第246話 いいんじゃない?

 あずきの光線はそれなりな時間続いていたが、スケルトンのガードを完全に突破するまでには至らない。ただ、それでも大きなダメージを与えていたようでスケルトンからは威圧感が無くなっていた。


 もしかしたら魔力を使って周りを威圧していたのだろうか? そうだとしたらやはり本能的な戦いだけでなく理性のある戦闘を心得ているということになる。しかし無差別に襲いかかるから理性が完全にあるという訳でもなさそうか。


 つまりはやっぱり複数のスキルを使いこなしている。


「がう!」


「……」


 あずきはまた距離を取りながら小あずきを召喚しスケルトンにまとわりつかせる。スケルトンはダメージを受けたせいか動きが鈍く、小あずき達は今度はしっかりと妨害の役割を果たし地味にダメージ与えているようだ。蜂に襲われている人に見えてくるくらいの勢いがある。


 しかしそれでもスケルトンはまだまだ余力を残しているようで小あずきたちを薙ぎ払っていく。今度はまとわりつく前に炎を発動させ焼き払っていく。しかし多勢に無勢といった感じで結局動けなくなっている。


「ガルルルル」


 そしてもう一度あずきは大きく口をあけ光線を発射する。今度は先ほどよりも細いが、無駄な部分が無くスケルトンと同じくらいの光線になっている。弱らせたので避けられる心配がないと踏んでの行動だろう。


 そしてその予想通りスケルトンは光線をまた魔法でガードするがじりじりと削られて行き、炎の壁は破られ直撃する。


「……」


「いよっし! いいぞあずき! やれやれー!」


 がやがうるさいがスケルトンは何も言わずにただただ光線をその身に受け、ボロボロになっていく。どうやら通常の攻撃が効かない強化されたスケルトンとはいえ、あずきの魔力の光線を食らえばしっかりと体力を持って行かれるらしい。


 生身で弾くなんてことまでしなくてよかった。


「あのコンボ、厄介ね」


「そうだな。地味だけど地味だからこそうざいというか」


「ぶっちゃけただのはめ技だよね」


 そうそれ。はめ技。相手の行動をひたすら封じ続けて大技を当てるだけだが、その方法がかなりえげつない。本来ならこの小あずきのとびかかり以外にもスタンさせる麻痺の咆哮もあるしまだ何か隠している可能性もある。あずきタイマンならめっちゃんこ強いんじゃないの。


 俺達が語っているうちに強化スケルトンはついに膝をつき、剣を飛ばされ小あずきに完全に取り押さえられてしまった。というか光線の直撃食らいまくってるのにあの剣全然折れたりしないな。


 流石呪われた剣、通常じゃダメージすら受けないとかそういう属性持ちか。俺の鑑定スキルじゃ完全に見えないところがちょっと悔しい。本物の鑑定スキル持ちいたらもっと便利になるかもしれないな。


「あずき、ストップだ」


「がう!」


「えー!? いいよやっちゃって! ねえお兄ちゃん! ほら、妹からのお願いお願い! ねぇおにいちゃーん!」


 めぐがめちゃくちゃぶりっ子しながら俺の服を引っ張って甘えてくるが心を鬼にして視界に入れないようにする。もし視界にいれたら一発アウト。めぐの可愛さの前に俺はスケルトンに止めを刺してしまうだろう。


 俺の意思が固いと見てかめぐは頬を膨らませるような気配を見せて次はぴったりと体を俺に付けて襟元を引っ張る。


「ちゅーしてあげるよ」


「そういうのはいいんで」


「なんでぇ!」


 俺が決して止まらないとみてめぐは耳元で甘い言葉をささやくが俺には効かない。だってめぐはそう言う対象じゃないもの。徹底的に愛でて愛でて愛でまくる。それ以外の欲求が存在しない。


 見た目がパーフェクトでめちゃくちゃ好みのロリだとしても、中身や気配が完全に女神様である以上俺には彼女に性的な欲求を向けることは決してないだろう。入れ替わりでも起こるフラグに聴こえるけどそんな事は流石にしないよね?


 めぐは割となんでもありな気配があるから言ったらやっちゃいそうなくらいの勢いある。気を付けて行こう。


「じゃああかね、頼むわ」


「がってん」


「いやほんとまってお兄ちゃんごめんこれガチなんだ。いえガチなんです。本当にちょっとで良いので私の話を聞いてくれませんか?」


 めぐは駄々っ子甘々モードから、聖なる気を身にまといガチ女神様モードへ移行。その姿でも女神様っぽいムード出せたんだね。やるじゃん。俺のお兄ちゃんの部分じゃなく信者の部分を押さえてくるとは成長したな。お願いなんでも聞きます。


「実はこのスケルトン、私の力を吸収して変異したんだよね」


「ほう?」


「前に言ったでしょ? 世界のあちこちに力を隠してたって。あれの一つがここにあったんだけどさ、それをこのスケルトンが取り込んじゃってさー。いやほんと困ったよあはは」


 あははじゃないが。おかげでこのダンジョン誰も入れなくなっていたわけだが。そりゃ女神様の力を持ってる魔物に勝てる人間なんざそうそういないだろうな。俺達が勝てたのだってほとんど運ゲーだし、今回あずきが勝ったのだって相性が良かったからだ。


 近接格闘をメインでやってたら普通にやられること間違いないだろう。俺だって正面切って戦いたくないものこのスケルトン。


 つまりはあれだ、魔王が作り出した魔獣クラスの化け物だったって事だな。その魔力を与えるルートが魔王じゃなくて女神様、そして結構ガチな力を振り分けられているっていう。


「それでめぐ、どうして解放しちゃだめなんだ?」


 こういう場合解放してスケルトンの力をめぐに戻すとかそういう流れかと思ったんだけどどうなんだ? めぐの女神パワーが強化されていきもはや誰にも負けることのない最強の天使が出来上がるとかそういうノリだと思ったんだけど。


 不死属性持ちが本領発揮するならワンチャン女神様でも使いこなせそうな気がするからまじで世紀末天使が出来上がる。ラッパー見たいな恰好させてスピーカーの代わりに大剣背負わせるとか中々に熱いものがあると思う。


 ……ちょっとラップ考えたけど全然良いの思いつかないわ。


「このスケルトンが持ってる力さー、解放スキルとか女神が与えたスキルで切り離すと天界に戻るんだよね……。つまりなんていうか、普通に倒せばただ強かったスケルトンだったねでこっちの世界で完結するんだけど、解放スキルで解除しちゃうと天界にバレる。私が力を隠していたことが。私が天界にいれば戻る瞬間がわかるから誤魔化せたんだけどね。もう人間になってるからひどい罰は受けないと思うけど」


 めぐの力は完全に没収されている、という事になっている。しかしここでスケルトンを解放するとめぐの力が何故かまだ残っているのが天界にばれてしまう。つまり天界からお叱りをうけるということか。


 うん。いいんじゃない? 一回叱られても。


「解放しまーす!」


「あかねちゃん!?」


 俺の心を読み取ったあかねは容赦なくスケルトンに解放スキルを発動させた。

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