第220話 性癖を歪めた手がかりはなかった

 イリスのテレポートによって一瞬でケイブロットの街に着いたのはいいが、なんだか前に見た時と様子が違うように感じる。建物の配置とかダンジョンの位置とかは全く変わっていないのになんだか雰囲気が違うような……?


「なんか、変わりました?」


「フラフィーもそう思うか?」


 フラフィーも俺と同じ感想を持ったようで辺りをキョロキョロしている。俺だけだったら気のせいで済ませられたけど、フラフィーもそう思うならたぶん気のせいじゃないんだろう。


 何が違うんだろうか。人の流れとかは当然数か月後のしか知らないが、ダンジョンから人が出たり入ったりしているくらいしかしていないので別段変わりない。みんなにも聞いてみるか。


「私はあんまり気にならないわね。言われてみればって感じ」


「私も」


 クロエとイリスは街の変化には少し気付いているがそこまで気になる物じゃないらしい。つまりこの変化はきっと悪い事というわけではないのだろう。悪い事ならクロエとイリスはなんだかんだで敏感だからな。


 バトル的な物だったら警戒する必要があったかもしれないが、このロリ達がそうじゃないと言うなら安心だ。その代わりロリ達すら気付かない異変っていやだけども。


「私は人波を見ていませんので何とも言えませんね」


 めぐはフラフィーと一緒にキョロキョロしているが、普通に物珍しい感じで見ている雰囲気がある。可愛い。そのうち廃教会に連れて行ってあげようかな。前任者の神父さんは流石にいないだろうから廃のままだろうけど。


 なんだかんだで女神様状態の時に初めて会った場所だし俺にとっても思い入れがあるし行くしかないだろう。そして今回は人数いるしちゃんと綺麗にしてもいいかもしれないな。あかねは置いていくが。


 となると見てみぬふりをし続けていたあかねがこの状況を理解しているな。というかぶっちゃけた話あかねの反応で何が起きているのか少しわかってはいた。だからこそあかねを視界に入れないように見て見ぬふりしていたというわけだけども。


「で、なんだよあかね」


「……ノーマル」


「ん?」


「ノーマルなんだよ」


 うつむいてブルブルしているあかねが妙に怖い。というか鬼気迫ってるというかやるせない怒りをどこに発散していいかわからなくなっている状態というかなんというか。


「男の人たちの性癖がノーマルなんだよ!」


 うん、聞き返したけどわかってるよ。まじで聞きたくなかったから聞き返したんだよ。なんでノーマルで切れてるんだよ意味わかんねぇよ。って言うか未来でノーマルじゃない人のが多いってどういうことだよ。許されないだろこれまじで。


 え? 待ってよまじで。これさ、もしかしてなんだけどさ、あいつらが今から数カ月でケイブロットの街全部塗り替えるほどの活躍したってことなの? はい? いやまじで何したんだよあいつら。


 ……いやまてまて。あいつらが原因だなんて決めつけは良くないな。例えあいつらが男色家であったとしても流石に街ぐるみで影響与えるとか難しいだろう。きっとこの後何かがあって街の性癖が……こっちのほうがやべえわ。


 うん、あいつら、ロンドの連中を探そうか。


「まさかイチロウ君達あの話本当だったとは……」


「あの話ってなんだよ……。聞きたくないけど気になりすぎるだろ」


「実は……」


 あかねは一時期ロンドと共に行動していた。その頃に色々な話を彼らから聞いていたが、かれらの武勇伝以外にもどうやってここまでランクを上げたかの話もあったそうだ。


 曰く最初は苦労の連続の日々で魔物を倒すのも一苦労だった。そしてその頃は自信も実力もなくて三兄弟だけで戦う彼らを心配する人たちも多かったようだ。手を差し伸べる冒険者たちもいたが、彼らは三人で頑張ると熱く語っていたそうだ。


 そのため冒険者のみんなは彼らを見守るようになりいつしか応援する人たちまで出てきたそうだ。自分たちだけの力でダンジョンを攻略したいという目標、街の人たちの応援、それがあったから彼らは挫けず戦い続けたそうだ。


