第179話 全うな訓練
「すげぇ……」
「やばいね」
ローラが時間を作ってくれたので第一グループの訓練を見学することにしたが、ここは異次元の戦いが繰り広げられていた。全員の全力によるスキルの使用、勇者同士の戦いで繰り広げられる激しい魔法の連続。それらが常に飛び交い一騎当千の化け物どもが作られていく。
というか全うな訓練してるんだなこっちは。もう少し何かあるかと思ったが基本的な立ち回りの書き込みを行った後はひたすらに組手というか勇者同士での実践。勇者たちの中には回復持ちもいるので怪我も気にせず行える。
流石に蘇生持ちはいないので死んだらどうにもならないだろうがステータスの関係で死にかけていてもかなりの時間生きていられるだろう。まじでチートの連中が集まってんなここは。
訓練は魔力が切れるまで行われたが、数時間の休憩後すぐにまた訓練が始まる。たぶんこれ睡眠時間とか限界まで削る気だわ。見張りの兵士がちょくちょく入れ替わってるからたぶん交代制だろう。
となると呪いを解くタイミングはいつになるのか……。そして俺もずっとこれを眺めているだけというのも結構しんどい。もはや座って見てるけど二日間ぶっ通しとかしてたらどうしようか。
そして全員がボロボロになるまで二日近くかかった。回復役の魔力が切れて回復し辛くなってきたことと、意思がないにも関わらず疲労の色が見え始め動きに精彩を欠くようになった。
「よしそこまで。六時間後また全員集合だ」
それだけ言って兵士はその場を去っていった。勇者たちもその場を去っていくので後をついていく。たぶん第二グループとは別の部屋に行くのだろう。ようやく見学から解放されこちらもだいぶ疲れた。
終わったら寝るわってくらい。ちなみに当然あかねは途中で寝てた。起きてても怖いから俺が寝ていいって言ったらすぐに寝たよ。
しかしこれなら全員の呪いを解いてしまってもよさそうだな。六時間後の訓練でそのまま城壊して出ていくようにお願いしよう。呪いを解けばスキルも本来の力を発揮できるようになるしな。
それにたぶん時間的にも第二グループに分けられたメンバーもまたあの部屋に行くはずだ。魔法陣も刻まれているので王女様が一気にやってくれるだろう。場合によっては護衛に第一グループ呼んでも良いな。
しかし問題もある。
「だれからやる?」
「それなんだよな……」
犯罪者で危険人物の九番は論外。となると他の勇者の呪いを解くことになるが、記憶が戻るので危険な行動をとる可能性がある。主にいきなり復讐に駆られてしまうやつとか。
部屋にまとめられている連中を見るとどれもこれもボロボロだ。無理やり押さえつけることも可能だが、それをすると良好な関係を築くのも苦労する。なので話が通じそうな奴から順にやっていく必要がある。
ちなみにユウキは正義感が強いのとあの恥ずかしい行動をしたので解くのは後回し。大丈夫かもしれないけど周りの惨状を見て今すぐにでも復讐に行ってもおかしくはない。となると回復役の十一番からかな。
見た目は男。ヒーラーと言えば女子が鉄板だが神父っぽい感じの男の人がパーティ支えているのも結構いい感じあるよね。ユウキ的にはグッと来なかったから聖女連れてたんだろうけど。
「んじゃあかね頼む」
「ほいほい。解放」
「……」
「……」
「……あれ?」
反応なし。どうした。鑑定。
『フクザワ:日本から召喚された勇者の一人。疲労から睡眠中』
ああそうか……一、二時間休憩があったとはいえ、二日近くもフル稼働で行動してたら疲れが一気に来るか。体力も魔力もほとんど使い切ってるもんな。そこに呪いを解いた負荷をかけたら気を失ってもおかしくないよな。
おっけー。何も怖いもん無くなったわ。すぐに暴れられないならどうにでもなる。
「あかね。九番以外全員やっちまおうか」
「九番はどうするの? あぁユウキ君に押し付けるんだっけ。おっけー任せといて」
というわけで全員を一か所にまとめてあかねに呪いを解いてもらう。全員さっきのフクザワと同じように解いた瞬間倒れるように眠ってしまった。見た目が結構悲惨な有様なので全員に浄化をかけておく。
男女比率は半々くらいなので一応男女別に固めておく。これでいいだろう。
「疲れたね。見張りは身代わりあかねちゃんにお任せして寝てていいよ? 感覚は共有できるから誰か起きたら教えてくれるし」
「便利すぎかよ」
