第180話 たまにはこんなのも

 説明が終わり少し経つと訓練が始まると言うことで兵士が全員を呼びに来た。


「おい、行く、ぞ……? なんだ? いやに綺麗になってるな。いやいいか、そういう魔法使いがいた、それでいい。私は何も見ていない」


 俺が浄化をかけてしまったのでみんなかなり綺麗になってしまっている。もし呪いがそのままだったら、戦闘でついた汚れや汗などで結構ひどかったものがそのままだったはず。


 だれか体綺麗にするように命令書き込んでおけよと思う。スルーするみたいだから別にかまわないけど。それにこの反応を見て俺は何かおかしいんじゃないかとようやく思い至った。


 この兵士達主体性なさすぎじゃねえかって事。不測の事態とまではいかないけど気にしなさすぎる。今回の召喚で色々おかしいことが起きてるから考えないということにしただけかもしれないけど。


 みんなの目に明らかに生気が戻ってても気にした様子が無いし諦めてるというか気にしないようにしてる説の方が濃いかな。これだったらあかねに探ってもらっておくべきだったかもしれない。


 流石に兵士全部も軽い洗脳されてるとかそんな事は……ないよね?


 そのままぞろぞろとみんなで第一グループに用意された訓練場に到達する。訓練場に着いたら勝手に訓練を始めるように書き込まれていたみたいだったので好き勝手に戦いを始める。


 しかしそこで問題が起こる。


「なんだこれは!? 昨日の比じゃないぞ!?」


 呪いが解けた影響でスキルが大幅に強化されている。俺の時もあかねの時もそうだったがこいつらの火力の上り幅はんぱねぇ。主に五番の火魔法が頭おかしいことになっている。


 こいつのスキルは『火属性特級』『魔法の才能』の二つだが、両方が強くなるということはシナジー効果が高いスキルなため急激に強くなってしまう。


 結果、大炎上。


「魔術師を呼べ! 水魔法で消化をするんだ! 急げ!」


 無機質な石造りの訓練場だったが石すら燃やすこの火力。あかんわ、街で戦ったドラゴンよりも明らかにやべぇ。威力抑えるように言い忘れてたわ。どうしよう。


 訓練を始めていた他の勇者たちも自分たちの身体の調子が良すぎることにかなり驚いていた。魔法を使える連中はその威力に、自分を強化して戦う連中はその強さに、それを眺めているフクザワもどうしたらいいかと困惑している。


 しかしみんな驚いてはいるが出来るという確信があったのか、スキル事態に驚いている感じではない。今日はめちゃくちゃ調子いいな!? みたいな驚き方。うん、お城燃やしてるんだからもうちょっと別の驚き方もして。


 俺は姿を消して見守っているためこっちに視線は飛んでこないが、兵士がどこかに行ってしまった以上どうすべきか迷っている雰囲気を感じる。


 うん。


 もういいか。やっちまってくれ。


「よし、みんな好き勝手暴れて王城を脱出してくれ。兵士が来ても流石にびびって逃げるだろ。もし逃げなかったら……こんがりやっちまってくれ。フクザワの回復があれば死にはしないだろう」


「まじですか」


「まじです」


「ファイトー」


 フクザワに伝言を伝え俺とあかねは第二グループの方に避難する。ここはこれから乱戦になるか崩壊するか、とにかく悲惨な現場になるので逃げの一択。あとは頼んだ。ギルドに行ってもやばそうならケイブロットに向かうようにも指示しておく。


 あそこなら王都の人来ないし探索者としてやっていけるからね。人ではいくらでも欲しい感じの街だしみんなダンジョンと聞けばやってくれるでしょう。


 第二グループの方に行くとこっちにもその混乱が伝わっていた。スキルの暴走だとか急激に強まる危険性があるのでやはり内容を確かめないととか集まって話し始めている。


 第一グループの訓練場はかなり頑丈で隔離されていたため伝わったのは混乱だけで王城全体にダメージは無い。もしこっちまでダメージ来てたら王城ぶっ壊した大罪人だよ。流石に王都の人々にもばれるっていうやばさ。


 第二グループの訓練場、というか最初に召喚された部屋には王女様とローラがいるのでこっそりと話しかける。こちらの状況は戦闘のイロハを叩き込んだところでそのまま戦闘行為を行うか、もしくは魔物の群れに叩き込むかでもめているようだ。


