第159話 女神教徒

「さて行くか」


「やっぱりほぼ準備無しで行けるって言うのは中々冒険舐めてる感じがしますね。もう慣れましたけど」


 俺達は起きた後自分たちに浄化魔法をかけて出発の準備をしていた。装備の点検、たったそれだけだが。食料の買い出しや野営の準備などは全て俺の収納に入っているし、王都へ向かう森なら強い魔物も出ない。


 なにせ六人分の食料やらなにやらを買っていたからな、まじで何も準備が必要ない。なのでぱっと見手ぶらになっているのがやばいが、街の外に出たら流石に完全武装するから街の中はこれでいいだろう。


 モンペリエが襲撃された情報がこっちの街まで流れてきたら慌ただしくなる。馬車で十日程度の距離があるが、活発化した魔物と魔王軍が相手だったらそんな距離もすぐだろうし戦う必要が出てくるだろう。


 この街にはお世話になったが、俺の力じゃもうどうしようもない。それなら俺は自分の用事を済ませる行動をとる。純粋に気になると言うのもあるし。


「キミヒトさん、もし罠か何かだったらどうするんですか?」


「その可能性は低いと思う。俺を誘い出すには充分すぎるほどの内容だけど、罠にかけるならそれこそ奇襲でもかけたほうが早いからな。そんな意味もないし」


 俺を確実に呼び出すだけならフラフィーをさらったりとかな。そんなことしたら話し合いはもう不可能になるだろうが。俺の生きる目的はもうフラフィーを守ってやることくらいしかなくなってしまっている。


 タイミング的にクロエとイリスを警戒してっていうのだったらわからなくもないけど。


 この謎の人物が俺を呼んで何をしたいのかはわからないが、俺が力になれるとは全く思えない。勇者の中でも戦力がかなり低くそれでいて逃げ出した俺が。


 色々考えたが俺達は王都に向けて出発……しようと思ったけどせっかくだし王都に行く前に女神様に挨拶していこうかな。王都の教会でもいいけど集合場所だし会えない可能性もある。


 だったら今確実に人がいない教会で会っていくのがいいだろう。一応世界の現状とか勇者がいないからどうなっているかを伝えておきたいし。神はあんまり干渉しないとか言ってたけどなんかしちゃいそうな雰囲気ある。


 それにもしかしたらここに戻ってこられない事も考えるとこのぼろぼろになっている教会を見ておきたいし。見納めとかいうと縁起でもないけど実際そうなるかもしれない。


 というわけで教会についたのでお祈り。


 ……そういえば感謝しなくても呼んだら会えるのだろうか? モンペリエに行く前に感謝して色々伝えたけど、その後に起きた良い事はほとんどないからな。


 かと言って恨み言を言うつもりもなければ女神様にそんな事を言うのは女神教徒的にありえないし、言ってるやついたら俺がぼこぼこにするレベル。とするとどうだろうか、俺が女神さまに今できる事は何もないのでは?


 懺悔室みたいなところもあるにはあるけどボロボロすぎて外から中見えるほどだし懺悔するって気分でもない。懺悔したところで特に意味があるわけでもないし懺悔ならロンドの連中にがっつりしたわ。


 女神様に会って心の平穏を少し感じておきたいところではあるけど無理ならいいか。いくら忙しくなくなったからと言って暇になったわけでもないだろうし。今まで頻繁に会いすぎてたんじゃないかと今更ながらに思う。


 なのでとりあえずフラフィーと一緒に形だけのお祈りをする。


「信者一号の呼び出しなら来ないわけにはいきませんね」


「女神様。おはようございます」


 だいぶフットワーク軽いな女神様。ありがとうございます。


「こ、この方が女神様……!? は、初めまして!」


「かしこまらなくてよいのですよ、迷える子羊……いや子猫よ。ラフに接してくれればいいよぉ」


 一瞬だけ神々しさと美しさを出していたが、すぐに空中にうつぶせに寝転がって

気を抜き始める女神様。あれ、なんかお疲れモードじゃない?


「どうしたんですか女神様?」


「いやー、あなたたちのおかげで神様的なランクがもりもり上がって仕事が減っていったまでは良かったんだどね、今度はランクが上がりすぎて新人の育成までやらされることになってむしろ仕事量増えたというかなんというか……」


 ふよふよと浮かびながら枕に顔をうずめて愚痴をこぼしだす。どうやら下っ端から中間管理職近くまで一気にランクが上がったみたいだな。それなら確かに普通に仕事してるだけよりもずっと疲れるだろう。


 って枕持参って事はこれ普通にさぼりに来ただけだろ。俺が呼んだからって絶対口実だこれ。


「神様も大変なんですねぇ」


「はいー。なのでこうやって休むためにちょこちょこ理由もなく呼び出してくれるとさぼれて嬉しいんですよー」


「……神々しいのにあかねさんみたいにダメな人だ」


 あまりのぐーたらっぷりにフラフィーからも突っ込みが入る。信心深い獣人からもこう言われるって相当な気がしてならないけど、実際に相当な感じだから仕方ないと言えば仕方ない。


 姿勢だけじゃなく見た目もなんだかちょっと疲れ気味に見える。服装とかは神々しさ保ってるけど髪がぼさぼさになり始めてる感じがとても苦労人な感じ。敬うけど気楽に接することが出来る変な女神様だよほんと。


「それで信者一号はどんな用事だったんですか? いつもの煩悩に塗れた感じの感謝がないのは結構な違和感を感じました。そういえば他の子が見当たりませんが置いてきたんですか?」


「ええと色々と関わって来るんですが、まずは今この世界がどうなってるのかの説明からさせてください。主に勇者と魔王に関するお話なんですがいいですか?」


「うんいいよー、さぼりたいから長い話でもばっちこい」


 この女神まじでてきとうすぎる。だから結構好きなんだけどな。

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