第184話 マジトーン
「フラフィーの話ではそんなに遠い感じでもなかったんだよな」
「この辺森いっぱいあるもんね」
俺達は宿屋の予約をして暗くなるまではフラフィーを探すことにした。とりあえずケイブロット方面とは別の方向の森の中を進んでいく。理由としてはケイブロットに向かう時にそんな場所は無かったこと、フラフィーが迷っていたっぽい事が挙げられる。
土地勘があれば魔物に襲われていても逃げるくらいならできただろう。結構な量の狼だったけどフラフィーが盾を持っていなかったら撒けてもおかしくはない。もしくは自分を捨て駒とかにしようとしていた冒険者の事を心配してしまっていたとか。
「あかね、それっぽい声とか聴こえないか?」
「うーん、特にないねぇ」
あかねの意思疎通を同時に使って色々調べてもらっているが成果はよろしくない。知能の高くない魔物を仲間にして偵察してもらっているが、それでも見つからないとなるとこっちじゃないのだろうか。
もしくは結構近いかと思っていただけでめちゃくちゃ遠い所にあるとか。場所とかもうちょっと詳しく聞いておくべきだったな。ケットシーがいるとかそんな話もあった事だし神話的なものが……ああ王都に図書館あったじゃん。
「王都の図書館にいってケットシーの事でも調べてみるか?」
「そうだね、この辺の魔物たちから盗み聞きしても全然それっぽい情報ないからそっちのほうがいいかも」
というわけで一旦切り上げて王都にある図書館に向かう。兵士たちが常駐しているがこっちの兵士はたぶん王女様関係か兵士長関係だろう。どの人も見たことない顔している。
兵士っぽい装備してるだけで王城関係者じゃない可能性もあるけど。
「すいません、ここに神話の魔物とか書いてある書物ってありますか?」
「あちらの棚にあります」
受付の人に教えてもらい神話の魔物の書物を漁ってみる。そこには海の怪物リヴァイアサン、空の怪物フェニックス、陸の怪物ベヒーモス等の実在しているとされているポピュラーな者たちも書いてあった。
神獣ってなると種類も多いし見て回るだけでも楽しそうだ。前回の世界では自分でも出来そうなこととか魔法の事を調べていただけだったからこっちは全くみていない。
「お、あった」
猫の姿をしていると聞いていたが、ここに書かれているのはどちらかと言うと獣人に近い見た目の獣だった。人語を理解するが人に対して姿を現す事は滅多にないという。獣人に対して幸運を司り信仰対象になっている地域もある。
まんまフラフィーに聞いていた通りの感じだ。他に有益な情報は……ないな。
「どう?」
「いや、やっぱ神獣の生息地とか書いてないわ」
「だよねー。じゃあまた足で探すのかぁ……。宿屋でごろごろして身代わりに任せていい?」
「それをやったら流石に軽蔑するわ」
「私も言っておいてないなって思った」
仕方ないな。こうなったらひたすらに探し回るしかないわ。王都を中心にして四方に街があるから、こっちから向かって戻ってを繰り返すか。
本来初めてフラフィーに会うまでに数カ月以上あるわけだし良いだろう。ちょっと寂しいけどこれしか方法がないならもうどうしようもない。
俺が王都にいるのはみんな知ってるから会いに来てくれる可能性もあるけど、ただじっとし続けているのは嫌だしな。せっかくなら迎えにいって感動の再会としゃれこみたいぜ。
「でも私は当分二人きりでもいいけどね」
「あー、まぁ悪くはないな」
「お、キミヒト君もあかねちゃんの魅力にやられちゃいましたか?」
「それはないけどあかねがいるとなんか安心感あるしさ。それにまだ嬉しさが抜けきってないというか」
「引きずりすぎじゃない? マジトーンで言われると照れるんだけど」
「そう言われてもな」
このただの雑談のようなやりとりが出来るのが本当に嬉しいんだよ。大切にしてる人を一気に三人失った時の絶望まじでやばかったんだからな。あかねが最初にいなくなったからその幸せを今でも噛み締められる。
みんなにも早くあかねの無事を教えてやりたいぜ。記憶があるよな流石に。
結構良い時間になったので適当に食事をして一旦宿屋に帰る。街はまだ明るいので教会にもう一度行くには早い時間帯かもしれない。まだ少しくらい人は残っているだろう。
ループ直前に向かった時はガチ深夜だったからな。あのくらいの時間までとりあえず待つ。そうすれば女神様だって来てくれるだろう。
いやもういいか、教会でずっとお祈り捧げてひたすらに人がいなくなるまで待つか。女神様に会いたすぎてじっとなんかしてられないわ。
「あかね、俺今から教会いくけど来るか? 女神様に会えるかわからないから待っててくれてもいいけど」
「行く行く。ちゃんとお礼言いたいもん。今度は来てくれるといいね」
というわけで俺達は教会へと足を運ぶ。そしてその途中にものすごく見覚えがあるようなないような人物と出会った。というか角から飛び出して来たためぶつかってしまった。
「おおすまんすまん。大丈夫か?」
「ええ、はい。でもいきなり飛び出してくるのは危ないですよ。子どもだったら怪我します」
当たったのが俺だったから良かったものの、身長が百四十以下の子どもだったらぶつかって転んでいてもなんら不思議ではない勢いだった。この街には子どもだって多くいるんだからちょっと苦言を呈しておかねばならない。
このあたりは教会も近いため子どももお祈りに良く来る。時間的に見かけないけどそれでも飛び出しは褒められた行為ではない。もし子ども吹っ飛ばしてるの見たら子どもめちゃくちゃ手当するわ。
「本当にすまん。ちょっと急ぎの用があってな……奴隷が不当に扱われていると聞いてしまって。助けるなら急がなくてはいけないだろう?」
「ああそれは……。お気をつけて」
そう言ってその男は去って行った。そういえばこの街は奴隷反対の人が多く住んでいるんだったな。そんな話を最初の時に聞いた気がする。今回も奴隷絡みで何かあるんだろうか。
それなら勇者の誰か残しておくべきだったかもしれないな。
しかし今の奴すんごい見たことあるな……。あんないい感じのおじさんを見て忘れるのは中々ないとは思うんだが。この街にはなんだかんだで顔見知りいっぱいいるしその中の誰かだろう。
名前も思い出せなくて済まない。
というわけで教会へもう一度来た。俺たち以外には三人しかいないからすぐに誰もいなくなるだろう。神を信仰する気持ちは安心感につながるからこれからもその気持ちを大切にしてほしい。どこから目線って感じだけど女神様信仰しているから間違いないよ。
数十分もすると教会から人は居なくなり俺とあかねだけになった。教会の中だけあって人がいなくなると静かで独特の雰囲気を醸し出している。やっぱり何かしらの方法で清浄な空気を保っているんだろうか。
じゃあお祈り。
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