闘でフラフィーがずっと強くなれたという。そして弱い理由を取り除きたかったとも。実際に俺達が目にしたのはフラフィーがイリスの結構マジな魔法をガンガン受け流していた光景だった。


 確かにあれくらいやれれば、というかあれが出来ればほとんどなんでも受け流せるだろう。普通は魔法を受け流すなんて出来ないけどそこは守護の光で無理やりやっていた。


 もしフラフィーが最初から守護の光を上手く使って受け流す方法をマスターしていたら……親のレクスにも勝てたんじゃないだろうか。


 イリスが変身していたって事はたぶん、感情の使い方でも教えていたのかもしれない。結果的にフラフィーは暴走気味でかなり感情を露わにしていたけどあれでよかったのか?


「だから私は底力を出させるために不安定だった狂獣化を一度全開にさせてみた。守護の光の効果で状態異常は無効化出来るってキミヒトとあかねが言ってたから、完全に意識を失うなんてことはないと思った」


 確かにイリスは俺達と寝た時に状態異常を弾くのを見た。あかねにも睡眠魔法が効かないなら、同じ加護を受けたフラフィーも同じように状態異常が効かないと考えたのだろう。


 でもうん、フラフィー意識すっ飛んでたわ。全然良くなかったよ。感情の使い方とはただ爆発させるべし! みたいになってたよ。


「えと、イリスさん……」


「わかってる。でも今度からは横にキミヒトがいるから暴走しないと思うよ?」


 あぁ、確かにそうかもしれないな。イリスがどうやって狂獣化の症状を悪化させたのかは知らないが、鑑定結果を見るに俺に関する何かを言ったのだろう。何かって言うかナニかだとは思うけど。


 ふむ、あの戦闘で街が破壊される寸前だったし森も結構な被害を出し街の人もそれなりに被害を受けたとは言え結果的に全部何とかなった。そしてイリスはこれが仲間のためを思って行動した結果だと、そう言いたいわけだ。


 うーん、ぶっちゃけ嘘つけこの野郎って言いたい。


「だから今回は私が悪い。フラフィーは悪くない」


「そんな、私の方こそ戦闘に夢中になっちゃって……周りを見ずに魔法を弾いた私が悪いんです! イリスさんは私のためを思って……」


 珍しくイリスがかばうのでフラフィーは感極まったかのようにイリスに抱き着いてかばい合いをする。友情が育まれているようで何よりだけど毎回こいつら二人で抜け出すんだよな。喧嘩するほど仲がいいというかなんというか、とにかく楽しそうならそれでいいか。


 イリスが嘘でもちゃんと謝罪を口にするなんてかなり珍しいし、仲間のために犠牲になろうって精神も良いと思う。戦わないとたぶん出来なかった事だろうしイリスにしか出来なかったと思う。


 全く仕方ないなこいつらは。だから俺が言えることはこれなんだよな。


「じゃあ二人とも罰で良いな。何が良いと思う?」


「手っ取り早いのはキミヒトと同じ部屋で寝ちゃダメとかで良いんじゃない?」


「私もそれが良いと思うな」


「……ちっだめか」


 イリスさん舌打ち漏れてます。そういうとこだぞ。


「イリスさん?」


「巨乳、離れる。良い感じにキミヒト言いくるめようとしたけど失敗。キミヒト、最近ちょろくない」


「ええ!? 演技だったんですかあれ! ええと、じゃあ私の事を強くしようとしてくれたってあれは!? ねえイリスさん!」


「あわよくば巨乳をかばって心象を良くして罰を無くす作戦も失敗。とんだとばっちり」


「それは自業自得なのでは!? 私がお嫁さんなんですからそこに突っ込みを入れてきたのはイリスさんですよ!」


「ふっ、言うようになったな。表出ろ」


「かかってこいです!」


「クロエ頼むわ」


「スリープ」


 また出ていきそうなので強制シャットダウン。こいつらここに置いていこうかな。あずきと共にこの街を守っておいて欲しいって名目で平和な冒険を享受したいわ。そんな事はしないけど凄く疲れる予感しかないわ。


 でもなんというか。


 イリスがフラフィーの事を鍛えてくれたのは嬉しい誤算だったかな。イリスの言い分は確かに俺を丸め込もうとしたものだったのかもしれないけど、あの話は嘘じゃなかった。


 それが分かったから嘘つけこの野郎って言わなかったわけだし。とりあえず困った時はクロエの力を借りてこうやって眠らせればいいしな。

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