第206話 真っ黒

「あぁ、なんてことだ……。やはりドミニクの館だったか」


 現地に着くとベノプゥは頭を抱えて困ったような声を出した。この落ち込みっぷりからすると相当厄介な所なんだろう。しかし俺達はドミニクという奴がどういう奴か知らないので聞いてみる。


「ドミニクの家系は高名な魔術師を多く輩出している大貴族だったんだ。だが王都には他にも多くの優秀な魔術師たちがいてその技術を羨んだ。そしてある日一人がダメもとでドミニクに教えを請うとすんなり了承され技術はどんどん盗まれてしまった……。何代か前のドミニクの家系はお人よしでな、聞かれて全部教えてしまったのだよ」


 なるほど、めちゃくちゃ優秀な魔術師だったけど、それは秘伝の技術やら独自の方法で鍛え上げてきたものだった。しかしその秘伝の方法を全て公にしてしまったせいで特別感も無くなり一般的な魔術師になってしまったと。


 どういうお人よしなら秘伝の技を教えるんだよ。しかも独自の方法で栄えたっていうのならそうそう真似出来るものじゃなかったはずだ。それなのに他の人も使えるようになったって言うのは……授業でもしたのだろうか。


 っていうか魔術師の家系って言うから血の濃さとか色々関係あるような気がするんだけどそれすらも一切無視できる技術か。それはそれで興味が尽きない所だわ。


「そんなことがあったんだが、ギリギリ貴族としては生き残っていたんだ。それまでに残した功績も大きいし、伝えた技術も破格の物があった。特に召喚魔術が得意で魔法陣の扱いに長けていたよ。まあ今では王家が独自にアレンジしてもっと効率いいものを作ったと聞いたが」


 ほう、勇者召喚の元凶となった魔術師の家系か。たしかに異世界から何かを呼び寄せるなんて技術は並大抵のものじゃないな。このドミニクという人物達の家系がどこまで実践できていたのかは知らないがかなりのものだったんだろう。


 それに地下にあったトラップや離れの魔術的な鍵もかなりの技術だ。転移魔法に自動で睡眠魔法を発動するなんてダンジョンと言い張っても通用するレベルのものだぜ。


 その技術をより高めて行けば街全てに転移魔法陣を設置なんて夢がかなったかもしれないな。俺の夢というよりかは人々の夢って感じだど。


「この屋敷には今は息子の……ムバシェだったか、一人でいるはずだ。今王城で色々あったらしく大抵の貴族が駆り出されている」


 あぁ、勇者大脱走の件ですねわかります。王女様がなんとかしてくれると思うので俺は知らぬ存ぜぬを貫いていくぜ。っていうかムバシェ結構良い所の出だったんだ。というかこれで完全に怪しい立ち位置になったな。


 勇者召喚の魔法陣って事は召還だけじゃなくて奴隷関係とか呪い関係にも精通している家だろう? そんな所の一人息子、そして意識重体のエルフを集めて何かの魔術を使おうとしていたとか真っ黒にもほどがあんだろ。


 そんでムバシェと共に変体したベノプゥがいた所を見ると失敗したか、もしくはそれで成功だったかだが何をしようとしていたのだろうか。今回に限っては全てのフラグをへし折らせてもらうけどな。


「じゃあ屋敷に入ってその息子をとっちめれば良いですね。行きましょうかベノプウさん」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 ベノプゥに腕を掴まれ思い切り止められる。イリスにも似たような事やられたけどおっさんにやられると可愛さも全くないしかなり力強い。かなり本気で止められたぞ。仕方ないので向き直り聞いてみる。


「なんですか?」


「ここはトラップの宝庫だ。魔術的なトラップだけじゃなく物理的なトラップだって屋敷に仕掛けられている。息子のムバシェは先祖返りのように潤沢な魔力と魔術の才に溢れていると聞いた。入ったら迎撃されても文句は言えない」


「いや、ええと」


 見た感じ魔術的な罠の位置も通常の罠の位置も全部把握出来る。というか自分たちも入る都合上いちいち解除したりはしないので通り道がある。その通り道はわかりづらくしているのだろうが、俺には透視があるので関係ない。


 というかもし食らっても不屈と防御だけでも事足りるだろう。イリスとか勇者クラスの攻撃じゃないとびくともせん。あと獣人の村の戦士達とかな。これらを相手にするなら守護の光も使ってとんとんくらい。


 そんな罠が仕掛けられている所なんて考えたくない。罠だけで魔王ぶっ殺すとかそういうレベルの話になる。なので心配はいらない。


「大丈夫ですよ。心配なら待っててください。すぐにそのムバシェを連れてきますから。めぐも一緒に来るか?」


「うん。守ってくれるんでしょ?」


「当然」


「この子達の余裕はなんなんだ……」


 ベノプゥは呆れたようだが諦めてもいるようだった。俺達がどこかおかしいのと自信満々なのがあり止める気も無くなったようだ。入口付近は侵入者を追い出すような物ばかりで致死率が低いから傍観する気なのかもしれない。


 少し痛い目を見ればいいとか思っているかもな。


 しかし当然のように罠を全て回避していき門から扉に向かい邸宅の中にまで侵入していく。後ろを振り返る事はしなかったがきっとベノプゥはかなり驚いているだろう。


「おじゃましまーす」


 邸宅の中の人の反応は変わらず二人。さっきと同じように固まっているが何をしているかまではわからない。転生して強化されたとはいえ、魔術的なもので妨害されている屋敷の中を完全に見通す事はできない。


 ほんのりとあそこにいるなってのが分かるくらい。ピントを合わせられずずっとぼやけているみたいな感じだから少し気持ち悪いなこれ。


「うーん、お兄ちゃん。この屋敷はどうやらそれなりに人がいたようだよ」


 めぐが邸宅がかなり綺麗に整頓されている所から指摘する。確かによく見てもほこりの一つも落ちていないしかなり手間をかけて掃除しているのが分かる。もしこれを今いる二人でやっているなら相当な掃除スキルだが、流石にちがうだろう。


 多くの人たちが今までここで働いていて今日だけたまたまいないと考える方が自然だ。そんな人数がたまたまいないって言うのは非常に不自然だけども。


「なにがあったんだろうな? とりあえず人のいるところに行ってみるか。きっと何か知ってるだろ」


 俺とめぐは階段を上っていき誰かがいるであろう部屋に向かった。

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