第182話 いっぱい感謝

 シオリの処遇はヒビキとユウキに任せる事にした。ギルドに着くとユウキがこれからどうするか、冒険者として登録しておけば間違いないし旅に出るにも身分証になるからやっておいて損はないと熱く語っていた。


「俺は勇者としての義務を全うしたい。というかせっかくの異世界にきたんだ。もらったスキルの力も試したいし色んな場所も見て回りたい。その力ももらったんだからみんなもどうでしょう?」


「私は賛成。魔法の力をもらったのは良いけどやっぱり異世界だし鍛えないと損でしょ。逆にこんなすごいスキルを持ってるのに普通の生活を送るなんてことは無理無理」


「僕は一番危険そうなところについていくよ。回復としての本職スキル持ってるの僕だけだし……」


 みんな意欲に溢れているな。それはこのギルドの中の空気もあるだろう。冒険者なんてのは欲望に溢れていたり一攫千金を目指すような人たちばかりだ。そんな中に放り込まれていたら自然とやる気も上がって来るというもの。


 自信にあふれた流されやすい人たちを舐めてもらっちゃあ困るぜ。このまま戦闘に対する自信をもっとつけてもらって、ぎりぎりの戦闘でもひるまないような熱い心意気も持ってもらいたい。


「おお来たかリーダー!」


「ほんとだ! リーダー待ってましたよ!」


 リーダー? なんだこいつら俺の事みてリーダーって言ってるけど。


「やったねキミヒト君。リーダーだって」


「いやなんも嬉しくないけど……。なんで俺がリーダーなんだよ。ユウキがリーダーだろ?」


「何言ってるんだ、俺達を助けてくれてここまで導いてくれたのはあんただろ? だからリーダーで決まりだ」


 いいか、別に。困るような事でもないし俺の人徳の為せる業という事で気にしないようにしておこう。これから魔王軍と戦う時にリーダーが最初から決まってるっていうのも悪くはない。甘んじて受け入れておく。


「じゃあユウキ、すまないがこれからパーティ作ってもらえるか? そこに今連れてきた別のグループの連中を混ぜてもらいたい」


「おっけーだリーダー」


 だいぶフランクになってるけどこれがユウキの素なのかな? それとも異世界にきたからテンション上がってるとかそういう感じ。テンション上がると性格が楽しくなる人結構いるけどたぶんユウキもその一人なんだろう。


 というわけでグループ分け。ここにいるのはおれとあかねを含めなければ十五人。五人パーティを三つ、もしくはしっかり分けなくてもいい。三人で行きたいならそれでもいいしな。決まり何て必要ない。


 その位常軌を逸している力を持つ連中だからな。問題ないだろう。


 ユウキのパーティには九番とシオリを押し付ける。戦闘力が不安なんてことは無いが万が一のためにフクザワもついていくようだ。ユウキがバランス型でぶっ壊れてるのでここは何も心配ない。シオリも守りなら万全だしな。


 ショウのパーティには『格闘』『強化』を持つ十六番、それにヒビキもまざって若干むさくるしい感じのパーティの出来上がりだ。全員近接というのもこれまたヤバイ感じ。ヒビキがスキルを覚えてくれれば遠距離もできそうだけど。


 『火属性特級』『魔法の才能』の五番のパーティは逆に女の子だけで構成されたパーティになっている。スキルの恩恵があれば男手が必要なこともそうそうないだろうし充分だろう。


 ガチのハーレムパーティになるのは俺だけか。すまんな。


 パーティ分けはこんなもんでいいだろう。


「リーダーはどうするんだ? ずっとこの街にいるのか?」


「いや、俺はパーティメンバーに当てがあるんだ。だからそいつら探しながら旅に出る事になるよ。連絡はヒビキが定期的にしてくれるからみんなちゃんと受けてくれよ?」


 ヒビキのパーティは海沿いの街に行ってもらう予定だ。水の精霊にちょっかいかけていなくなったら、一番最初に襲撃を受けたモンペリエで活動してもらっていれば問題ないだろう。何か起きそうならすぐにみんなを呼んでもらえるだろうという作戦。


 時期的には今はまだ平和だという話だから海も簡単に渡れるし楽しんでもらおう。料理もめちゃくちゃおいしかったからなあそこ。海産物苦手じゃないみたいだし存分にはっちゃけてこい。


 その後全員の冒険者登録を済ませみんな旅立っていった。


「とりあえず目標クリア、だな」


「お疲れ様キミヒト君。と言っても私はその辺の事情聞いただけだからあんまり実感ないけど」


「そうだよなぁ。直接言われたのは俺とフラフィーだけだからなぁ。しかしシオリの記憶が無いのは誤算だったな、リーベンの内情知りたかったのに」


 元々クロエとイリスを俺の元に届けるのが目的だった、しかし実際にはギルドマスターが言っていたように、奴隷としても扱われていることになっていた。


 王都とはまた違った腐り具合を発揮しているので場合によっては何とかしようと思ってはいた。まともな人がいるだろうからその人に統治を任せようとかくらいだけど。


 主に元勇者のおじいちゃんだよ。そんな腐った場所にいて何をしているんだろうか気になるんだよね。


「じゃあとりあえずフラフィーちゃん捕まえに行く?」


「それもいいんだが……あいつの村無くなるのってまだ先なんじゃないか?」


「そうなの?」


 フラフィーは言っていた。一度獣人狩りの連中に襲われて全部返り討ちにしたと。それでその後村を解体して全員ばらばらになり、そこで王都で冒険者になった。


 つまりもう村が無くなっていたのならフラフィーはこの冒険者ギルドに来るはずだ。ランクの低いものをやっていたという話だし、俺と会った時にもランクは低いままだった。


 そんなに長い間低ランクにいる方が難しいだろう。採取系クエストなら獣人の鼻ならすぐ完了できるしフラフィーは人当りだって良い。お使いクエストを数週間もやってればソロでもランクは上がるはず。


 それでも上がっていなかったからほんとうにすぐ冒険者に騙されてあの森へ入ってしまったのだろうな。


「へー、フラフィーちゃん苦労してたんだね。すぐ包丁だすし盾として優秀だったからもっと色々活躍してると思ってたよ」


「ああ見えて出来る子だからな。苦労人でもあるけど。主にあかねの世話でな」


「えへへ……」


「ほめてねえよ。というわけでフラフィー探しの前に先に行きたいところがある。というか行きたくてしょうがないし優先事項としては今一番だ」


 王城を出たなら行かねばならないだろう。


「あー、信者すぎるねぇ。でも私もいっぱい感謝だ、行こ行こ」


「女神様は本当に女神様だからな。俺たちの想いを伝えに行こうぜ」


 王都で出来ることは軒並み終わった。それならその経過報告、そして記憶を残してくれた女神様に盛大に感謝を捧げに行かなくてはならないだろう。

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