第245話 手を組んでぴょんぴょん

「アオオオオオン!」


 あずきは遠吠えを上げ自分の魔力を高めて行く。透視の能力であずきを見ているとあずきを中心に魔力の渦ができあがりその渦全体にあずきの毛のような物がうっすらと飛び散っている。


 この技は俺の時に使った罠のスキルだ。いくらあの強化スケルトンとはいえ、俺の動きすら止めたあのトラップを踏んだら中々に苦戦するだろう。問題はあのスケルトンがどういった行動を取るかによるが。


 前回この強化スケルトンはなんとかすぐに倒せたが、もしも長引いていたら魔法を使われていた可能性もあった。一応俺達はクロエとめぐに強化魔法をかけてもらい、防御も発動しておいて完全に安全な体制を作っておく。


 あずきにもしものことがあってもすぐに守れるように飛び出す準備も万端だ。


 強化スケルトンはようやくこちらを振り向き、あずきだけでなく俺達をその赤黒く光る空洞の視界に収める。今までは気配を周りにまき散らすようにしていただけだが、戦闘態勢に入りより明確に殺意をぶつけてくる。


「ガアア!」


「……」


 あずきが自らスケルトンに襲いかかる。これは俺の時も一緒でたぶん相手の力量をたしかめる行動の一つなのだと思う。いつでも引けるように低空のダッシュで左右にフェイントをかけながら近づくがスケルトンは微動だにしない。


 そしてあずきがスケルトンの腕に思いっきり前足を叩きつける。


「ガウ!?」


 しかしその瞬間恐ろしい速度で禍々しい剣が振られる。なんとかかわすが、動きに全く余裕がなかった。もし引くつもりのない全力の攻撃だったのなら今の一撃であずきはやられていただろう。


 そう言えばあの剣、何かやばい能力付いてないだろうな? 久々に鑑定。


『血染めの大剣:武器。不死属性を持つ生物が持つことによって真価を発揮する呪われた武器。切られた傷は数日治らず激痛を生み出す』


 おーう。結構えげつない武器じゃないですか。つまり治癒出来ない呪いを与えるみたいな感じなんだろうな。刃こぼれもしてるからもしあれで切られたら傷口もひどいことになるしやばそうだな。


 まじであれ食らわなくてよかったわ。


「キミヒト、あずき結構良い動きするわね。小っちゃくなったからもっと弱体化してるのかと思ったけど」


「なんか本人が言うには、キミヒト君を主人と認めたからその強さに影響を受けるとかなんとか。見た目が小っちゃくなったのはキミヒト君が小さい物好きだからじゃないかな」


 いや普通に魔王の支配域から脱して元の姿に戻ったからだよ。守護の光で浄化したんだから呪いを解いたようなもんなんだよ。俺の好みは確かに小さい子だけど動物だったら小さくても大きくてもどっちも可愛いし大好きだよ。


 でっかいわんこの上に幼女が乗っててみ? 最高しか言葉が出てこないだろ。あずきはきっと巨大化出来る能力持ってるだろうしこんどみんなを乗せて走り回ってほしいわ。サイズはほどほどで頼むわ。


 あんまり大きいと目立ちすぎるしなんかこう幼女よりちょっと大きい感じが子どもらしさを引き立てるというかそういうイメージ。そしてしっかり言う事聞いて走ったり止まったりすると尚良し。


 でもここなら小さいほうが逆に有利だな。元々のサイズだったらここじゃ暴れられないだろうし攻撃を食らいやすくなる。攻撃を食らったら治らない傷を受けるとか結構やばい事になると思う。


 小さい傷でも少し出血したらそれが数日間激痛と共に延々と続く。普通に血が足りなくなっていくし何か所も受けたら発狂クラスの痛みを伴って出血の前にショックですぐに死んでしまうだろう。


「グルルル……」


「おー、ちびあずきかわいい」


 あずきは自分の分身を召喚し数で押し切る作戦に変えたようだ。というか正直あずきの必勝パターンとも言えるだろう。この数で襲い掛かって遠距離からビームぶっぱで大体の奴は倒せるし、倒せないにしてもダメージを与えることは出来るだろう。


 俺みたいに防御に特化しているようなスキルでもない限りは。でもこう考えてるのフラグっぽいんだよなぁ。一撃で倒せるようならこんなにプレッシャーを感じないだろうしめぐがあんなに取り乱さない。


 クロエはたぶん普通にタイマンでやれる。クロエの聖属性の魔法の威力はけた違いに跳ね上がっているだろうしもうただの天使だわ。早くあずきにのっけて可愛い可愛い言って照れさせたい。


「……」


 そして俺の考えを読んだかのようにスケルトンは小あずきの攻撃を完全に無視しあずきに特攻する。魔力で覆われたスケルトンの身体は多少の攻撃を無効化しているようだ。さらに吠えても耐性があるようで怯む気配もない。


 あの強化スケルトン俺じゃね? やり方そっくり。


 そう思うくらいに頑丈だしごり押し感が似てる。親近感沸いてくるわ。技術は完全にあっちが上だろうけど。俺は拘束を透過して無視したけどあのスケルトンは自分の身体能力に任せきってるとかまじかっこいい。


 俺もああいう力こそパワーみたいなごり押ししてみたいわ。楽しくなるよねそういうぷれい。めんどくさいから全員まとめてかかってこい! 全て蹴散らしてやるわ! みたいな脳筋プレイまじ最高。


「……」


「わん!」


 劣勢に見えたあずきだが、最初に仕掛けた罠の上にスケルトンを上手く誘導し毛をまとわりつかせて自由を奪う。小あずきをけしかけたのは方向感覚と視界を奪う効果もあったようだ。確かにあれをやられて対処してるとどっちを向いているかよくわからなくなるんだよな。


 そして小あずきと毛におおわれ黒い塊になってしまったスケルトンに向けてあずきは大きく口を開ける。口の正面に大きなエネルギーの塊を生成し、その塊はみるみるうちに巨大化していく。そして轟音と共に極太の光線が走る。


 体のサイズは小さくなっても口から放たれるその光線は俺の時と同じ太さ。通路全てを埋め尽くすかのような極太の光線は全てを焼き尽くし灰にしようとスケルトンを襲う。


 スケルトンはかわすことも出来ず身動きすることも出来ずただ真正面からその光線を受け……たように見えるが透視を使って見ると炎の壁のような物を光線と自分の間に出現させている。


 見えなくても危険を感じバリアを張る機転、判断力の速さ。そして声を出さずに発動する魔法。絶対正規のルートで生まれた魔物じゃないわあれ。


「いけいけ! 燃やし尽くせ! いいぞいいぞ! がんばれあずき! そのまま全部証拠隠滅して! お願いお願い!」


 こんな感じでめぐがめちゃくちゃ焦りながら応援してるから絶対この女神様絡み。そしてこの強化スケルトン前の世界でもいたことを考えると結構バレるとヤバイ問題な気がするんだよね。


 いつもの焦り具合よりも悲痛な感じがするけど絶対に自業自得。証拠隠滅とかいう単語が出てくる時点で絶対にアカン奴。手を組んでぴょんぴょんしてるのめちゃくちゃ可愛いから許すけどな。

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