第205話 本当に泣きそう

「お兄ちゃん、あの精霊の娘はあんなに感情豊かでしたか?」


「うん、まぁなんというか。表情には出してなかったけど感情は豊かだったよ。あそこまで行ってるとは思わなかったけど。もしかして世界がループした時お腹空いてて何も手元になかったとかかな」


 もしループ直後にお金もなく魔力も尽きていたら。そして森の中とかだったら薬草や木の実や果物を直接食べるくらいしか出来ない。果物があるところには人も来るだろうかそこを避けていたら……。


 幼女が草食べてる所想像すると本当に泣きそうになるからそうじゃないと願いたい。馬車に乗ってるとか言ってたけどそこで食事はしなかったんだろうな。毒が入ってたら結構面倒な事になるだろうし。


「とりあえず気を取り直してギルドに向かうか」


「そうだね。精霊の娘たちが今から盗賊狩りに行って盛大に色々やらかしそうな未来が見えるけどそれよりも報告の方が大事だもんね」


「……」


 めぐにこう言われてしまうとやたら不安が押し寄せてくるな……。見に行くべきか、そのまま予定通りギルドに行くべきか非常に迷う。


 だが俺は放置する。あのイリスを止めることはまず無理だろうし止める理由もない。盗賊狩りなんて俺もやってたしもしかしたら俺が戦ったベイルにお礼参りでもしたいのかもしれない。


 ベイルというよりはシオリにやり返したいところだろうけど。ああ、クロエとイリスが揃ったらシオリに危害加えないように説得しないといけないのか……きいてくれるだろうか?


 血の気の多いエルフ姉妹はやられたら絶対にやり返すって主張しそう。その場合は……死なない程度にしてもらえば良いか。俺はシオリよりもエルフ姉妹を優先するしシオリは実際に二人を捕まえたし自業自得というものだろうということにしておく。


 というわけでめぐと共にギルドに向かうとベノプウが椅子に座って冒険者と飲んでいた。色々聞いてる感じだしついでに話を聞かせてもらうか。俺とめぐは何も気にせずそっちに向かっていく。


「お邪魔しますよっと。すいませーん、ビール三つとミルク一つ!」


「おうなんだ兄ちゃん、奢ってくれるのか?」


「キミヒト君じゃないか。何かあったのか?」


 空いてる席に構わず座りとりあえず酒を奢っておく。冒険者に対しては基本的にこれしておけば大体問題ない。ちなみにミルクはめぐの分。流石にお酒を飲ませようとは思わない。


 実際は大丈夫かもしれないけど絵面がどうしてもやばい感じがするのでそこは許してもらうしかない。だから俺のことを無言でみつめないでくれ。嬉しくてにやにやしちゃうよ。


 もしかして実体を持ったから色々と楽しみたい欲求があるのかもしれないけどお酒はダメ。もうちょっと大きくなってからにしなさい。


「少し気になることがありましてね。こちらの冒険者さんとはどんな話を?」


「ああ、彼には外の情報を少しな」


 なるほど、あんまり聞かせたくない情報ということかな。外の情報でベノプウが興味あるといったらリーベンの奴隷絡みだとは思うけど。


 リーベンが盗賊を使って色々働くのは数ヵ月後だったけど、ベノプゥは対策としてもう準備していたのか。しかし実際は盗賊の討伐も出来てなかったし、もうこれはベノプウの教育係していたムバシェが色々やったと考えて良いんじゃなかろうか。


「それじゃまたなベノプウさん。兄ちゃんもごっそさん」


 外の情報をいくつか告げてから冒険者は去っていった。それなりのアルコールがあるビールだが、俺が奢った分は一気飲みして顔も赤くならなかった。


 ベノプウが信頼している腕の良い冒険者なのかもしれない。ものすごく偏見だがお酒の強い冒険者というのは腕っぷしが強くて実力もある気がする。もちろんお酒飲めなくて強い連中もいるけど結構な指標な気がするな。


「それでキミヒト君、何があったんだ?」


「ああ実は……」


 俺はさっき見聞きしたエルフ達の惨状、邸宅の地下にある空間、その邸宅には入らなかった事などを伝えた。中を破壊してしまったことはとりあえず伏せておいた方が良いと思ったから伏せておいた。


 なんとか脱出したということでごまかしておく。そこまで言う必要もないしもしベノプウが関係者だった場合屋敷壊してごめんなさいだからね。貴族の屋敷をぶっ壊したとかいろんな罪に問われること間違いなし。


 エルフを監禁してましたと俺が言ったところでこの王都は人種差別の国だからエルフってだけでたぶん貴族の罪は無くなる。奴隷解放をうたっていても人種差別が無くならないのは悲しいけども。


 エルフ可愛いじゃんね。いつまでたっても見た目が変わらないとかロリコン的に最高以外の何物でもない。エルフは好戦的だから人間と対立したとかあったけどそんな気配残ってるのもうほとんどいないんじゃないのだろうか。


「そうか……そんなことがあったのか。私が分からなかったところを考えるにたぶんどこか遠くからさらってきたのだろう」


 ベノプゥはこの王都の範囲、というか予知みたいなものがたまに見えるらしい。それが今は自分の使命だと思って行動しているようで奴隷解放という形になっているようだ。


 信心深いという点では俺と同じかもしれない。信仰している神様は絶対に別だと思うけども。


「しかし、そうか……となると……」


 ベノプゥは俺達の報告を聞いて考え込んでしまった。俺たちの行動によってベノプゥの行動が変わるかどうかはわからないが、俺達が手伝えばきっとベノプゥの魔物化は止められるはずだ。魔物じゃないけど。


「私はその貴族の家を調べようと思う。一緒に来てくれないだろうか」


「もちろんそのつもりですよ」


 というわけでベノプウと共に怪しい貴族の家に向かう事にした。

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