 王女様とローラは話し合いには参加させてもらえずただ見守っているだけだったので簡単に話しかけられた。


「王女様、それならここの魔法陣使ってみんなの呪い解けます?」


「もういいんですか?」


 俺はありのまま今起こった事を王女様に話した。王女様は驚いたというよりもあきれたという感じの表情で俺の話を聞いていたが、勇者たちが全員無事だったことに安堵している様子だった。


「わかりました。では」


 王女様はおもむろに魔法陣を起動させ呪いの術式を作動させる。


「王女様!? 何をなさるおつもりですか!?」


 慌てて兵士が止めに入るがもう完全に起動してしまっていた。話し合いが難航していたので気づくのに遅れていた。ローラが既に鑑定して、それでも結果は読めないということになっていたのだから仕方のないことだろう。


 まばゆい光が発生し、その光が勇者たちに降り注いでいく。それと同時に少しずつみんなの目に光が戻っていき、呪いや洗脳が解けていく。


「王女様! これは王様に対する反逆行為ですよ!」


「いいえ。私のお父様は人ならざる行為を行っています。間違いを正すべきは臣下の務めのはずでしょう? それを私が代わりに行っているだけの事です。お父様に報告するのでしたらどうぞご自由に」


「王女様にこれほどの魔力があるとは……」


 王女様は魔法が封じられていると聞いていたのだろう。兵士はビビりながらも王女様に意見を唱え、魔術師はあまりの魔力量に驚きを隠せない様子だった。俺も見てたけどこの王女様の魔力やっぱ相当だな。


 クロエやイリスほどではないだろうけど人間の中じゃトップクラスの実力者になるだろう。腐った王都を立て直すためには必要な人材だから魔王討伐任務に行くことはないだろうけど。


 そして混乱の波紋は大きくなっていく。急に正気に戻った勇者たちは全く状況が飲み込めず呆然としている。


「全員落ち着け! 勇者どもを逃がすな! 王女を取り押さえてもう一度術式を行え!」


「はっ!」


 しかしそこでまとめ役の兵士が声をあげる。たしかにこの混乱に乗じてもう一度洗脳を行ってしまえば最悪ここだけは押さえることが可能だろう。ただしそれを行うには王女を捕える必要がある。


 そしてそれをさせるほど俺は傍観する気はない。


「!? なんだ? スキルが発動しない!?」


 俺は新しく女神様から『防御』のスキルをいただいた。みんなを絶対に守りたいという大きな気持ちから生まれたこのスキルには、トオシと同じように拡大解釈するような意味が込められていた。


 防御にはどんな意味がある? 偉い人は言っていた。


 曰く、攻撃は最大の防御。


 曰く、最大の防御とは何もさせない事。


 曰く、守るだけが防御ではない。


 曰く、防御を反対にして相手にぶつければいい。


 俺が行ったのは四つ目。本来は人を守るべき防御の能力を、相手の周りに逆向きに発生させることによりその全てを遮断する。内側を守るのではなく外側を守るため魔力干渉やスキルの発動に必要な行動を何もさせないチート能力。


 破る条件は俺の防御をスキルを使用することなく貫く事、ただこれ一つ。不屈で耐久ガン振りの俺だからこそほとんどの相手をほぼ確実に無力化出来る最悪の能力。慈悲は無い。


 無力化した兵士たちを片っ端からあかねと共に昏倒させていく。スキルの力のない兵士はなすすべなく倒れていく。というか全ての衝撃が内部に貫通するため鎧を着ていようが関係ないの楽しすぎるな。


 全員を制圧し、王女様と勇者達に向き直る。


「王女様、説明お願い」


「わかりました。召喚されたみなさん、驚かれたかと思いますが……」


 王女様が説明している間俺は壁際に移動し壁にもたれかかる。死ぬほど疲れた。肉体的には全くつかれていないはずなのに動こうという気力が沸いてこない。鬱状態と倦怠感に襲われている。これが魔力枯渇状態か。


「キミヒト君、大丈夫?」


「なんとか、な。一応収納の中に魔力回復薬があったはずだから……」


 収納の中を漁る。食事が持ち込めていたので魔力回復薬も備蓄していたものがあった。飲み干して一息つくと倦怠感はほどなくして薄まっていった。


「はぁ……これでようやく、始まりだな」


「うん、お疲れ様」


 あかねに頭を撫でられる。たまにはこんなのも悪くないかもしれないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る