 そしてある日、何度も挑み続けた甲斐があってダンジョンを攻略したら力が沸いてきたそうだ。そこからは快進撃を続け、魔物討伐やらギルドへの納品を行い一気にBランクへ昇給。しかしその後は知っての通り新人育成やダンジョン攻略をメインに活動をし始めた。


「なるほど……確かにダンジョン攻略は鍵ではあるな」


 俺がダンジョンを攻略した時に聴こえる謎の音声。みんなには聞こえていないようだったが、しっかりとスキルを強化するという音声の通りにみんな強くなっていた。きっとロンドの連中も同じような状況だったのだろう。


 一気に強くなったって言うから使えなかったスキルが使えるようになったとかかな。


 だが今の話の中にロンドの連中がみんなの性癖を歪めた手がかりはなかったな。まじで街に何か起きたんじゃないだろうな。そっちの方が怖いんだが。今いるから影響受けないとも限らないし。


「とりあえずみんなの服買いに行くのが先かな?」


 よくわからんしやっぱりロンドの連中を探すのは後回しにしてもいいな。


「キミヒト君ってほんっと優先事項ぶれないよね」


 うん。だってあいつら俺に対する下ネタばっかりなんだもん。楽しいから全然いいんだけど、そんな連中と絡むよりもみんなの洋服選びたいよ俺は。特にめぐを見たときのミカの反応が楽しみ過ぎて俺の意識はそっちに行ってる。


 というか今めぐが着ているスモッグって新作の衣装だからまだミカの店に置いてないんだよな。この服見せたらめちゃくちゃ色々聞かれそうだわ。服見たらたぶん製法とか誰が作ったかとかわかりそうな雰囲気あるし。


 なんだかんだでガチの職人連中だからな……女装しているおっさんとロリコンの変態店員。まじでやべーお店だけど職人としてはたぶん王都のトップレベルを超えてると思う。


「キミヒト、どうやら先に彼らの相手をしなきゃダメ見たいよ」


「なんか元気ない」


 クロエとイリスが後ろ、ダンジョンがある方向を見ているとそこから三人ほど人が出てきた。金髪のキラキラした連中で、装備は金属のプレートを使ってはいるが使いこまれていて、ダメージを受け過ぎたのかややぼろい印象を受ける。


 俺が彼らに初めて会った時は使い込まれてはいても綺麗に手入れされていたし、ミスリルっぽい感じだった。つまり彼らの装備はランク相応の弱いものということだ。なんか新鮮だな。


 ぼんやり眺めていると彼ら、後の疾風のロンドの連中が声をかけてきた。


「おお? 兄さんたち旅人かい?」


「街の案内をしてやりたいところだが、ちょいと怪我がひどくてな」


「ギルドに行くならここを真っすぐ行けば良い。それじゃまたな」


 彼らの内の一人が結構な怪我を負っていた。その一人は見た目が一緒だから誰だかわからないが、最初に話したやつだからたぶんイチロウ。一人だけ武器が無くなっているから激闘を繰り広げたんだろうな。


 うん、とりあえず怪我くらい治してやるか。


「クロエ」


「ええ。ちょっとあなたたち待って」


 クロエが声をかけると彼らは止まってこちらを振り返る。その時にクロエがヒールを行いイチロウの怪我、残りの二人の小さな怪我とかもすぐに治っていく。


「おお……?」


「ヒールか。すまねぇ助かる」


「だけど今手持ちがこれしかない。足りないかもしれないが受け取ってくれ」


 彼らが俺達にお金を渡そうとしてくるがそれは断固拒否。こいつらの装備の消耗具合、そして人となりを知っているからこの渡そうとしている金額は全財産に近いだろう。治療院に行ってイチロウだけでも何とか治して武器がギリギリ買えるかってくらいの値段。


 だから彼らに対して俺が言う言葉は決まっていた。


「へいブラザー! 一緒にロマンを追求しようぜ!」

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