というわけで俺達も一度寝ることにする。俺もずっとスキル発動しっぱなしでかなり疲れている。魔力をほとんど消費しないと言ってもスキル発動を常時行うのは精神的に負荷が大きいのがわかった。
あかねがずっと寝てるのはもしかして意思疎通のスキルは精神負荷だけじゃなくて情報入ってくるからさらに疲れるとかなのだろうか。それだったら邪険にするのも可愛そうになって……来ないな。あかねだし。
そんなことより身代わりの事を自分であかねちゃんって言っちゃうのちょっとはったおしたくなる。
「キミヒト君、起きて」
「あぁ……おはよう。誰か起きたか」
「うんおはよう」
時間はあれから数時間、まだ訓練の時間には早い時間なので充分。目覚めたのは最初に呪いを解いたフクザワだ。みんな日本の名前の方を名乗ってるのにこいつだけ名字なの若干違和感あるな。
「うぅ……僕は、いったい」
「おはよう、今何が起こってるか説明するからちょっと待ってな」
すこし辛そうにしているが今起きていることを大雑把に話す。というかこの後他の勇者にも話さなくてはいけない。最終的に起こす行動とかのタイミングは王女様に投げてしまうか。
勇者たちには全部の情報を話す必要はない。大筋は魔王が原因になっているという終着点と、王様がそのせいでご乱心状態で勇者を洗脳していること、そして王女様はみんなを洗脳から助けようとしていたと言う事を話せばいい。
「というわけでみんなが召喚されてから意識がなかったのは王様が魔王を倒すために行った行為なんだ。王女様は残りのみんなの術を解こうと頑張ってくれているよ」
「そうなんだ……。どうして君は大丈夫なの?」
「俺とあかねはちょっと別の事情があってな。その辺は後で話すよ。みんなも起きてきたし事情説明手伝ってもらえるか?」
「う、うん」
というわけでみんなに説明を始める。記憶が始まっている部分はみんな同じで女神様の空間の所からがスタートだった。最後まで成り行きを見守っていたグループだけにちゃんと話を聞いてくれるのはありがたい。
「なんか僕だけおかしな行動してる記憶があるんだけど……」
「それは知らん」
ユウキが何か言ってるがスルー。知らん知らん。
「それでみんなに提案なんだが、この城を脱出して実力をつけてもらいたい。ダンジョン潜っても良いし旅に出て遊んできてもらってもいい。ただ、半年後くらいに魔王の動きが活発化する日が来るんだ。その時だけ力を貸してほしい」
俺がそういうとみんな頷いた。素直すぎるだろ。いや確かにこの世界に来た理由それだし今さっき説明したけどもう少しごねられると思っていたよ。何もないならそれに越したことないけど。
消極的なメンバーではあるけどある意味積極的過ぎる。
「このメンバーで行動したほうがいいの? そうじゃないならどうやってみんなに連絡するの?」
質問が上がる。それは当然の質問なので回答は用意してある。というか勇者のなかにうってつけのスキルがあったのでそれを使わせてもらう予定だ。だがそいつは元第三グループ、つまり今の第二グループの中に紛れている。
「それについてはもう一つのグループに当てがある。どうやって使うかはまだ確認できてないけど出来ると思う。『連絡網』ってスキルだったら流石にみんなと連絡取れるだろうからな。なので明日、もう一つのグループが呪い解けたら脱出してもう一度集合して話し合おう。集合場所はギルドで」
たったの二十人程度、そして王城からの追手は余裕で蹴散らせる実力者たち。それなら王都にあってわかりやすく目立つギルドで良いだろうという考え。それにあそこは治外法権みたいなもんなので王様の兵士もやすやすと攻め込んでは来ないだろう。
王女様に足止めしてもらってもいいしな。最悪は全員ぶったおす。前の世界では呪い関係者全員死んでも王都は何事もなく運営されていたようだしその選択肢もありっちゃあり。今回はそんなひどいことされてないからみんな乗り気にならないだろうからたぶんそうならないと思うけど。
納得するまで説明し賛同を得ることが出来た。みんな理性的というか流されやすい性格だから非常に楽でいい。俺もその一人だからよくわかるけど、仕切ってくれる人いてその人が真面目に取り合ってくれるならついていくのが楽でいいよね。
みんなの事助けたから信用もそれなりにあるのも大きい。あとは明日、第二グループの呪いを解いたらようやく色々行動できるようになる。
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