第183話 こんな時もある

 さてお祈り……どうしようかな。感謝をしてもし尽くせないくらいの感謝をささげて来てるけど、それでもまだまだ足りないという気持ちが強すぎる。しかもまだクロエにもイリスにもフラフィーにも会ってないんだぜ?


 どうやってあふれ出る感謝を不足なく伝えることが出来るのだろうか。もう俺が感謝の化身にでもなって俺の存在を全て捧げることくらいしかできないんじゃないだろうかという気持ちになってきてるよ?


 ああ女神様本当に最高ですあなたがいなければ私はもう精神的にも肉体的にも死んでいたことは間違いありません。もう一度あかねの笑った顔を見られたこと、憎まれ口を叩きながらも楽しそうにしているの見れて感激です。


 一度ならず二度までもスキルを付与してくださりそこに関しても感謝し尽くせません。今あかねは隣で一緒にお祈りしていますが私たちの気持ちを受け取ってください。


 こうして二人でまた並べる事に本当に、本当に感謝しています。どうか、女神様にも良いことが起きますよう願っております。


「……」


「……」


 あれ、おかしいな。


「女神様?」


「こないね?」


 俺の祈りが届いてない……なんて事は無いはずだ。俺が今まで感謝をささげた時、どんな状態であろうとも女神様は出て来てくれた。まともな理由以外にもさぼりたいという理由で。時間的に人がいるからだろうか?


 いやそれでもあの女神様だ、何かと理由をつけて来てくれるだろうし人目があっても見えないからそんなに気にしないだろう。もしかして俺達のこと気遣ってくれたとかだろうか。


 だれもいない空中に話しかけるのを見てるのが辛いとか。そういうことだったらまた夜に出直してくるか。ちょっと腑に落ちないけどこんな時もある。


「あかね、行くか」


「もういいの? 女神様の反応ないけど」


「この時間だからな。それに世界が巻き戻って女神様のところでも何かあったのかもしれない」


 無理やり世界を巻き戻した場合この世界を担当している女神様はどうなるのだろうか。この世界で死んだ人の魂だって女神様の管轄だろう。それが復活したりしてたら忙しくなるのも当然と言えば当然。


 巻き戻りが女神様に与える影響は俺達にはわからないからな。観測できるのは神である女神様たちだけみたいな事言ってたけど、それまでの魂の処理とかもろもろあってもおかしくはない。


 感謝をささげておいたし、多少は気が楽になったと信じてまたこよう。ものすごく会いたかったけど忙しいなら仕方ないよな。


「じゃあとりあえず宿屋予約して……時間かかるかもしれないけどフラフィーの村探しに行くか」


「そうだね、待ってるだろうし」


「あっちから来そうな気もするけどな」


 あかねと同じく記憶がちゃんとあれば、だけど。女神の加護の力が記憶の保存として働いてくれていればきっとフラフィーにも記憶がある。それならしっかりと会いたい。


「そういえば最後までフラフィーちゃんと一緒にいたんでしょ? どうだった?」


「どう、とは?」


「男女のあれそれを言うつもりはないけど、フラフィーちゃんでしょ? よく離れ離れになる選択肢をしたなって思って」


 ああそういうことか。たしかに最後までずっと一緒にいようって話をして……。


「まずいな。会いたいけど会いたくなくなってきたわ」


「なんで?」


「いや、その。なんだ、えーとほら、あれだよあれ」


「心覗いた方が良いの? それとも自分で言う?」


 どっちにしろ恥ずかしいにもほどがあるだろう。しかしここで覗かれて自分で言わない選択肢をとるのはどうにも誠意にかける。そもそもフラフィーに会いたくないと言ってる時点で誠意にかけるけど。


 それはそれ。これはこれ。めちゃくちゃこっぱずかしい事してたわ。どうしようかな、フラフィーに会ったらその辺めちゃくちゃいじられそうだわ。覚悟は今したけどクロエとイリスが何て言うか。


「自分で言う。そのだな、簡易的とはいえ、結婚式をしたんだ」


「はぁ」


 ものすっごい気の抜けた返事が帰って来る。


「それで、えーと、神父さんとかいないだろ? 祝福を女神様にしてもらうという世界からうらやましがられそうな最上級の祭事だったというか」


「ずっる。なにそれずっる。クロエちゃんとイリスちゃんにちくるわ」


「俺死ぬんじゃないそれ」


 フラフィーに指輪渡した時ですら殺気ばりばりだったからな。あの時はあの時だけど、この結婚式に至ってはみんながいなくなったあとだ。怒られるなんてレベルで済めばいいけど無理じゃね。


「あーイリスちゃん可愛そうだなー! 一番最初にキミヒト君の力になってあげたのに一番最後だったし結婚式もフラフィーちゃんに取られちゃうし散々な結果だなー! うわーキミヒト君がそんな人だったなんてなー!」


「返す言葉もねえよ」


 あかねに散々煽られるがどれも本当のことなので反論の余地はない。でも本当にどうしようか。あかねだったからよかったものの最初に会うのがクロエとイリスだったら修羅場が発生していたんじゃなかろうか。


 フラフィーを仲間にした時、奴は絶対に調子にのる。絶対にだ。愛しているともいったしもう一度愛するとも言った。だがだからと言ってみんなの前でもう一度結婚式出来るかと言われた非常に迷う。


 みんなお嫁さんにしたいよ俺は。そう言ったら殺されそうだけどそれはそれで幸せかもしれない。みんなと結婚式したい。


 もういいか。


 死ぬ覚悟も持っていこう。


「よーし、覚悟も決まった所で獣人の村探しにいくかぁ!」


「おー! ……え? 私は含めてくれてる? ねぇ」


 というわけでまずはフラフィーを探しにあかねと二人旅になることが決定した。二人旅と言っても王都を拠点にするから厳密には旅ではないけど。

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