第207話 その衝撃の強さは例えるなら

「じゃあ入るか」


「信者一号……あなたには躊躇というものが無くなりましたね……」


 めぐが女神様っぽい口調で俺に呆れたように話しかける。確かに慎重さというものが無くなってしまったかもしれない。絶対にめぐを守れるという自信と確信、鉄壁の守りに加えて二人同時に透明化して透過も出来て簡単に逃げる事も出来るスキル。


 うん、どう考えても調子に乗っちゃうと思う。攻撃面に関してもなんだかんだで獣人のレクスに勝ったことでかなり自信がついた。その辺も含めて躊躇が無くなったんだと思う。


 めぐが元の女神様っぽい口調で苦言を呈すのも致し方なし。すまん。


「大丈夫だ、何があろうとも俺はめぐを守るよ」


「そう言う事は他の子に言ってあげてくださいね。女神を口説くとか非常識ですからね?」


 ああ女神様やっぱ素敵だよなぁ。というか二人きりになったとたんに女神口調に戻るのなんか特別な関係って感じがしてちょっとドキドキするわ。女神様をめぐとして人間に落とした神様に感謝したい気持ちも高まるんですけど。


 なんだかんだで女神信者として順調に育てられている気がしてならない。でも仕方ないよね、敬愛している人に特別扱いされていると知って心の底から喜びがこみ上げてくるのを止められるわけがない。


 愛が止まらないぜ。


 そんなあほな事を考えているせいでめぐがため息をつく。さらに俺の相手をしていたせいか疲れた顔が元の女神様と重なってより一層気持ちが高まる。これは狂信者と言われても何も否定できないわ。


 誰か歯止めをかけてくれ。


「ほらお兄ちゃん。早く扉を開けて状況を突き止めてくださいよ」


「おけおけ」


 めぐが背中をぐいぐい押してくるので扉を開ける。


「ぶひぃぃぃぃ!」


 そして閉める。


「帰るか」


「いや何言ってるんですか!? 確かにちょっとヤバイ光景が見えたような気がしないでもないですけど!」


「ちょっと?」


「ごめんなさいかなりです」


 ふぅ。扉を閉めたから落ち着いた。中には二人の人物がいた。共に見たことのある人物だったような気がするがそんな事はないと信じておきたい今日この頃だ。ああそういえばあかねとフラフィーは情報収集捗ってるのかな。


 もし捗ってるならちゃんと聞いておいた方が良いだろうしなんだったら今すぐ合流しても良いくらいだ。あの二人はなんだかんだ可愛いしナンパされているかもしれない。フラフィーは顔隠してるけどあかねは堂々と歩いてるからな。


 モンペリエでもナンパされていたし危険が及ぶかもしれない。前回は助ける必要が無かったけど今回は颯爽と助けに行ってもいいだろうな。サッキュンもいないし。


「お兄ちゃん」


 あとイリスはどうしてるだろうか。まじで盗賊狩りをして金銭を巻き上げてエルフたちと豪遊しているのかもしれない。エルフは見た目よりもずっと好戦的だし、どんな森の中でも戦えそうなイメージがある。


 たとえ数で攻め込まれるようなことがあってもイリスがいればまず負ける事はない。あのエルフたちもおいしい食料にありつけると知ったからかなり本気で行動しているだろう。イリス信者と化している雰囲気もあったしな。


 エルフにとっての食事の魅力はロリ二人で散々見せつけられてきたからかなり凶悪な存在になっているかもしれない。またエルフが差別される理由が出来るかもしれないが、これから定期的に盗賊討伐をするなら王都でもいい関係が築けるかもしれないな。


 報酬は食料、持ち込み可。


「ちょっと、お兄ちゃん? 現実逃避しないで?」


 あとわからないと言えばさっきも言ったがサッキュンだな。あいつは元々リーベンの諜報員みたいなことやってたけどあかねに手懐けられた。となると今はリーベンにいるんだろうか。


 ケイブロットで出会ったのはもっとずっと先だったしこっちから会いに行ってもいいかもしれないな。いやサッキュンは女神の加護受けてないから記憶がないかもしれないからやめたほうが良いか?


 結構ひどいことをしたし記憶なくても困らないが、あかねとの思い出が無くなってたらあかねが寂しがるかもしれないな。なんだかんだでサッキュンと仲良かったし良いコンビだった。


「お兄ちゃん!」


「おごっ!? げほっ……ちょ、うぇぇ……」


 唐突にお腹に猛烈な衝撃が入る。内部的な意味ではなく外部的な意味で。その衝撃の強さは例えるなら寝ている時にお腹にエルボーを食らうが如し。もしくは全力で走っている時に自転車が飛び出してきてグリップ部分がお腹に刺さったみたいな。


 いや、まじでこれちょっとまって声でないくらい痛い。


「もうお兄ちゃん無視しないでください!」


「……! ……!!」


 お腹を抱え、もう片方の手でわかったわかったとサインを送る。正直胃の中身をぶちまけなかったのが不思議なくらいの衝撃だった。たぶん来る前に食べてたら吐いてたわこれ。


 っていうかめぐお前強すぎんだろ。俺常時不屈も防御もそれなりに発動してるんだよ? なに普通に貫いてダメージ与えて来てるんだよ。


「私は女神ですよ? これくらい出来ます。今のでだいぶ力使っちゃったので今日はもう力使えませんけど」


 まじで何してんの女神様。でも女神様からの壮絶な突っ込みを味わえて俺は幸せ者です。女神様の本気のパンチ、美味しくいただくことが出来ました。ありがとうございます。


「怖いです」


 俺がお腹を押さえながらお祈りするとめぐがドンびいてくれた。とても素敵なひと時を過ごせたことをここに刻んでおこう。二度目の転生してから初めての動けなくなるダメージです。


 そして扉の向こうで行われている世にも無残な行為をそろそろ受け入れて現実に帰る必要があるのかもしれない。じゃないと本当にいつまでたっても話が進まないからな。


 落ち着いたとか嘘にもほどがあったわ。

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