第181話 何度でも言う

 王女様が後片付けをしてくれて勇者たちにも色々と納得してもらった。こっちのグループも話はすんなり受け入れてくれたので時間はさほどかからず兵士が目覚めることもなかった。


 その間に第一グループの脱出も捗っていたようであかねからそう言われた。どうやらあかねはしっかりと第一グループの同行を探っていたようで情報を拾っていたらしい。


 何度でも言うけどあかねまじ便利。


「じゃあ私たちは召喚されたけどこれからは好きにしていいって事ですか?」


「魔王が復活するまで、それと倒した後という条件にはなりますがそういうことです。ですが戦闘に関しては第一グループの方々が先陣を切ってくれるので皆様方はそのサポートという形になるでしょう」


「そ、そうなんですか」


 自分たちに戦闘能力がほとんどなさそうという自覚があったのだろう、その少女は見るからに安心した表情をしていた。いきなり戦えって言われてもそら難しいわな。こっちは戦闘知識入れられただけで訓練まだしてないし。


 その辺は個々に任せてしまってもいいし、最悪シオリともう一人だけ戦ってくれればいい。他のメンバーには前の世界で不遇だった分遊んでいてもらってもいいくらいだ。


 というわけでみんながどうやって集まるかの情報共有もしておく。


「それで連絡手段なんだが……四番のスキルで何とかならないか?」


「なんとかなるぜ。だが条件がある。俺はある場所まで行かなければならない。意識が戻ってから、ずっとそれだけが心に引っかかっている。連れて行ってくれないだろうか」


 ……記憶の持越しをしている雰囲気ではないが、何かしらの使命に燃えている感じがある。流石の狂ったスキル持ちと言ったところだろうか。


 四番、彼のスキルは『連絡網』ともう一つ『愚民』がある。たぶんこっちの愚民がなにかしらの作用をもたらしているんだろうな。


『愚民:スキル。推しをどこまでも崇め続けることが出来る。推しのためならどんなことでも出来る。推しの次元はどこまでも』


 いや全然わからん。全然わからんけどたぶん推しが前回の世界でいて、その存在を感じ取ってるとかそんな感じなんだろうな。


 ん……? 推しが前回の世界にいた……? つまりこいつは前回の世界で生き延びていたと言うことか? 俺とあかねしか第三グループの生き残りはいなかったはずだが……。


「行きたい場所はあっちの方角にある。確かにあるはずだ、美しい、とても美しい湖とそこに住む可憐な水の妖精が」


「お前だったのか」


「何がだ?」


 そうか、水の精霊が逃げてきた理由ってこいつか。こいつどうやって生き延びたんだろう。訓練中に事故で死んだとばかり思っていたが死んだふりでもしていたのだろうか。


 それとも……愚民だから推しの許しなく勝手に死んではならないとかそういう? そしたらこいつシオリのループの影響の時ですらも若干記憶引き継いでいたんじゃないか?


 呪いの影響も推しにあってその神聖な存在を目の当たりにしたから解けたとかだったらある意味最強だぞこいつ。第一グループの誰かかと思っていたけどまさかのパターンだわ。


 ただ言えることは一つ。仲良くなれそう。


「協力しようじゃないか。俺はキミヒト、よろしくな」


「良くわからないがよろしく頼む。俺の名前はヒビキだ」


 周りがなんだこいつらという目で見ているが関係ない。前回を生き延びたやつがいるだけでなんだか嬉しいし、あの水の精霊に用があるやつを見つけられたっていうだけでも収穫ではある。


 そしてこの分だったら前回の世界で会っても大丈夫だっただろうな。自力で呪い解きそうだもんこいつ。


「じゃあ誰かこいつについて行ってやってくれ」


「お前が行くんじゃないのかよ」


「俺はこっちでまだやることがある。それに協力するのは……うんあとでわかるよ」


 だって一回水の精霊逃げるしな。お前自分がストーカー気質なの自覚しておけ。水の精霊はアイドルじゃないんだぞ。あの湖にいたのだって仕事じゃなくて趣味みたいなもんだったし。


 というわけでヒビキと共に海を渡る物好きな連中は好きにさせておく。どうやら連絡網のスキルは一度会ったことのある相手なら問題なく連絡が取れるらしい。ただしお互いに知っていないと出来ないという制限がある。


 非通知の電話には出ませんみたいな感じだな。それに関しては第一グループのメンバーに話しておけば問題ないだろう。使ってみた感じは本当に電話。グループ全員同時にかけることも可能なようでかなりごちゃごちゃしてた。


 あなたの脳に直接語り掛けようとしています。応答願えますかみたいな。


「んじゃ俺たちは行くよ。王女様ありがとうございました。王様との親子喧嘩大変そうだけど頑張って」


「こちらこそありがとうございました。面と向かってお父様と喧嘩できる機会が来るとは思いませんでした。重ねて感謝を申します」


「女神の使徒様も頑張ってくださいです!」


 王女様は魔法の力を取り戻したのでガチの喧嘩をする気だ。全身から闘志がみなぎるようで明らかに戦闘態勢。殴り合いでもするんだろうか。全力で身体強化してフルバーストかな。


 ローラは元気いっぱいに手を振ってくれて可愛い。癒される存在だわ。王女様がもうちょっと話聞いてくれない体勢だったらローラをダシにして色々吹き込もうと思っていたけどそうならなくてよかった。


 こんな良い子を……って王女様もう色々やってるからそれはもういいか。問題は王様が何のためにここまで勇者達を洗脳していたのかっていう所だな。その辺はもう王女様にぶん投げる。


 俺の仕事はおわった。任せたぜ王女様。王様が王女様の魔法力を封印したのもきっと呪い絡みなんだろうけど俺はロリ達を探しにいかなければならない。それでいいだろう。


 あとはギルドに行ってみんなで合流したら魔王討伐に向けて実力をつけてもらわなくてはならない。


 王都では敵が弱いので各々好き勝手に旅立ってもらおう。ユウキあたりがそのへんの事調べてもう仕切ってくれてそうだ。


「それで、私はどうして別にされたのでしょうか……?」


「本当に記憶残ってないのか?」


「前回の世界の記憶、でしたっけ。えぇ……特になにも」


 シオリは記憶が残っているかと思っていたがこいつ記憶無くしてるわ。あんまり役に立つような記憶を持っているわけでもなかっただろうから別に良いけど、リーベンの情報手に入らなかったのは面倒だな。


 もしくは時間が関係しているか。シオリが本来リーベンに送られるのはまだ先の話。そしてシオリが記憶を取り戻すのは元勇者のおじいちゃんに会ってからって話だったからな。


 それまで野放しにしておくのも若干気が引けるし、かといって連れまわすのもためらわれる。しかし本来のようにリーベンに送るわけにもいかないしな。

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